スーパーフォーミュラ 富士公式テスト
ただ買って組み付けるだけではダメ。ハイレベルなスーパーフォーミュラで勝つために求められる「高精度のパーツ管理」とは
非常に僅差でハイレベルな戦いが繰り広げられているスーパーフォーミュラ。ワンメイクカテゴリーが故にわずかな違いが大きな差を生むが、そのひとつとして「パーツ管理」の精度が挙げられる。
戎井健一郎
公開日時: 2024/07/12 8:30
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Tomoki Nojiri, TEAM MUGEN
写真:: Masahide Kamio
国内最高峰のシングルシーター選手権であるスーパーフォーミュラ。車両、タイヤがワンメイクであるため、「ドライバーの腕が勝敗を分ける」とよく標榜されるが、実際のところはチーム力も勢力図に大いに影響を与えている。実績や才能が評価されているドライバーでも、リソースに限りのあるチームでは上位進出に苦労することもしばしばだ。
そんな中でここ数年高いチーム力を見せているのが、TEAM MUGENだ。2021年には野尻智紀をドライバーズチャンピオンに導くと、2022年にはドライバー(野尻)とチームのダブルタイトルを獲得。昨年はドライバーズタイトルこそ逃したものの、野尻とリアム・ローソンが共に王座を争い、チーム部門ではライバルに大差をつけて2連覇を成し遂げた。今年も野尻と岩佐歩夢のコンビでダブルタイトルも射程圏内に捉えており、誰もがライバルとして意識するチームになっている。
そのため、富士スピードウェイで行なわれた公式テストの事前会見の際も、多くのチームがTEAM MUGENの強さについて口々に語った。TEAM MUGENはいわゆる“速いクルマ”を作り上げるための、迅速かつ正確なデータ解析を活かしたセットアップ能力に定評があるが、実はそれだけではないという声も聞こえてくる。彼らは“パーツ管理”に長けているというのだ。
パーツ管理……これは平たく言えば、スーパーフォーミュラで使われる部品の僅かな個体差による特性の違いをしっかりと把握すること。それがひいては、精度の高いセットアップに繋がってくるのだ。
“個体差”というと、あたかもダラーラが提供するSF23のシャシーの中に欠陥品があるかのように聞こえてしまうが、そもそもレーシングカーは一般車と比べて部品ひとつひとつの精度が高く、個体差の許容範囲も小さいという。しかしながら、車両を組み上げた際に、それらのパーツのわずかな誤差が積み重なっていくと、車両運動的には無視できない差になってしまう恐れがあるというのだ。非常にハイレベルで接近した戦いが繰り広げられるスーパーフォーミュラでは、なおさらだ。
これについて、TEAM MUGENで野尻を担当する一瀬俊浩エンジニアは、次のように説明する。
写真: Masahide Kamio
「スーパーフォーミュラの車両は、僕らが乗る一般車よりも部品1個あたりの精度は高いですが、工業製品なのでどうしても公差(製品として出荷する際に許容される誤差の最大値と最小値の差)があります」
「その公差が、例えば部品1個あたり±コンマ数ミリだったとしても、前からフロントウイング、ノーズ、モノコック、エンジン、ベルハウジング、ギヤボックス、(クラッシャブル)ストラクチャーと繋がっていく中で、結構な差になってしまいます」
「その差をしっかり管理しておかないといけません。ただ来たものを組み上げるだけでは、同じように走りません。車両の幅などが違えば、クルマの動きが違ってきますから」
また野尻も次のように語る。
「フロントウイングひとつにしても、フロアひとつにしても、買ってきて付けてみると、同じではないんですよね」
「海外のレースだと、資金力のあるチームはウイングを10個くらい買って比べたりだとか、インディカーではギヤボックスも複数用意して、最もフリクションの少ないものをインディ500で使う、といったこともあると聞きます。パーツ個々の差というのは微細なものですがチリツモで、ひとつの車として組み上がった際に大きくなってしまうので、そういったものを管理する必要があるんです」
上記の理由から、TEAM MUGENはパーツの個体差の把握には人一倍気を遣っているという。一瀬エンジニアによると、パーツの加工を発注する際には「例えば加工屋さんに対して、『ここの厚みはすごく重要なので、±0.001mmの範囲に抑えてください』とか『ここは全然気にしないので±1mmで大丈夫です』などとオーダーしています」と、細かく注文をつけているそう。
そして重要なエアロパーツであるウイングに関しては、定盤(計測台)である程度の誤差を把握した後、テストなどを活用して実際どのくらいのダウンフォースが出ているかを確認。それを踏まえた上で、例えば通常よりもダウンフォース量が少ないものであれば、車高設定でそれを補うなどの対策を考えていくことになる。
その好例と言えるのが、2022年末の鈴鹿テスト。この時は翌年から参戦することになるリアム・ローソンが、同年に笹原右京が乗っていた水色のBINGO号のステアリングを握ったが、フロントウイングだけ赤の野尻号のものを装着する場面があった。一見すると奇妙な光景だが、これはまさに個々のウイングによるダウンフォースの出方の違いを確認していたのだ。
写真: Masahide Kamio
「個体差は絶対にあるものとして、それを把握した上で、間違わないように使うということをやっています」
一瀬エンジニアはそう語った。
こういったパーツ管理の重要性を把握しているのは、何もTEAM MUGENだけではない。大嶋和也の1台体制で参戦するdocomo business ROOKIEの石浦宏明監督も、パーツの組み付け精度でパフォーマンスが大きく左右されると語る。
石浦監督は、前戦SUGOでクラッシュした大嶋のマシンを修復するにあたってのことを会見で尋ねられ、こう答えた。
「あのクラッシュからの修復に関して言えば、現地でぱぱっと組めば数時間で元の形になって普通に走ることはできるんです」
「ただ、ガレージでひとつひとつチェックしながら精度高く組んでいくことで、出せるパフォーマンスは大きく違います。1000分の1秒を争うスーパーフォーミュラという厳しい世界で上に行けるかどうかは、あそこに全てが詰まっているとも僕は感じています」
「ルーキーレーシングは今成長してきていて、ひとりひとりがそういう意識を持って、心を込めてパーツをチェックしているので、そこが最近大嶋が速さを出せている要素につながっていると思います。それを継続して良い精度でクルマを組み上げ、パフォーマンスを出せるようにしたいです」
写真: Masahide Kamio
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