インタビュー

時には我慢も必要……“元祖日本一速い男”星野一義監督がコロナ禍で感じたこと

4月以降は政府が緊急事態宣言を発出したことを受け、国内モータースポーツ界も完全にストップした状況が続いた。その中で“元祖日本一速い男”として知られるチームインパルの星野一義監督が感じた事とは……。

星野一義

星野一義

吉田知弘

 新型コロナウイルスの世界的流行により、2020シーズンのモータースポーツは、大打撃を受けている。スケジュールが大幅に変更され、いずれのカテゴリーも当面は無観客での開催が余儀なくされるなど、これまでとは状況が一変してしまった。それは日本のモータースポーツ界も同様。スーパーGTは7月、スーパーフォーミュラは8月にシーズンがスタートすることになるが、いずれも無観客でのレースとなる。

 そんな中、“元祖日本一速い男”として知られ、現在はスーパーGT、スーパーフォーミュラでチームインパルを率いる星野一義監督は自身の経験談も交え、今は我慢と辛抱の時だと語った。

レース歴50年以上「こんなにサーキットに行かなかったのは初めて」

 今年の初めから日本でも感染者が増加し、4月7日には政府から緊急事態宣言が発出されるなど、我々の生活を一変させることになった新型コロナウイルス。国内の主要なモータースポーツは、3月のテスト以降は一時完全にストップすることとなり、関係者も外出自粛を余儀なくされた。

「こんなにレースがなかった期間を経験するのは僕も初めて。もちろんサーキットへこんなに行かないのも初めて。(サーキットに)行きたくてウズウズする気持ちもあったし、なかなか生活のリズムがつかめなかったですね」

 そう語った星野監督だが、コロナ禍でファクトリーを通常通り稼働できない中でも、従業員の給料は一切カットせず、満額を支払っていたとのこと。そのためにインパル製品の開発や販売等の調整などで、ほとんど休む暇もなく忙しい日々を過ごしていたという。

「いつも思うけど、経営者の立場と雇われる側の立場、そしてドライバーと、それぞれコンセプトが違うわけですよ。その人の立場になって考えると、やっぱり満額欲しいだろうから、少し無理をしてきましたけど……もう大変だったね」

「製品に関しても(コロナの影響で)地方へ営業に行けないから、東京から電話で連絡を取り合ったりリストを見直したりと、試行錯誤の日々でした」

 取材の際には「昔は“日本一速い男”と言われたけど、今じゃ“日本一借金の多い男”だよ!」と笑いながら話してくれた星野監督。しかし、経営者として従業員を守らなければいけない責任感が大いに感じられたのと同時に、いざレースが再開した時に向け、チームが全力を出せる状態にするために自身が出来ることをコツコツとこなしている姿勢が垣間見えた。

コロナ禍で思い出した“時には我慢することの重要さ”

 国内の主要モータースポーツに関しては7月から徐々にレースが再開されていくが、スーパーGTは感染防止対策のためサーキットに入場できる関係者の人数を厳しく制限。現段階では9月の第4戦までは無観客で開催されることが決まっている。

 レースが始まるとは言っても、ファンはサーキットに来て観戦することはできない。星野監督も、ファンの気持ちを想像し、胸を痛めている様子だった。さらに緊急事態宣言が全面解除されたとはいえ、モータースポーツのみならず日々の生活も元に戻ったとは言い難い状況。まだまだ我慢を強いられる場面が日常の中でもよくある状況だ。

 コロナ禍で外出自粛を呼びかけられた期間、星野監督は自身の経験から“時には我慢をすることの重要さを改めて思い出していたという。

「僕もオートバイの時からレースをやってきて、50年近くになりますが、そういう(我慢を強いられる)時期もずっとありました」

「日産に入った時は先輩がたくさんいて、(レースで)乗るクルマがなくて、順番を待たなければいけなくて……。年間で3レースくらいしか出られませんでした。どこか手持ち無沙汰というか、(クルマに)乗れなくてイライラしていることもありました。その中で先輩のクルマの慣らし走行などをしつつ、“我慢”というのを覚えましたね」

「その後はオイルショックもあって大変でした。でもそれでもジッと我慢をして、”チャンスが来たら食いついて絶対に逃さないぞ!”という気持ちでやっていましたね」

「オイルショックでレースの規模が縮小された時は、(日産は)『とりあえず若いドライバーをふたり残しておけ』ということで、長谷見さんと僕が残ることになったんです。小規模ながらでもテストや開発などの機会はあるだろうということでね。そこから(レース業界が)盛り返して、僕たちはバブル(でレースが大きく盛り上がった時代)を経験できました」

「先輩たちはバブルを経験していないけど、僕たちはそれができた。自分のこれまでの経験を振り返ると、我慢をしたから得られたものもたくさんあったし、バブルのように良い時がきても階段を踏み外さないようにしっかりとやっていかなければいけないなと思いましたね」

「だから、今は明るいニュースはないけど、じっと堪えて、我慢して、またそのチャンスが来たときに、思い切り盛り上げる。『今に見ていろ。レース界は苦しい時だけど、また盛り上がる時が来るから、その時に頑張るんだ』という想いでいます。今はコロナ禍だからと言って泣いているわけにはいかないんですね」

星野監督がモータースポーツファン、特に若い世代に伝えたいこと

 まだまだコロナ禍で先行きが不透明な部分もたくさんある状況で、不安な気持ちになっている人も少なくないだろう。星野監督はファンに対して、こうメッセージを贈った。

「我慢、辛抱、努力。これは人生においてもそうです。今は大変で苦しい時期かもしれないけど、また(盛り上がって、良い時が)必ず来るからね。その時に暴れまくれるように今は(エネルギーを)蓄えておくことも必要。特に若者たちには『焦るな、我慢することが大事な時もあるんだ』ということは言いたいですね」

「もちろんレースでは我慢してもらっては困ります。そこは思いっきり行け!  と言いますし、今年のドライバーたちにはセッティングのこととか細かい言い訳をしないで、とにかくガンガン行ってもらいたいです」

「いつか『あぁ、星野さんが言っていたことはこういうことだったんだな』と分かってもらえる時が来てくれればいいかなと思います。今はレースも無観客の状態になっていますが、いつかまた皆さんがサーキットに足を運べるようになった時は思い切り盛り上げたいですし、それを今年の後半戦から何とかやっていって、来年につなげていきたいですね」

From the editor, also read:

Be part of Motorsport community

Join the conversation
前の記事 「インターバルの間に問題点を洗い出せた」100号車NSX-GTの山本尚貴、富士テストで手応え掴む
次の記事 GRスープラ、鮮烈デビューウィンなるか? キャシディ「NSXとの差はほとんどない」

Top Comments

コメントはまだありません。 最初のコメントを投稿しませんか?

最新ニュース

ピエール・ガスリー、フランス3部FCヴェルサイユの共同オーナーに就任「僕は常にプロサッカーに関わりたいと思っていたんだ!」

ピエール・ガスリー、フランス3部FCヴェルサイユの共同オーナーに就任「僕は常にプロサッカーに関わりたいと思っていたんだ!」

F1 F1
ピエール・ガスリー、フランス3部FCヴェルサイユの共同オーナーに就任「僕は常にプロサッカーに関わりたいと思っていたんだ!」 ピエール・ガスリー、フランス3部FCヴェルサイユの共同オーナーに就任「僕は常にプロサッカーに関わりたいと思っていたんだ!」
「KTMはドゥカティにかなり接近している」バスティアニーニ、開幕戦終えライバルの進歩実感

「KTMはドゥカティにかなり接近している」バスティアニーニ、開幕戦終えライバルの進歩実感

MGP MotoGP
ポルトガルGP
「KTMはドゥカティにかなり接近している」バスティアニーニ、開幕戦終えライバルの進歩実感 「KTMはドゥカティにかなり接近している」バスティアニーニ、開幕戦終えライバルの進歩実感
アルピーヌF1、最遅の”衝撃”が体制刷新の引き金に「変革の必要性を確認できた」

アルピーヌF1、最遅の”衝撃”が体制刷新の引き金に「変革の必要性を確認できた」

F1 F1
アルピーヌF1、最遅の”衝撃”が体制刷新の引き金に「変革の必要性を確認できた」 アルピーヌF1、最遅の”衝撃”が体制刷新の引き金に「変革の必要性を確認できた」
マルケス兄弟、新たにアウディとスポンサー契約を締結。同グループのドゥカティ販売増にもつながる?

マルケス兄弟、新たにアウディとスポンサー契約を締結。同グループのドゥカティ販売増にもつながる?

MGP MotoGP
マルケス兄弟、新たにアウディとスポンサー契約を締結。同グループのドゥカティ販売増にもつながる? マルケス兄弟、新たにアウディとスポンサー契約を締結。同グループのドゥカティ販売増にもつながる?

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

Motorsport prime

Discover premium content
登録

エディション

日本