ホンダ山本部長に訊く”ホンダのモータースポーツ活動の役割”

ホンダの山本雅史モータースポーツ部長に、スーパーGTやスーパーフォーミュラなど、ホンダのモータースポーツ活動について訊いた。

 ホンダのF1活動が困難な状況に置かれている。シーズン前に行われたテストでトラブルが連続的に発生、フェルナンド・アロンソが記者会見の場であからさまにホンダのパワーユニットにダメ出しをする場面もあった。

 テストの走行距離もメルセデス・エンジンの12480kmに比べて僅か1978km。テスト成果は走行距離の長さに比例すると言われているだけに、この状況は何ともまずい。テストのタイムはクルマの性能の評価には繋がりにくいと言われるが、それでもフェラーリが記録したベストタイム1分18秒634から3秒近く遅れている現実は、ホンダ陣営にとって痛手以外の何物でもない。

 では、F1以外の4輪モータースポーツ活動はどうか? F1以外といえば国内のスーパーGT、スーパーフォーミュラが中心で、世界に目を向ければWTCC(世界ツーリングカー選手権)などもある。スーパーGTもスーパーフォーミュラもタイトル争いから暫くご無沙汰しているが、それでもホンダが活動を休止することは許されない。困難な状況を打ち破って初めて、自動車メーカーがモータースポーツ活動を遂行する意味がある。技術の進化、人材の育成。若手ドライバーの後押しをすることもタスクのひとつだ。

 自動車メーカーとしてのホンダにとっての、モータースポーツ活動の役割を、山本雅史モータースポーツ部長に聞いた。

FRのレイアウトも検討した:スーパーGT

——まずスーパーGTからお尋ねしますが、NSXは厳しい立場に立たされているように思います。レクサスもニッサンもFR車ですが、ホンダだけがミッドシップです。レーシングカーとして考えるならミッドシップにアドバンテージがありますが、実際にはどうも分が悪い。

山本「去年からハイブリッドは下ろしたんですが、それだけの変更が出来るならエンジンだってミッドシップ止めてFRにしたらどうかという意見もありました。GTAの坂東会長も含めてそういう意見です。実は、我々もレイアウトまでは検討したんです。エンジンは直4の2リッターだからフロントに収まるんです。でもそうは言ってもコンセプトは違いますし、ビジネスとリンクするというところの辻褄が合わなくなる。ホンダというブランドを讃えるという意味だけなら成立はしますが。そもそもホンダがレースをやる意味を見つけられなくなる。その点から言えば、去年、ハイブリッドを下ろしたのはまずかったと思っています。中途半端な決断でした」

——NSXは特例として認められた車両での出場ですよね。

山本「FR勢の中でうちだけミッドシップですからね。他と異なる条件でレースをしているわけですから。今はハンディキャップのウエイトを29kg積んでいます。そういう状況の中でNSXだけが特別な見方をされてレースをしている環境でいえば、ドライバーが納得出来ないと思います。クルマの性能とか言う前に、スタートラインが違うんですから。ドライバーには申し訳ないと思っています」

——ブランドと言えばホンダにはツーリングカーレースもありますよね?

山本「WTCCで道上龍に乗ってもらうのはそうですね。18年以降はTCRも新型シビックRを出すために準備をしています。TCRと言えば昨年のマカオでもシビックが勝ってくれた。TCRは性能調整が行われるレースですし、全車FFですし、みんなイコールのルールの中でやっているから、とてもいいカテゴリーだと思っています。そういう点でGT500だけはちょっと頭が痛い。ドライバーもグリッドに並んでも、トヨタやニッサンのドライバーとガチンコ勝負をしているという感じがないと思うんです。そこをいかに解決していくかがこれからの課題です」

ガスリーは”勝てるチーム”を求めた:スーパーフォーミュラ

——スーパーフォーミュラに話を移したいのですが、こちらは今シーズンはいかがですか? GP2チャンピオンのピエール・ガスリーが来ました。

山本「レッドブルのヘルムート・マルコやガスリーと、彼がGP2タイトルを決めた昨年のアブダビで話して、彼の方から『チャンピオンを獲ったので、スーパーフォーミュラに乗せてもらえないだろうか』と、打診がありました。いくつかのチームを指定してきて、『こことここ、どっちがいい?』なんて、本当によく調べている。来年はF1に送り込もうとしているドライバーだから、下手なチームには乗せられないことは承知していました。それと、実は昨年の最終戦の頃、TEAM 無限から今年はもう1台走らせようという話をしていました。どうしても乗せたいドライバーがいて、体制づくりを動かしていたんです。1台は山本尚貴に決まっていましたから、もう1台ですね。結局、欲しかったドライバーは獲得出来なかったんですが、そこにガスリーが入って来た」

——ちょうど良かった?

山本「そうですね。最初はガスリーの名前はなかったんです。マカオでは優勝したアントニオ・フェリックス・ダ・コスタのマネージャーが乗れるかどうか聞いてきた。とても欲しかったけど、あの時点ではシートが空いていなかった。『トムスとも話しているけど、ホンダに乗りたい』とまで言ってくれたけど、残念ながら叶わなかった。ガスリーが無限に決まったのは、レッドブルが持ちこんでくるスポンサーフィーの額で対応出来るのは無限だけだったからです。レッドブルのフルカラーが前提条件で、スポンサーフィーの額も決まっていた。だから、紹介できるチームは少なかったんです。もちろん、勝てるチームという先方の条件に無限は合致していました」

——日本でトップカテゴリーのレースを戦おうとすると、自動車メーカーの丸抱えドライバーになるしか道はないように思えます。このシステムがドライバーの活動の幅を狭めているのでは?

山本「その通りです。なぜ自動車メーカーがドライバーを丸抱えしているのか? 本来はチームがやるべき事ではないか? でも考えると、今のチームはスポンサー資金を集めてドライバーを抱えて活動を継続できるような体質で成立していない。それが問題です。格好良い言い方をすると、チームに資金だけ出して、自動車メーカーは自動車メーカーの役割をする方が本当はいい。でも、それはなかなか成立しない。チームも潤って初めて、ドライバーが満足な活躍が出来るんです」

佐藤琢磨の参戦も検討していた:デイトナ24時間

——デイトナ24時間レースには、アキュラNSXが2台出ていました。佐藤琢磨が乗ればと期待していましたが……彼はNSXの開発にも関わっていましたよね?

山本「そうなんです、残念ながら乗りませんでした。IMSAのドライバー登録には制限があり、プロのゴールドとセミプロのシルバー……みたいな感じでペアを組まないといけません。琢磨のドライブはチームに尋ねました。でも、その時にはゴールドのシートは埋まっていたんです。乗って欲しかったですね。こういった各国のレースのシステムをもっと勉強しないといけません。今回のようにそれを知った時には遅かったというのを避けるなど、もっとモータースポーツ部として意識改革をしないといけません」

牧野なら、ランキング2位以内は確実:欧州F3

——最後に、期待の若手牧野任祐に関してお聞きします。彼は今年、ユーロF3参戦が決まりました。このカテゴリーは彼にとればベストカテゴリーですか?

山本「そうだと思います。GP2も可能性を探りましたが、良いチームがなかった。それで、頭を切り換えてF3にしました。F3なら牧野は2年の経験がある。GP2はクルマも違い、コースもほとんど初めて。彼はコース覚えは速いけど、クルマが変わると序盤は難しいだろうと。前半戦を取りこぼすと痛いですからね。それでF3にしました。それに、近い将来のF1昇格を考えると、スーパーライセンスのことがある。F3なら選手権2位に入ればもらえます。2位は牧野なら確実でしょうから。F3では最初にプレマチームに打診しましたが、メインのシートはフェラーリアカデミーのドライバーが抑えており、5人目ということでした。これでは勝負にならないと思い、ハイテックに加入することに決めたんです」

——ハイテックはどういうチームですか?

山本「新しいチームです。でも、勢いのあるチームです。カーリンもテストしましたが、噂ではエンジニアが揃っていないということで、不安がありました。そこで、最後にハイテックとドイツのモトパークというチームが残ったのですが、モトパークはドイツのチームだから当然ドイツ語で、環境が変わる。とにかくネガティブな要素は可能な限り減らさなければと思っていましたので、ハイテックを選んだんです」

——新しくても勢いの良いチームが目に適ったということですね。

山本「はい。それにやってることがF1チーム並に凄い。F3でここまでやるの、というようなことをやってる。僕も牧野もすっかり安心しました。ハイテックではテストはまだしていなくて、シミュレーターテストだけです。プレマでのテスト時には、ミック・シューマッハーと走ったのですが、雨の中では牧野の方が速かったです。我々も期待して見守ろうと思います」

 今回のインタビューではF1の話には触れなかった。テストの結果は決してホンダにとって満足出来るものではなかったが、この危機を山本部長以下ホンダのモータースポーツ関係者はいかに乗り切るのだろうか?

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シリーズ スーパーGT , F3 Europe , F1 , WTCC , スーパーフォーミュラ
記事タイプ 速報ニュース