スーパーGT 第6戦:SUGO

天国から地獄、そして天国。GT300優勝の埼玉トヨペット、チェッカー直前の失速の裏で何が起きていた?

スーパーGT第6戦SUGOのGT300クラスを制した52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GT。チェッカー直前には突然のスローダウンに見舞われたが、その時の状況をドライバーとエンジニアが語った。

戎井健一郎

編集: 2023/10/14 9:57

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#52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT

 52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTにとって、スーパーGT第6戦SUGOは文字通りジェットコースターのような1日となった。

 ドライバーズランキング実質5番手でSUGO戦を迎えた52号車の吉田広樹、川合孝汰組は、サクセスウエイト90kgながら予選でGT300クラスの4番手を獲得。スタートドライバーの川合は先頭集団につけながら走行を続け、誰よりも早いタイミングでルーティンストップに向かい、リヤタイヤ2輪のみを交換して吉田にバトンタッチした。

 得意とする早めのピットストップ作戦が機能し、52号車はライバルがルーティンストップを終えたことでトップに浮上。その後は快調にリードを広げ、ファイナルラップに突入した。

 しかし、チェッカー目前でまさかの事態が起こる。52号車はゆっくりとしたスピードで最終コーナーからホームストレートの坂を上っていくが、ストレートを上り切ってフィニッシュラインが目前となったところで止まってしまいそうなほど失速。ガス欠を疑った吉田はマシンを左右に揺するが加速していかず、ラインを跨ぐ直前で後続の18号車UPGARAGE NSX GT3に追い抜かれてしまった。目前で勝利がその手からこぼれ落ちる様を見て、ピットウォールで待ち構えていた川合は号泣した。

 2位として表彰式を終え、報道陣の前にやってきた吉田は脱力し、うなだれた様子であった。まだ突然のスローダウンに至った理由を把握しきれておらず、「最終コーナーを上り切ったところで失速して、そこからはアクセルを踏んでも反応がありませんでした。ガス欠かと思ってマシンを振ったりしたんですけど……」と話していた。また、失速する前にはハザードランプを点滅させるシーンもあったが、これは進路を譲ってくれた車両に対する“サンキューハザード”であり、失速自体は突如起こったものだという。

 無線では「電源が落ちた」とチームに伝えていた吉田。「もしかしたら、俺がスイッチとか押し間違えたのかもしれないので……」と言うと、堪えきれずに涙を流した。例え2位フィニッシュでも、ランキング上位をキープして自身のホームレースでもあるオートポリスを迎えられるが、と記者に投げかけられると、「シリーズのことを考えたら1位か2位かって本当に大事だと思うし、毎回全力でやってるから。ホームに行ったから何か変わるわけではないし、自分たちは目の前のレースを本気でやっているし……」と涙ながらに悔しさを爆発させた。

 しかし、ドラマはこれでは終わらなかった。決勝後の再車検で、優勝となっていた18号車UPGARAGEに最低地上高違反が発覚。失格となったのだ。これにより、52号車は繰り上がりで優勝となった。悲劇的な形で“敗者”となった者たちが、ものの数時間で“勝者”に変わった。

■わずかに足りなかった燃料。「もう少し余裕を持てば良かったが……攻めないと勝てない」

 52号車繰り上がり優勝の報せがパドックに届き始めた頃、チーフエンジニアの近藤收功氏に話を聞いた。近藤エンジニアによると、レース後に採取された燃料は想定量よりも少なくなっており、「ほぼ空」の状態。失速の原因はやはりガス欠と思われるという。

「最初に『電源が落ちた』という無線が入りました。ただ中継映像を見て、ディスプレイが映っていることを確認したので、咄嗟に『クラッチを切って!』と伝えたのですが、(ドライバー側とピットウォール側の)両方から喋っていたこともあってドライバーには届かず、エンジンブレーキによって失速してしまいました。18号車とは0.8秒差だったので、それがなければトップでチェッカーを受けられていたと思います」

 近藤エンジニアはそう振り返った。計算により必要最低限のマージンをもって給油作業を行なったものの、わずかに燃料が足りなかった。そうなれば、燃料にもっと余裕を持たせて安全策を取ることもひとつの対策と言えるが、彼らにその選択肢はない。

「レースでは想定よりも給油時間を0.5秒多くしました。もう少しマージンを持てば良かったですが、GTは攻めないと勝てないですし、自分としてもGT500と負けないくらいの気持ちでやっています」

「またタイヤ交換に関しても、今年初めてタイヤ交換をやるようなディーラーのメカニックさんが、1秒でも速くなるように練習してもらっています。そういうことからも、やはり必要最小限のマージンにしています」

「ただ、計算上で出てくるはずのものが出てこなかった。計算やマージンの読みが甘かったので、そこは反省しないといけないなと思っています。今後も精度を上げながら、給油を0.1秒でも削って(燃費)ギリギリでトップチェッカーを受けられるようにしたいです」

■選手権で大量リード築くも「次戦オートポリスが本当に重要」

#52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT

#52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT

Photo by: Masahide Kamio

 とはいえ、晴れて今季初勝利を挙げることとなった52号車。失格の18号車を含め、タイトル争いのライバルが軒並みノーポイントに終わったこともあり、吉田、川合組はポイントリーダーに浮上。しかも、2戦を残して2番手以下に10点以上の差をつける、大量リードとなった。

 しかし近藤エンジニアは、シリーズタイトルに向けては次戦オートポリスが極めて重要になってくると語る。彼はその理由を次のように説明した。

「我々の車両など、JAF車両(現GT300規定車両)は加速が遅いので、(最終戦が行なわれる)もてぎが辛いです」

「UPGARAGEさんは重量配分がリヤ寄りで、ブレーキングも良くて、クルマさえ曲げちゃえばトラクションもかかります。我々は最終戦でポイントを獲ることすら難しいと思います」

「オートポリスでは少しでもポイントを獲って、最終戦はノーポイントでもタイトルを獲れるくらいの状態にしておかないといけませんし、それですら逆転される可能性があると思っています。もちろん、もてぎも総合力で頑張りますが、オートポリスで少しでもポイントを取れないとキツいですし、ライバルに優勝されるとかなり難しいですね」

 そんなオートポリスでの第7戦は、同サーキットでは初めてとなる450kmレースとなる。オートポリスはタイヤへの攻撃性も高いため、どのチームにとっても未知のレースとなるが、近藤エンジニアは今季の450kmレースで52号車が何度も成功させてきた“スプラッシュ作戦”を採用する可能性を否定しなかった。

 スプラッシュ作戦とは、2回の給油が義務となる……つまりスティントが3つに分かれる450kmレースにおいて、序盤の数周で給油のみの短いピットストップを実施して、1回目の給油義務を消化。レース中盤に2回目ピットインを行ない、ドライバー交代やタイヤ交換を含めたフルサービスを実施するという戦略だ。実質的な2スティントでレースを戦うこの戦略は燃費やタイヤライフを考えるとチャレンジングだが、1回目のピットインの後は団子集団から一歩離れたクリーンエアの場所で周回できるという利点がある。

「予選の順位次第ですし、セーフティカーの可能性も見ないといけません。サクセスウエイト(次戦52号車は75kg)などを考えても厳しい戦いになると思いますが、スプラッシュを基本プランに置いて、練習走行でタイヤの落ちなどを見ながら、決勝に向けてのプランを組んでいきたいです。タイヤは絶対4輪交換になるでしょうね」

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