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スーパーフォーミュラ
このままではスーパーフォーミュラがなくなってしまう……関係者の強烈な危機感が生んだアプリ『SFgo』開発秘話。無線公開はファンの声も後押しに
スーパーフォーミュラで今季から正式導入されているデジタルプラットフォーム『SFgo』。ファンの視聴体験を大きく変えるこのアプリケーションはどのようにして生まれたのか? その開発秘話を聞いた。
戎井健一郎
公開日時: 2023/07/12 7:22
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2021年10月の『SUPER FORMULA NEXT50』プロジェクト発足以降、様々な変革を行なってきたスーパーフォーミュラ。それらの変革の中でも大きな柱のひとつとなっているのが“デジタルシフト”であり、そのデジタルシフトの根幹をなすものと言えるのが、既にファンの間ではお馴染みとなっているデジタルプラットフォーム『SFgo』だ。
SFgoは各セッションの中継映像に加えて、各車の車載映像やテレメトリーデータ、さらには無線交信なども楽しむことができるアプリケーションであり、昨年の試験導入を経て、2023年シーズンから正式にローンチされた。これによりファンが得られる情報は格段に増えることとなり、まさに新たな視聴体験を提供していると言える。
そんなSFgoは、どのようにして形作られ今に至るのか? スーパーフォーミュラを主催する日本レースプロモーション(JRP)の担当者に話を聞いた。
■NEXT50プロジェクト、SFgoアプリ誕生の源泉は「強烈な危機感」
そもそも、NEXT50プロジェクトが発足したきっかけとなったのは、観客動員に苦しむスーパーフォーミュラ関係者の“危機感”だった。
スーパーフォーミュラではホンダ、トヨタの2社がエンジンサプライヤー、そしてシリーズパートナーとして参画しているが、トヨタ自動車の豊田章男社長(現在は会長)はコロナ禍となった2020年、「スーパーフォーミュラの面白さが全く伝わっていない」として、本田技研工業の八郷隆弘社長(当時)に直接連絡してメーカーの垣根を超えての協力を呼びかけた。
そんな関係者たちの思いが徐々に形になっていったのが2021年で、その頃にはホンダ、トヨタの両社から1名ずつがJRPに出向し、それぞれの役割に従事することになった。トヨタから出向した柳澤俊介氏はJRPのマーケティング部長に。そしてSFgoの開発を取りまとめることになったのが、ホンダの横野翔太氏だった(注:横野氏は2023年7月よりホンダ・レーシングに帰任)。
JRP出向前はホンダのモータースポーツ部に所属していた横野氏。メーカーの人間としてスーパーフォーミュラに関わっていた頃から、「このままではスーパーフォーミュラがなくなってしまう」という危機感を覚えていたという。
「メーカーとして、そしてJRPとしてスーパーフォーミュラに関わって分かったことは、みんなが無理をして、苦しい台所事情の中でコストを負担して頑張っていて、このままではサステナブルではない、ということでした」
横野氏はそう語る。
Photo by: Masahide Kamio
「メーカーはメーカーで、ものすごい投資をしてこのレースを成り立たせているわけですし、JRPにも潤沢なリソースがあるわけではありません。そして何より、一番厳しいのがチーム。みんなが無理をしている中で、どれかひとつが成り立たなくなった時にこれが全部崩れてしまうという危機感が強烈にありました」
「このままではスーパーフォーミュラが消えてしまうという危機感に関しては、ホンダ、トヨタ含めて関係者全員で共有ができていたので、『みんながもう少し頑張る』のではなく、仕組み自体を変えて、スーパーフォーミュラの価値を上げてスポーツビジネスとして成り立たせよう、ということになりました」
■ファンの声が後押しした、無線交信の公開
かくして発足したNEXT50プロジェクト。スーパーフォーミュラを盛り上げるために何が必要かが様々議論されたが、その中でSFgoの構想が持ち上がったのは、スーパーフォーミュラの“分かりづらさ”にあった。
「私自身、F1が好きでホンダに入ったという経歴があるのですが、スーパーフォーミュラはとにかく分かりづらく、得られる情報がとにかく少ないと感じていました」
スーパーフォーミュラは基本的にはワンメイクカテゴリーであり、エンジンメーカーは2社あるもののそこに開発競争があるわけではない。それにフォーミュラカーは一般車とは全く異なる姿形をしており、いわゆる“クルマ好き”に訴求するのも容易ではない。一体誰がすごいのか? 誰を応援すればいいのか? 観る者にそう思わせないために、ある種の“道しるべ”を示すために作られたのがSFgoと言っても過言ではない。
2021年10月のプロジェクト発表会の段階でローンチが予告されたSFgoだが、「あの時は僕がパワーポイントで作った画像があるだけで、何か形があるわけではなかった」と苦笑する横野氏。そこからハード・ソフト両面での様々な検討・開発が進み、約半年後の2022年春には一部ユーザーに向けた試験導入にまでこぎつけた。
実はテレメトリーデータの送受信に関するノウハウは、ホンダの参加型モータースポーツプログラム『Honda Sports & Eco Program』(現在の『Honda Sports Driving Program』)で使われていたものがベースとなっている。その開発に従事したM-TECの担当者と横野氏は連携し、どのようなデータを抽出できるのか、またどのようなデータがファンに楽しんでもらえるかを検討していった。
ただやはり、SFgoの構成要素として最も大きな反響を集めているのが、決勝レースにおける無線交信の公開。これにより、レースを戦うドライバーたちの緊張感あふれるやり取りや、個性豊かな言葉の数々を楽しむことができるようになった。
この無線交信、SFgoに組み込むには相当なハードルがあったようだ。現に、オンボード映像や各種テレメトリーデータは2022年の試験運用時から導入されていたものの、無線は2023年の本導入に合わせて組み込まれる形となった。
無線の導入を難しくした要因は複数あるが、まず大きかったのが技術的なハードル。横野氏曰く、レース中の無線音声を“垂れ流す”ようなシステムを構築することは簡単だったというが、それをリアルタイムで全て追いかけるのは至難の技。やはり後々個別で振り返られるような仕組みが必要だった。
そこで導入したシステムが、それぞれのチームが無線交信をしている部分だけを自動で切り抜き、それを残していくというもの。このシステムの構築に時間がかかったというのが大きかったという。
そしてもうひとつの大きなハードルが、チームからの理解を得ることだった。チームにとってはこれまでプライベートだった無線が公開されてしまうことで、戦略などが筒抜けになってしまうことの懸念があったようで、横野氏も「色んな声をいただいた」という。
しかしそんな状況の中で後押しとなったのが、ファンの声だった。JRPは昨年、SFgoの試験導入にあたり、一般公募の『開発サポーター』を募った。最終的にはファンの有志600名が開発サポーターとなり、実際にSFgoを使用して様々なフィードバックをした。
その中ではやはり、無線の導入を求めるファンの声が特に多かったという。このことには背中を押されたと横野氏は言う。
「昨年は開発サポーターの皆様から意見を聞きながら、何を喜んでもらえるかという点で優先順位をつけていきました。やはりその中で一番多かったのが、無線を聞きたいということでした」
「自分たちとしても、F1同様に(無線の配信を)やりたいと思っていましたが、チームにとって無線を聞かれるということは戦略面でもハードルが大きいことは分かっていました。実際チームさんからも相当いろいろな声をいただきました」
「ただそこで『ファンが聞きたいと思っているからやるんです』と言えたのは、ファンの皆さんの声があったからです」
「SFgoを導入してからは、レースで何が起きているかが分かりやすくなったというお声もいただけるようになりました。何より、無線が公開されると戦略がバレるという声もありましたが、今季ここまでのレースを終えて、結局は速いチームが勝つということは証明できたと思っています。(無線を)導入してからは『なぜ導入したんだ』という声は一件ももらっていないですし、やって良かったと思います」
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