HRD Sakura連載「テストベンチは面白い!」第4回:エンジン作りに”ゴール”はない
ホンダのスーパーGTとスーパーフォーミュラのラージプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩氏は、「テストベンチは面白い」と常々語っていた。そこで、我々はホンダの開発拠点HRD Sakuraを訪問。話を訊いた。
HRD Sakura
Motorsport.com / Japan
これまで3回にわたって紹介してきたテストベンチ企画。最終回の第4回はスーパーGT/スーパーフォーミュラのラージプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩氏と、テストベンチでの性能試験を担当する河合康平氏に、エンジン作りにかける想いについて訊いた。
チャンピオン獲得……でも「今まで以上に負けられない」
ホンダは昨年、スーパーGTとスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲得。特に長い間苦戦を強いられていたスーパーGTでは2010年以来の栄冠となった。
その心臓部に積まれていたエンジンは、今回取材に応じてくれた河合がメインで携わったものだった。
「(チャンピオン獲得の報せを聞いた時は)めちゃくちゃ嬉しかったです。僕は入社10年目なので、2010年のGT勝った時と、2013年のSFで勝った時も(社内に)いました。当時僕も開発に携わっていなかった訳ではないですが、やっぱり僕がコアな部分で関わったエンジン(が勝つこと)は、今回が初めてなんですよ。だから、正直初めて勝った感じでした」
「その時はテレビで観ていましたが、本当に嬉しかったですし『山本選手ありがとう!』と思いました。あとは、2014年(NRE導入初期で苦戦していた時期)の地獄を味わっていたので……僕の中では2014年は本当に大変な思いをしましたし、悔しい想いをしましたから、本当に今回は嬉しかったです」
もちろん、チャンピオン防衛の立場となる2019年に向けても気を引き締めていた。
「昨年勝てたというのもあるので、今まで以上に負けられないです。そこは意識して日々仕事してきましたし、そういうエンジンをちゃんと送り出せるように、今も努力しています。開幕のギリギリまで、できる限りのことはして、開幕戦でドライバーの方にトップで帰ってきてもらえるように(エンジンを仕上げて)いきたいです。というか、そうしないといけないと思っています。やっぱり佐伯さんの顔に泥塗れませんからね」
河合のコメントに対し、佐伯LPLも「こうして若い人たちが、そういう想いでやってくれているので、安心して現場に行けます」と昨年以上に安心している様子だった。
エンジン作りとは……細かい努力の積み重ね(河合)
最後に、今回取材に応じてくれたふたりに、我々はこのような質問をさせていただいた。
『おふたりにとって、エンジン作りとは?』
これに対し河合は「(エンジン作りは)本当に日々のコツコツとした努力の積み重ね、小さなことの積み重ねです」と語った。
「少し努力を怠っただけで、ひとつのミスに繋がります。そのミスが(全体的な)準備不足に繋がって、最終的に(選手権での)1ポイントに泣いたりします。(エンジン開発の部分でも)そういうところにつながっていくと思うので、本当に細かい小さな努力の積み重ねだと思います」
よくサーキットでも「チャンピオンにつながる1ポイントを稼げた」というような話を聞くが、その1ポイントの重要性は現場にいるドライバーやチームスタッフだけではなく、HRD Sakuraでエンジンを開発している人たちも、全く同じレベルで“1ポイントの重み”を考えている。だからこそ、テストベンチでの計測や設備の準備、異変の察知に対する瞬時の対応など、常にシビアな仕事をしているのだ。
「やっぱり、そうじゃないとやっていけないし、勝てないですよね」
「僕は現場に行かさせてもらって(小さなことの積み重ねの重要性を)ドライバーさんから教えてもらった部分もあります。そういう意味で、僕は現場に行かさせてもらって、恵まれているなと思いますね」
それは百も承知と言わんばかりに自然と回答していた河合が印象的だった。やはり、こういうシビアな目を持つ“プロフェッショナル”ではないと、テストベンチは任せてもらえないのだろう。
悔いの無いエンジンはできない(佐伯)
一方の佐伯LPLは「なんて言えばいいかなぁ、言い方が難しいなぁ……」と考え込みながら、その胸の内にあった想いをひとつひとつ口にした。
「毎回エンジンは出来上がっているんですけど、全て『本当にこれでいいの?』というのが(クエスチョンマークが)つきます。正直、『これが最終型ですよ』と言えるエンジンは今まで一度もなくて、チャンピオンを獲ったエンジンを作っても『開発での考え方がまだ足りなかったところがあったんじゃないか?』という想いが、後から出てきたりします」
2018年のスーパーGTでは夏場を捨てる覚悟で気温が低い時に勝ち星を挙げるという戦略を立てた。結果的に戦略通りの展開となりシリーズチャンピオンを獲得できたのだが、佐伯LPLはこの戦略は“失敗だった”と断言した。
「もてぎでチャンピオンを獲ったときも、『これちょっと失敗したな、2019年はどうしようかな』ってなりましたね」
「こうしてチャンピオンを獲っても、『これが本当に正しかったか?』という(後悔のような)ことしか残らないです。『まだ他にやりようがあったんじゃないか?』と思ってしまいます」
「もてぎが終わったあとも『暑い時に勝てないと面白くないな、(この戦略は)大失敗だったな』と思いました。だいたい、シーズンが終わってみると、後悔しかないです」
確かに、2018年のスーパーGT最終戦もてぎのレース終了後、佐伯LPLはチャンピオン獲得に安堵しつつも心の底から喜んでいるという表情はあまり感じられなかった。
もちろん、テストベンチでの性能評価を終え、サーキットへ送り出すエンジンに対しては「大丈夫!」と太鼓判を押す佐伯LPL。しかし、シーズンを戦っていくうち、色々と後悔がでてくるのだという。
それも、レースの結果とは別の次元で、ただ純粋に“良いエンジンを作ること”を目指し続けているからこその回答。そうした細かなことの積み重ねが、翌年のエンジンに反映され、さらにライバルにも負けないエンジンを生み出す原動力となっているのだろう。
「2018年にチャンピオンが獲れて、じゃあこれがナンバー1のエンジンかというと、全然だなぁ、まだまだやりようはたくさんあったのに、何してるんだろう……という感覚の方が大きいです」
「ゴールがないと言えば、ゴールがないんでしょうね。悔いのないエンジンはできないです」
【HRD Sakura連載「テストベンチは面白い!」バックナンバー】
(次回に続く……)
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