タイヤ無交換か、4輪交換か……その選択が明暗分けた52号車Green Braveと2号車muta。両エンジニアの“脳内”にあったもの
スーパーGT第4戦富士では、共にタイヤ無交換作戦を得意としてきた2号車muta Racing GR86 GTと52号車Green Brave GR Supra GTの戦略が分かれた。その判断に至るまでの考えをエンジニアたちに聞いた。
#52 Green Brave GR Supra GT, #2 muta Racing GR86 GT
写真:: Masahide Kamio
富士スピードウェイで行なわれたスーパーGT第4戦富士350kmレース。路面温度50℃超えでスタートした酷暑のレースにおいて、GT300クラスではタイヤ無交換作戦を“お家芸”とするチームの中でも判断が分かれた。
ロングライフなブリヂストンタイヤの利点を活かし、ピットストップ時にタイヤを交換しないことでピットでのロスタイムを短縮してポジションを上げるというタイヤ無交換作戦。2号車muta Racing GR86 GTや52号車Green Brave GR Supra GTは、この作戦を活かして結果を残してきたチームの筆頭格であり、今季3戦を終えた段階で2号車がランキングトップ、52号車がランキング3番手につけていた。
ただ今回のレースに関しては従来の300kmレースよりもやや距離が長い(周回数にして77周。GT300は70周前後でチェッカーを受ける計算)ことや、路面温度が高くなったこともあって、タイヤ無交換による性能劣化(デグラデーション)のデメリットが大きいのではないかという指摘もあった。そして迎えた決勝レース、2号車mutaは18番グリッド、52号車Green Braveは19番グリッドと共に下位からのスタートとなったが、43周でピットに入った2号車はタイヤを4輪とも交換。一方で翌周にピットインした52号車は無交換で、作戦が真っ二つに分かれた。
そしてその後もペースも明暗が分かれた。2号車はフレッシュタイヤで追い上げ8位入賞を果たした一方で、52号車はペースが上がらず順位を落としノーポイントに終わったのだ(最終的にシフトトラブルによりガレージイン)。両者の選択が分かれたことからも、非常に難しい判断であったことは想像に難くないが、それぞれのチーフエンジニアに戦略判断の理由を聞いた。
二者択一でややギャンブル的な判断をしたGreen Brave
#52 Green Brave GR Supra GT
写真: Masahide Kamio
まずはタイヤ無交換を決断した52号車Green Brave。近藤收功エンジニアが「正直50/50」だったと語るように、タイヤを交換すべきかの判断は難しかったようだ。
「例えばタイヤ無交換によって稼げる時間が12秒〜16秒だったとして、タイヤを交換してコース上でペースを上げた方が、無交換よりも10秒20秒速くなるのは分かっていました。ただ、それは他車に引っかからずに抜けた場合です」
「タイヤ交換に関しては迷っていましたが、この路面温度ということでかなり(タイヤに)厳しいので、無交換も視野に入れつつタイヤ交換を……と思っていました。ただ今回は二者択一で無交換をしました」
「結果的にタイヤ交換をした2号車がしっかり抜いていって8番手までいけたので、2号車流石だなといった感じです」
このように、非常に悩ましい判断だったようだが、近藤エンジニアによると予選で下位に沈んだことも、ギャンブル的なタイヤ無交換を選ぶ一因になったという。
「予選5番手〜10番手くらいなら、無交換で博打をして沈むよりも、しっかり交換して前でゴールするべき……そういう作戦が事前のミーティングで8割方決まっていましたが、ああいう順位だったので、タイヤがどこまで持つかのタイヤテストも含めて(無交換を)やりました」
4輪交換決め打ちのmuta。事前のシミュレーション通りの結果に
#2 muta Racing GR86 GT
写真: Masahide Kamio
一方の2号車mutaの渡邊信太郎エンジニアによると、彼らは事前のミーティングからタイヤを交換する方向で決めていたという。それはタイヤのデグラデーションに関するシミュレーションの結果から判断したという。
「例えば10周ごとに、ラップタイムに対してデグラデーションの影響がどれだけ出てくるかをシミュレーションしました。その結果、50周のレースではタイヤを換えない方が4秒くらい有利だという結果が出ました」
「でもそれは50周のシミュレーションですし、実際はまだあと20周以上あります。例えば(フレッシュタイヤを履くライバルに)1周コンマ5秒速く走られてしまうと、10周で5秒縮められてしまいます。タイヤを換えて、1周でコンマ2秒でも3秒でも速く走れば挽回できると思い、我々としては換えない判断をしました」
また渡邊エンジニアは、ファーストスティントを走る平良響がクリーンエアに入ったところでフルプッシュを指示。そこでフレッシュタイヤを履くライバルを上回る1分40秒台のタイムが出せたため、ギャンブルをせずタイヤを交換してもコース上でしっかり追いつくことができると確信したという。
結果的には、2号車mutaの作戦が効果を発揮した格好。「事前のタイヤデグの計算が合っていた」と渡邊エンジニアは語る。
#2 muta Racing GR86 GT
写真: Masahide Kamio
これで2号車mutaは3ポイントを加えてポイントリーダーの座を死守。一方で52号車Green Braveは首位mutaとの差が20点以上離れる形となり、厳しい状況となった。両エンジニアは後半戦の展望をこう語った。
「今後はBoPの変更で僕らが得意とするダウンフォースを使う領域がスポイルされる予定。そういう意味では、今後戦いにくいなと(渡邊エンジニア)」
「点差を考えると厳しいのですが、2号車どうこうではなく、ウチはウチらしくやって結果がついてくればと(近藤エンジニア)」
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