松下信治はなぜシーズン途中でスーパーフォーミュラのシートを失ったのか? 本人も覚悟していた“その日”が来るまでのコト

スーパーフォーミュラ第4戦富士を前に、TGM Grand Prixを離脱する形となった松下信治。彼が急転直下で今季のシートを確保し、そして失うに至るまでの背景や事情……ここまで分かっていることを整理する。

Nobuharu Matsushita, TGM Grand Prix

Nobuharu Matsushita, TGM Grand Prix

写真:: Masahide Kamio

 7月4日、スーパーフォーミュラを戦うTGM Grand Prixが第4戦富士から55号車のドライバーを変更することを発表。これに伴い、松下信治はシートを失う格好となった。

 かつてFIA F2で結果を残し、日本に戻ってからもスーパーフォーミュラ、スーパーGTで実績を残してきた松下がシーズン途中でシートを失うというニュースは大きな反響を呼んだ。では、その背景にはどういった事情があったのか? それについて、TGM Grand Prixの池田和広チーム代表の新たな証言も交えながら改めて振り返っていく。

 話は昨年末まで遡る。松下は2020年途中からB-Max Racingに所属してスーパーフォーミュラを戦ってきたが、2023年末に発表されたホンダの2024年スーパーフォーミュラ参戦体制では、1台体制に縮小されたB-Maxのシートにはホンダの育成ドライバーである木村偉織の名前が記されており、松下の名前はなかった。当時はまだThreeBond Racingの1台とTGM Grand Prixの2台のシートが未定だったが、年明けにはThreeBondに三宅淳詞、TGMの53号車にJujuが乗ることが発表。残すはTGMの55号車のみとなった。

 そもそもTGM Grand Prixはホンダエンジン搭載チームではあるものの、メーカーの後ろ盾がないプライベートチームであり、「ホンダがサポートする契約ドライバーが乗るチーム」という立ち位置ではなく、基本的にはドライバー自身がレース活動費の基となるスポンサーマネー等を持ち込むことでチーム運営が成立するという形。そういった事情もあってTGMは当初、外国人ドライバーを基本線にドライバー探しを行なっていた。

 開幕前に交渉していたドライバーとしては、F2チャンピオン経験者や優勝経験者といった有力ドライバーの名前が挙がっていたが、いずれも交渉成立には至らず。2月に鈴鹿で行なわれた開幕前テストにはラウル・ハイマンを起用したが、こちらも最終的に合意には至らなかった。

 そして3月の開幕戦を前にして、チームは55号車のドライバー候補がいないという事態に陥った。その中でチームはなんとか、開幕3戦分の活動資金を捻出したという。あとは実力あるドライバーを起用して序盤3戦でしっかりと結果を出すことで、フルシーズンを戦う資金を得る足がかりにしたい……そんな思惑の中で白羽の矢が立ったのが、シートのない松下であった。

 池田代表としても、当然フルシーズンを戦えるように努力はすると伝えたものの、松下に対して確約できるのは3戦だけであった。それでも松下にとっては、降って湧いたような大きなチャンス。松下は当時、この喜びを次のように語っていた。

「フォーミュラに乗れないことは結構ショックだったので、自分にとってこのチャンスは何というか……ありがたいとしか言いようがないですし、嬉しいですね」

写真: Masahide Kamio

「ヨーロッパから帰ってきて、ラッキーなことにB-Maxさんで乗らせていただきましたが、まだ1勝しかしてないし、自分的にはもっと、それ以上のところにいきたいと思っています。それには乗らないことには始まりませんし、活躍の場があるということに感謝しています」

「池田さんにも信じて乗せていただいているわけですし、期待に応えるためには優勝やチャンピオン……そこが何としても大事だと思うので、頑張りたいですね」

 チームの母体は、かつては“黒子”的な存在としてTEAM MUGENなどのエンジニアリングサポートで評価を得ていたセルブスジャパン。松下にとっても不足のない体制と言えたが、チーム、ドライバー双方にとって誤算だったのは、開幕から大きく躓いたことだった。池田代表も「自分たちスタッフとしても、ここまでハマったことはなく、ワースト3に入るような状況」と語る。松下の開幕3戦のリザルトは8位、16位、19位……。好結果を残せないまま、“タイムリミット”が来てしまった。

 松下がSFのシート喪失とチームへの感謝を述べたSNS投稿の中で「開幕した段階から、この日が来るのを覚悟していた」と綴っているのには、こういった背景がある。

「トップフォーミュラですから、実力のある選手を固定して1年間起用することが望ましいのは確かですので、(シーズン途中のドライバー変更が)興行的に良い事ではないという点は反省しています」と語る池田代表。しかしチームのリリースにもある通り、「チーム運営の安定性と持続可能な体制作り」を実現させるためには、再び新たなドライバーを見つけなければいけない局面となったのだ。

 なお7月7日からスタートする富士合同テストでは、55号車のドライバーとして大津弘樹と大草りきが起用される。しかし池田代表によると、これは第4戦のドライバー選定に向けたオーディションではないといい、あくまで今季ここまで55号車が抱えてきた問題点を洗い出す評価テストという側面が強いという。なお初日に大津、2日目に大草が走る予定だ。

 チームは引き続き、外国人ドライバーと交渉している。それも、過去にチームでドライブした経験のないドライバーだというが、「どのくらいの確率で決まるか怪しい部分もある」と池田代表は言う。では富士戦で1台体制になってしまう可能性もあるのかと質問が飛ぶと、「スーパーフォーミュラ参戦にあたっては、JRPさんとの参戦契約、エンジン契約、車両を買ったリース契約など、色々な契約で縛られているという責任がありますので、何があっても続ける義務があると思います」と答えた。

 昨年同チームから参戦した大湯都史樹のように、実績と人気のあるドライバーがシーズン途中でシートを失うという事例が2年続けて発生した。実力あるドライバーを評価したチームが、正当な報酬を支払ってそのドライバーを起用するという流れが当然理想的……ただこの現状は、メーカーのサポートを得られないドライバーがインディペンデント枠でスーパーフォーミュラに参戦することの難しさを物語っていると言える。

 

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