56号車リアライズ、”明日は我が身”と臨んだタイトル決定戦でトラブルも「天が僕らを味方してくれた」
2022年シーズンのスーパーGT GT300クラスでは、56号車リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rがタイトルを獲得。決勝レースではタイヤが外れるというトラブルに見舞われたものの、同じヨコハマタイヤ勢の追い上げにより、戴冠にこぎつけた。
写真:: Masahide Kamio
モビリティランドもてぎで行なわれた2022年シーズンのスーパーGT最終戦では、56号車リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-RがGT300クラスのチャンピオンに輝いたが、戴冠までの道のりは決して楽なモノではなかったとドライバーの藤波清斗とジョアロ・パウロ・デ・オリベイラ、そして近藤真彦監督は三者三様に語っている。
ランキング首位の56号車は、土曜日の予選で順調にQ2まで駒を進め、6番グリッドを獲得。一方で2.5ポイント差でランキング2番手につけていた61号車SUBARU BRZ R&D SPORTはQ2の最終アタックでクラッシュし、赤旗の原因を作ったとしてタイム抹消。16番手から決勝レースを迎えることとなっていた。
56号車優勢という状況下でも、”明日は我が身”だとチームが気を緩めることはなかったと藤波は明かす。
「まず今シーズンは開幕戦から優勝できましたが、いきなり(サクセスウェイト)60kgを積むことに……そこからプレートは増えていく一方でした」
藤波はそう振り返る。
「ルール的にも1ポイント3kgということで、フラストレーションが非常に溜まるレースも多かったですが、その中でもヨコハマタイヤさん始めチームの皆さん、そして近藤監督がすごく条件が悪い中でも必死に取り組んで下さり、ドライバーとしても絶対に結果を出さなければという気持ちになりました」
「ずっとシリーズ首位で来ていましたし、本当にこのまま行ければと思っていました。しかし、予選でスバルさんのアクシデントを観た時に、改めて『自分たちもいつこうなってもおかしくない』と気を引き締めて今日に臨みました」
日曜日の決勝レースでは、序盤にクラッシュが連続するなどの波乱があったものの、61号車にはターボ系トラブルが発生し後退。56号車優勢は続いた。
GT300クラスのチャンピオン争いは勝負あったか、とも思われたが、オリベイラが走行を担当した後半スティントの43周目に56号車に悲劇が襲う。右フロントタイヤが脱落してしまったのだ。
タイヤをひとつ失った状態でオリベイラは、ピットまでマシンを戻し、タイヤを履き変えて再びコースに戻った。しかし大きく順位を落としてしまう。
これにより56号車はタイトル争いから脱落したようにも思われたが、同じヨコハマタイヤユーザーの87号車Bamboo Airways ランボルギーニ GT3と88号車Weibo Primez ランボルギーニ GT3がランキング上位勢をレース終盤に攻略したことで、56号車がタイトルを掴むことに成功。2020年以来2度目のGT300チャンピオンに輝いた。
「スタートも順調に行って、JPさんにバトンを渡したんですけども、JPさんが走っている時にまさかのアクシデントが起きました。今までタイヤ取れたことはなかったんですけど、もう戦線離脱かと思いました」
ピットでその惨劇を目にした藤波はそう振り返る。
「自分も1回部屋に戻りました。それでもあと20周ちょっと残っていたので、あとどこまでやれるのか、しっかり最後まで見届けたいと思ってまたピットへ戻りました」
「それで(僕らと)一緒のヨコハマ勢が素晴らしいポテンシャルで追い上げてくれて、助けて頂いたなという形です。奇跡的にチャンピオンを取り戻すことができましたし、タイヤが取れた時にJPさんが必死に戻ってきてくれたおかげでもあります。ストップしてしまっていた可能性も本当にあり得たと思います」
「でもピットに戻ってきてくれて、しっかりメカさんたちもスムーズにタイヤも付けて、コースインできました。そうしたところのちょっとした力が、最後もう1回チャンピオンを取り戻しにいけたことに繋がっているんじゃないかなと思いました」
「去年は悔しい思いをしましたが、今年もう1回チャンピオンを取り戻せて本当に嬉しいです。KONDO RACINGで走らさせて頂いて3年目のシーズンになりますが、近藤監督始め、チームメイトのJP選手、そしてエンジニアの米林さん、メカの皆さん、本当にまとまったチームで安心して今シーズンを走れて本当に感謝しています。本当にありがとうございました」
J.P. de Oliveira, Kiyoto Fujinami, Masahiko Kondo, #56 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R
Photo by: Masahide Kamio
オリベイラの目にも涙
後半スティントを担当したオリベイラだったが、アクシデント後は完走を目的に周回を重ねることに集中し、タイトル争いの状況についてはチェッカーを受けるまで知らなかったと明かした。
「僕らの身に起きたアクシデントによって、今日はアップダウンの激しい一日になった」
オリベイラはそう決勝日を総括し、次のように振り返った。
「全てを手中に収めていたのに突然トラブルが起きて、ピットへ帰ってこようと必死だった。レースではセーフティカーやそういったことが起こるかもしれないと考えて、順位を回復するチャンスがあるかもと思っていた。最後までそう信じ続けたんだ」
「残り20周はチームとは連絡を取っていなくて、僕はレースを完走しようと走っていたから、チャンピオンシップの状況が分からなかったんだ。それで最終ラップに入ってレースを終えたら、ターン1でエンジニアが『僕らは20位』って言った3秒後に、『チャンピオンだ』って言ったんだ。その時の感情は不思議な感じ。最終ラップですら状況が分かっていなかったから、それを聞いて僕はつい泣いてしまったよ」
「僕らは強力なシーズンを過ごしてきて、チャンピオンシップを獲りたいと思っていたけど、こういうことも起こり得る。それがレースなんだ」
「今日、僕らは天に見守られていたと思う。またチャンピオンシップを獲得できてとても嬉しい」
そして近藤監督は、レースの魅力を再認識する一戦になったと振り返った。
「このふたりのドライバーがいれば間違いなくチャンピオンになれると思ってもてぎに乗り込みました」と近藤監督は言う。
「ライバルにクラッシュが起きて少し残念に思っていましたが、明日は我が身だとも考えていました。そして今日、やっぱりとんでもないことが起きてしまって、いきなり天国から地獄に落ちました」
「それで部屋に戻ってひとりぼっちになって、『こんなこともあるかな。これがレースかな』なんて思っていましたが、俺は色んなチームにトラブルがあっても喜べなかったしなとも思っていたんですよね。でも、ひょっとしたら僕らに今日起きたトラブルで喜んでいるチームもいるのかなと思ったりと、すごく複雑なことを考えながらまたピットへ戻りました」
「そうしたら今度は同じタイヤを開発して、一生懸命頑張っているヨコハマ勢のGT300のマシンが他のメーカーのGT300をぐいぐい抜いって行って、自分たちのポイントを少しずつ上げていって、それでチャンピオンまで導いてくれたというストーリーがありました。やっぱりレースは自分たちのチームだけでやってないなということ、そしてすごくレースの魅力を改めて肌で感じることができました」
そして来季に向け、近藤監督は次のように意気込んだ。
「もちろんGT500でチャンピオン獲ることは大変なことなんですけども、今のGT300でチャンピオン獲るというのは、それと同等……もしくはそれ以上に難しいことだと思います。ライバルも沢山いますからね」
「でもこのふたりのドライバーとチーム、ヨコハマタイヤも生懸命に頑張ってくれているので、来年もまたGT300でチャンピオン目指して行きたいですし、GT500も星野(一義)さんのチームのように強くなって、チャンピオンを目指して頑張っていきたいと思います」
Be part of Motorsport community
Join the conversationShare Or Save This Story
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
Top Comments