分析
スーパーGT 第7戦:オートポリス

GT300タイトルを目の前まで手繰り寄せた52号車埼玉トヨペット。攻めのタイヤ交換1回で2号車mutaを抑え切れた「3つの要因」

スーパーGT第7戦オートポリスを制し、GT300クラスのタイトル獲得に大きく近付いた52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GT。第6戦からの連勝を記録できた要因について、チーフエンジニアが説明した。

#52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT

 オートポリスで行なわれたスーパーGT第7戦でGT300クラスを制したのは、ポイントリーダーの52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTだった。これで吉田広樹/川合孝汰組は最終戦もてぎを前にランキング2番手以下に20点の大差をつけ、タイトル獲得に向けて圧倒的優位な状況となった。52号車のふたりがタイトルを逃すシチュエーションはたったひとつ。最終戦でライバルの2号車muta Racing GR86 GTがポール・トゥ・ウィンを飾り、52号車が無得点に終わった場合。したがって最終戦の予選後にタイトルが決まる可能性もある。

 今回のオートポリス戦はハーフウエイトだったとはいえ、ポイントリーダーの52号車は75kgと依然として重いサクセスウエイトを積んでいた。しかもタイヤに厳しいと言われるオートポリスでの450kmレースということもあり、苦戦してもおかしくない状況であった。

 しかし52号車は予選で4番手を獲得すると、決勝レースでも前半でトップに立ちレースをリード。しかも2回のピットストップの内1回はタイヤ無交換でコースに復帰し、ライバルよりも大幅に短い作業時間でアドバンテージを築いた。レース終盤には、定石通り2回のピットストップで2回タイヤを交換した2号車mutaが迫り、約20周にわたって52号車にプレッシャーをかけ続けたが、吉田は最後の最後までポジションを守り切り、第6戦SUGOに次ぐ今季2勝目を挙げたのだった。

 オートポリスで圧巻のレース運びを見せた52号車。彼らはなぜここまでのパフォーマンスを見せられたのか? そして、なぜタイヤ交換1回ながら最終ラップまで2号車を抑えられたのか? 勝利の要因についてチーフエンジニアの近藤收功氏が語った。

1. 低温コンディションとのマッチング

 

Photo by: Masahide Kamio

 昨年よりも2週間遅い10月中旬の開催となった第7戦オートポリスは、週末を通して肌寒い気候となった。晴れ間が出て路面温度が上がるだろうと言われていた決勝日もそれは同じで、スタート時は27℃だった路面温度も、レース中盤には20℃前後まで落ちた。

 レース関係者の多くが、これほど寒いコンディションは予想外だったと語っているが、近藤エンジニアはこの低温のコンディションがブリヂストンユーザーの52号車に優位に働いたと考えている。

「公式練習でタイヤの摩耗やピックアップ(タイヤのゴムの表面にタイヤかすなどが付着し、性能が低下すること)などを確認し、この(公式練習と同じ低温の)コンディションならタイヤ交換1回でもいけると思いましたが、翌日は晴れの予想が出ていて、晴れたら厳しいという話をしていました」

「ただ決勝日になり、前日の予報よりも(気温が)かなり下振れしているなということで、タイヤ交換1回を視野に入れた作戦をプランに入れていました」

「正直言うと、うちのクルマとタイヤは気温・路面温度が下振れしたコンディションの方が合っていました。もっと気温が上がると、ピックアップがつかなくなって元気になる……その伸び率は他のチームの方が高いと思います」

2. セーフティカーリスクの軽減

 4番手からレースをスタートした52号車には、様々なプランがあった。まずひとつは、ピットウインドウが開く5周終了時に短い給油のみのピットストップを行なって2回の給油義務のうちの1回を消化し、レース中盤にタイヤ交換、ドライバー交代、そして給油を行なう、いわゆる“スプラッシュ作戦”だ。52号車は今季、このスプラッシュ作戦を駆使しながらアンダーカットを成功させ、好結果を残してきた。

 しかしながら、5周でピットインしてしまうと2度目のピットストップが必然的にレースの折り返し地点前後に限定されてしまい、タイヤの状況などを見ながらのリスクヘッジができなくなってしまう。しかも仮に序盤にピットインして後方の“クリーンエア”な場所でコースに出たとしても、数周で隊列の最後尾に追い付いてしまう計算になっていた。富士スピードウェイのようなコース幅が広く、クラス全体のラップタイム差が小さいコースではその影響も小さいが、オートポリスでは自分たちより著しくラップタイムの遅いクラス下位の車両を抜きあぐねてしまうというリスクもあった。そのため52号車は、様子を見ながら1回目のピットストップのタイミングを少しずつ引っ張ることにしたのだ。

 ただピットストップのタイミングを後ろに引っ張る上で最もリスクとなるのが、セーフティカー(SC)出動のリスク。例えばライバルが先にピットを終えた状態でSCが出てしまうと、そこでライバルとのギャップが一気に縮まってしまうため、その後にピットストップをするとタイムやポジションを大きくロスをしてしまうのだ。

 それを踏まえて近藤エンジニアがリスクヘッジのため警戒していたのが、ランキング2〜4番手だった18号車UPGARAGE NSX GT3、7号車Studie BMW M4、56号車リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rだ。この3台のうちいずれかがピットインしたタイミングで、それに対応する形でピットに入ろうと計画していたのだという。実質のランキング5番手にいた2号車mutaはややポイント差が開いていたこと、練習走行や予選のパフォーマンスを見て優勝は確実だと踏んでいたことからも、マークの対象から外れていた。

 18号車UPGARAGEが他車からの追突を受けて大きく後退し、56号車リアライズはステイアウトを続ける中、7号車Studieが20周でピットに入った。計画通りなら52号車はここでピットインすることになるはずだったが、52号車はアウトラップの7号車を交わし、ラップダウンにすることができた。これならSCが出た場合でも、7号車をラップダウンで従えたままリスタートを迎えることができ、大損するリスクがなくなる。これで52号車はピットインのタイミングを31周まで伸ばすことになった。

 低温のコンディションが続いたこともあり、特にタイヤへの大きな懸念もなく、45周の2回目のピットインでタイヤ交換を含めたフルサービスを実施した52号車。1回のピットストップの作業時間の短さを活かし、2号車mutaに対して大きなリードを持ってレースを先導した。

3. ピックアップとうまく付き合ったドライバー

 

Photo by: Masahide Kamio

 とはいえ、やはり定石通り2回タイヤ交換をしている2号車のペースは良く、52号車に追い付いた。しかしながら、2号車は52号車の真後ろにつけながらも、最後まで追い抜くことができなかった。

 その要因について「ドライバーの頑張りがまず第一だった」と語る近藤エンジニア。オートポリスで最も対応が難しいとされるピックアップにドライバーがうまく対処できたと振り返った。

「タイヤが元気なうちに追いつかれたらかなり厳しいと思っていましたが、ちょっとずつ近付くにつれて向こう(2号車)もタイヤを使っていて、ピックアップもあったと思います」

「とはいえ向こうはタイヤ交換2回なので正直不安でしたが、しっかり守ってくれましたね」

「ピックアップが付きすぎてしまうと“止まらない曲がらない”になるので、GT500への譲り方についてはドライバーと相談していました。GT500には申し訳ないですが、セクター3のラインでも多少は無理をしないとピックアップがついて損をしちゃうので」

「ドライバーがピックアップがつきにくい乗り方をしてくれたので、ペース良く最後まで行けたと思います」

 

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