S耐チャンピオン獲得の舞台裏:“嫌われ役”星野一樹の愛弟子への想い

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S耐チャンピオン獲得の舞台裏:“嫌われ役”星野一樹の愛弟子への想い
執筆: 吉田知弘
2018/12/26 8:01

今シーズン、スーパー耐久のST-Xクラス王者に輝いた#99 Y’s distraction GTNET GT-R。チームメイト同士、チームスタッフ同士が信頼と自信をひとつずつ深めていきながら獲得した王座だった。

#99 Y's distraction GTNET GT-Rの浜野彰彦(左)、星野一樹(中央)、藤波清斗(右)
#99 Y's distraction GTNET GT-Rと#98 FLORAL CIVIC TCR
星野一樹(#99 Y's distraction GTNET GT-R)
2018富士SUPERT TEC24時間レース スタート
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
総合優勝を果たした#99 Y's distraction GTNET GT-Rのメンバー
#24 スリーボンド 日産自動車大学校 GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
浜野彰彦、藤波清斗、星野一樹(#99 Y's distraction GTNET GT-R)
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
浜野彰彦、星野一樹、藤波清斗(#99 Y's distraction GTNET GT-R)
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
#99 Y's distraction GTNET GT-R
浜野彰彦、星野一樹、藤波清斗(#99 Y's distraction GTNET GT-R)

 2018年のスーパー耐久シリーズは、これまでになかった要素がたくさん加わり“新たな1ページ”を刻むシーズンとなった。

 まずは大きな変更点となったのがタイヤだ。2017年までの横浜ゴムのワンメイクに代わり、ピレリが新しいオフィシャルタイヤサプライヤーに就任。各チームととも冬の間から徹底的にテストを行なって、新しいタイヤの特性を掴もうとしていた。

 さらに国内では10年ぶりに24時間レースが復活。富士スピードウェイを舞台にシリーズ第3戦として開催された。レース中には花火が打ち上げられ、コースサイドではキャンプファイヤーなども開催。海外の24時間レースのようにテントで寝泊まりして観戦を楽しむファンも多く、予想を大きく上回る賑わいとなった。

 そんな中、最高峰クラスであるST-Xクラスでは、前年チャンピオンのARN RACINGはブランパンGTアジアに挑戦するためS耐には参戦せず王者不在のシーズンに。そこにアジア圏で実績のあるPhoenix Racing AsiaがアウディR8 LMSで参戦開始。レクサスRC F GT3も参入するなど、これまでにないほど多種多彩なマシンが入り乱れた。

 開幕戦から激戦が続いた中、抜群の安定感をみせたのがGTNET MOTOR SPORTSの#99 Y’s distraction GTNET GT-R(浜野彰彦/星野一樹/藤波清斗)だ。開幕戦鈴鹿で優勝を飾り幸先の良いスタートを切ると、前述の第3戦富士24時間レースも制し、ポイントランキングもトップに踊り出た。後半戦は他車より重いウエイトハンデに苦しみながら表彰台を確保し続ける走りを見せ、第5戦もてぎ終了時点で早くもシリーズチャンピオンを決めた。

 GTNET MOTORSPORTSで長年スーパー耐久を戦ってきた星野一樹は、4シーズンぶりのタイトル獲得に感慨深い表情を見せた。

「今シーズンはシリーズチャンピオンになることをテーマにして臨みました。その中で開幕戦の鈴鹿で勝ったで自信につながった部分もあります。同時に常にクラス内で一番重いウエイトハンデを背負いながらのレースが続きましたが、その中でも富士24時間で勝てたことが大きかったです。それ以外のレースでもポイントを取りこぼすことなく、ライバルを上回るような結果でここまで来ることができました」

 そう語った星野は、チームメイトたちの頑張りがチャンピオン獲得に繋がったという。その中でも、今やチームの中で欠かせない存在となった藤波清斗の成長だった。

 ふたりが同じマシンで戦うのは今年で3年目だが、昨年までのレースを振り返ると肝心な場面で藤波がミスを犯し、勝機を逃してしまうことも少なくなかった。そこで星野は“藤波のレベルアップ”に力を入れたという。

「彼はもともと速さはありましたが、それを強さとして見せることができていませんでした。特に昨年までは肝心なところでミスをしてしまったりとか弱さを出してしまうことありました。そこを徹底的に鍛えるために、僕が“嫌われ役”もやりました」

「その中で(藤波)清斗が成長していく過程を間近で見ることができてことが嬉しかったです。生意気な言い方になるかもしれませんが、清斗は本当に成長しました」

 その星野の思いを、藤波も十分に理解していた。今年は絶対に失敗は許されないと自らを奮い立たせており、その表情は開幕前のテストから明らかに“昨年とは違う”と感じ取れるほどの気迫だった。

「正直、今年はシートがもらえるか難しい状況で、今年が最後のチャンスじゃないかと思っていました。その中で(星野)一樹さんが、自分のことを見捨てずに厳しく指導してくれて、それが心強かったです。なんとか恩返ししたいという思いがありました。ここで走るきっかけを作ってくれたのは(第3戦でスポット参戦した)安田裕信さんや一樹さんでした。先輩たちに恵まれて、今の自分があります」

 そう語った藤波は、結果として自身が成長した姿を証明していった。開幕戦の鈴鹿では最終スティントをはじめ、重要な場面で冷静なレース運びをみせ優勝。第3戦富士では、ひとりで合計10時間以上を走る活躍を見せ、チームに今季2勝目をもたらした。

 チャンピオンがかかった第5戦もてぎでも、重いウエイトハンデを背負う中で我慢の走りを強いられた。レース終盤は確実にチェッカーを受けることを優先し、ライバルの先行を許さなければいけない場面もあったが、その任務を完璧にこなし3位でフィニッシュ。チームに4年ぶりのチャンピオンをもたらした。

 藤波自身にとっては4輪レースで初の戴冠。いつしか彼はチーム内でも頼れる存在になっていた。

「僕自身、昨年は本当に酷かったので……それを(今年)リベンジできてよかったです。(第5戦もてぎのレース終盤は)自分のためでもありますけど、チームのためにも走らなきゃいけなかった場面でした。葛藤はありましたけど、無事に任務を達成できたと思います」

「昨年はミスばっかりしていましたが、今年はミスせず1年を終わることができたので、本当に何より。その中で今年獲得できたチャンピオンというのは、本当に宝物です……僕としては4輪レースでは初めてのチャンピオンでもあるので本当に嬉しいです」

 スーパー耐久でのチャンピオン獲得後は全日本F3選手権の参戦機会を得るなど、活動の場を広げつつある藤波。来季の彼の活躍が楽しみだ。

 また、今季の99号車の快進撃で欠かすことができないのが、ジェントルマンドライバーの浜野彰彦の頑張りだ。

 浜野にとっては初めてST-Xクラスで戦うシーズンで、GT3マシンも初体験。その中で毎回テーマを持って走ることに集中し、自身の腕を磨いていったという。

「レースウィークの時しかGT3マシンに乗る機会がなかったので、シミュレーターとかでも練習しました。それでも、ダラダラ走るのではなくて、木曜日のスポーツ走行の段階からひとつずつ課題を持って走るようにしていました。そこは集中してできたと思いますし、何より集中できる環境を作ってくれたチームには感謝しています」

「とにかくチームに貢献したいという気持ちでやっていました。その中で結果が出て良かったです。自分なりに努力した部分もありましたが、チームが本当にいいクルマ、壊れないクルマを用意してくれたのが良かったです。結果的にすごく身になったし、最高のシーズンになりました」

 これには星野も「浜野さんは1戦1戦やるごとに『もっと速くなるんだ』という貪欲な姿勢と努力が見られました。その頑張りが、シリーズチャンピオンという結果に間違いなく繋がったと思います」と、彼の頑張りに感銘を受けていた。

 そして、チームスタッフが常にトラブルのない確実なマシン作りをしてくれたことが、チャンピオンにつながったと星野は語る。

「どうしてもドライバーの頑張りばかりが目立ちますが、チームのみんなもすごく頑張ってくれました。いつも“ノーミスで送り出す”という仕事を完璧にこなしてくれて、シーズンを通してみても大きなトラブルが1度もありませんでした。特に富士24時間をノーミス、ノートラブルで走りきって勝てたことが本当に大きかった。彼らの頑張りにも感謝です」

「(チャンピオン獲得後の)最終戦でも今年を象徴するようなレースができたと思います。レース前からみんなで『いつもと同じことをやろうね』『表彰台は絶対に乗りたいね』と言って臨みました。苦しい展開になるかと思いましたが、60kgも(ウエイトハンデを)積んだ状態の中で2位になれたということについては……本当に“最高以上”というくらいの出来だったと思います。本当に最高な1年でした」

 2014年のチャンピオン獲得以降、速さは見せつつも肝心なところでトラブルが出たり、ガス欠で止まってしまうこともあったGTNET MOTOR SPORTS。ただ、今年は目立ったトラブルはほとんどなく全戦でトップ5圏内でフィニッシュする走りをみせ、昨年までとは見違えるほどのパフォーマンスを披露した。

 それと同時にドライバーを含めチーム全員が、結果を積み重ねていくに連れて、これまでにはないほどの“信頼”と“絆”を感じながら戦っていく姿が印象的だった。

 来季の参戦体制についてはまだ未定ではあるが、同じ体制で参戦することになれば、ライバルもそう簡単に崩せないほど手強い存在になることは間違いないだろう。

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この記事について

シリーズ スーパー耐久
ドライバー 星野 一樹 , 藤波 清斗
執筆者 吉田知弘