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HRD Sakura連載「テストベンチは面白い!」第3回:継承される“1馬力への厳しい目”

ホンダのスーパーGTとスーパーフォーミュラのラージプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩氏は、「テストベンチは面白い」と常々語っていた。そこで、我々はホンダの開発拠点HRD Sakuraを訪問。話を訊いた。

HRD Sakura

写真:: Motorsport.com / Japan

 “テストベンチは面白い”と語るホンダのスーパーGT/スーパーフォーミュラのラージプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩氏。その面白さを紐解くべく、我々はホンダの協力を得てHRD Sakuraに訪問した。

 これまでの2回では、改めてテストベンチの役割と、実際に行なっていること、その極意に至るまでを紹介してきた。

ドライバーとの”共感”

 こうしてテストを繰り返して、ようやくエンジンが完成。次はサーキットでの実走行になる。しかし、テストベンチで理想通りの性能が出せていたとしても、サーキットに持っていって「思い通りにいかない」こともよくある。

「やっぱりサーキットでは、ベンチとは違って計測しきれない部分があります。そういう、サーキットで起きていることを同じようにベンチで再現するという部分の楽しさというか面白さはあります」

 そう語るのは、佐伯LPLとともに今回取材に応じてくれた入社10年目の河合康平氏。テストベンチで主にスーパーGT用のエンジンを担当している。時にはサーキットに行って、自身が開発に携わったエンジンが現場でどのように機能しているのかをチェックしたり、実際にドライバーに意見を聞くこともあるという。

「『ここにトルクの谷がある』とか『ターボラグがある』という意見が、ドライバーさんたちから出てきます。それをテストベンチで検証します」

「現場で起きたことをベンチで再現して、そこから改善するのが僕たちの仕事なです。再現して改善して、それをドライバーさんにサーキットで実際に試してもらって、『ちゃんと良くなったね』という答えをもらえるのか、違っていれば『こうじゃない』という意見が出てきますから、それを持ち帰って再現テストを行って……その繰り返しになります」

「それでも、ドライバーさんが言っていたことがテストベンチ上で再現できたり、ドライバーさんと感覚を共有できるというところが楽しいですね」

テストベンチの”設備”にかける想い

 そうしたドライバーからの細かな要望にも応えるために、テストベンチというのは非常に重要な存在。それゆえに設備へのこだわりも並々ならぬものがあり、代々継承される“テストベンチ魂”がホンダにはある。

 それが、“設備の精度”だ。

 取材を進めていくうち、ふと佐伯LPLはこんなことをつぶやいた。

「今の計測器はちゃんとしていて、羨ましいですよ。私たちの時代は、エンジンの中で空気がこうなって圧縮されて、燃え方はこうで、排ガスはこうで……全て妄想の中でテストをやっていました」

「ポートとかインマニ(インテークマニホールド)の形状をみて、『この形状だと空気は相当剥離しているだろうから、ここをこう直してみようか』と、感覚でやっていた部分もありました」

「それを検証したり、どう判断するのかというのを当時は自分たちで色々やっていましたが、今はみんなCFD(計算流体力学)をかけているし、燃焼圧力とかも全部見ながらテストをやっているんで、結果として判断しやすくなっています。ただ逆に膨大なデータが取れるんで、それの処理に本当に苦労しているというのも、逆の見方からすればありますね」(佐伯LPL)

 現在のテストベンチはエンジンの燃焼状態を見るためのセンサーが大量に取り付けられ、モニター室に映し出される計器類のデータ数も数十種類ある。一見、これらのセンサーを使ってより精度の高いテストができそうだが、矛盾したことが起きることもあるという。

「エンジンの燃焼状態を見るために付けているセンサー等が大量にあるので、燃焼を良くしたい・早く燃焼させたいという部分では上手くいっているように見えながら、実は出力になっていないということがあったりした時にけっこう悩ましいことになっている部分はあります。もしかすると……と、計測器の問題も疑います」

 しかし、そこがテストベンチ担当の腕の見せ所なのだと、現在のテストベンチ担当である河合は語る。

「佐伯さんがおっしゃる通りで、計測器の問題なのか、本当の結果なのか、よく悩みます。ですが、それぞれの担当者に担当のテストベンチが割り当てられています。完全にその人専用というわけではないですけど、主に僕が担当している設備というのがあって、そこでちゃんと信頼できるテストができる設備にしているかというところも、僕らの腕の見せ所です」

受け継がれる伝統

 HRD Sakuraには複数(詳細な数は機密事項とのこと)のテストベンチがあるが、自身の担当ベンチが割り当てられ、テストだけでなく設備のメンテナンスまで任される。そして、自分たちのベンチの精度は「100%」だと自負しているという。

 佐伯LPLによると、そういった情熱は昔から変わらず受け継がれてきたものだという。

「他のメーカーさんはどういうふうにしているかは分かりませんが、うち(ホンダ)の場合は1回担当したベンチは基本的には長く(その人が)使いますね」

「多分、HRD Sakuraの中でみんなが(それぞれの担当ベンチの精度は)100%だと思っているはずです。自分が担当しているベンチで0.5馬力でも0.3馬力でも(正確に)評価してやるぜ! という意気込みで使っていると思います。それは昔から変わらないかなぁ……」

「私たちの時のダイナモって、本当に重りを載せているようなダイナモでした。ちょっと時間が空くと、想定される馬力の重りを載せて針の位置を見て『よし、今日もズレていない』というのを必ず確認していました」

「朝一番でチェックしたら、どのくらいズレるのか? 昼はどうなんだ? 夏場、冬場はどうだ? というのは、時間がある度に確認していました」

「そうでないと、1馬力、2馬力の評価というのはできないです。当時の600馬力、700馬力の中の1馬力というのは、ほんのわずか(の差でズレてくるもの)なんですよね。でも、そこで判断ミスはしたくないので、自分たちのベンチは相当大事にしています」

テストベンチの精度

 確実なテストを行うために、設備の精度と信頼性を担保するのも、テストベンチ担当の仕事……。この想いは、しっかりと河合にも継承され、今度は彼の手から次の世代に継承されようとしている。

「(テストベンチは)“エンジンの性能を上げる”、“エンジンの信頼性を伸ばす” 仕様を決めるだけではなくて、ちゃんとしたテストができる設備にするのも、ひとつ大事なことです」

「もちろん仕事なので、(自分の担当ベンチを)他の人に使われたくないとは思いません。逆に他の人が使った時に、使いやすいベンチにしておきたいなと思っています。結局、この仕事はひとりじゃないですし、ひとりでできることは本当に限られています。協力してやらなきゃいけないので、他の人に嫌々貸すとかではなくて、普通に使ってもらいます」

「その時に“使いやすいベンチだな”と思ってもらえれば、それがその人が(本来)使っているベンチにも波及していきます。そうなるとHRD Sakura自体が良くなっていくと思うので、それを心がけています」

 だからこそ、河合は普段仕事では妥協することなく、時には同僚にも厳しく指摘をすることもあるという。

「そのために、自分以外のところで設備に対して甘いところがあったりすると、口すっぱくキツい言い方をすることもあります。もちろん同じベンチで組んでいる相方にも言いますね」

「そうやっていくうちに信頼関係もできてきますし、言わなくてもやってくれる……という関係になっていきます。だから、相方というかパートナーの存在というはすごく大事です」

「信頼できるパートナーと、信頼できる自分のベンチで(テストを)やるから、効率の良いテストと確実な結果が出せます」

 私たちが普段から何気なく使っている「1馬力、2馬力」という単語。こうして言葉として口にするのは簡単だが、その出力を正確に評価するために、実際にはこれだけ手間暇がかけられ、そして熱意が込められているのだ。

 そうして出来上がったエンジンが、2019シーズンもいよいよ始動しようとしている……(第4回へ続く)

(次回に続く……)

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