スーパーGT参戦車両で段違いに暑い!? ホンダNSX GT3使用チームは夏場を乗り切るため悪戦苦闘
ホンダNSX GT3使用チームを筆頭に、多くの体調不良者を出したスーパーGTもてぎ戦。酷暑のレースを経て、各チームはどういった対策をしているのか?
写真:: Masahide Kamio
2021年シーズンのスーパーGTは前半4戦を終え、折り返し地点に突入。9月11日、12日にはスポーツランドSUGOで第5戦が行なわれる。9月に入り、全国的にも涼しい日々が続いて早くも秋到来といった様相だが、SUGO戦で残暑に見舞われる可能性も十分あり得るだろう。
既報の通り、7月に厳しい暑さのツインリンクもてぎで行なわれた第4戦では、4人ものドライバーが熱中症と見られる症状によりメディカルセンターで処置を受けた。しかもその内3名が、ホンダNSX GT3を走らせていたドライバー。さらに言えば、GT300クラスでNSX GT3を使用している3チーム全てで体調不良者が出たのだ。
コックピットが狭いNSX GT3は、コックピットの排熱性能にも課題があり車内の熱がこもりやすいため、スーパーGT参戦車両の中でも特に“暑い”車両であるという声が多く聞かれている。この車両を扱うチームは、7月のもてぎ戦を経て何を考え、8月の第3戦鈴鹿に向けてどんな対策をしてきたのだろうか?
(注:第3戦鈴鹿は当初5月に開催予定だったが、新型コロナ感染拡大の影響で延期となり、第4戦もてぎの後に開催される形となった)
真夏のレースは“クールスーツ命”。各チーム信頼性対策に注力
今季のスーパーGTのGT300クラスで、NSX GT3を採用しているのはTEAM UPGARAGE(18号車)、Yogibo Drago CORSE(34号車)、ARTA(55号車)の3チーム。その内エアコンとクールスーツを両方搭載しているのは34号車のみで、18号車と55号車はクールスーツのみ搭載となっている。これにはNSX GT3のエアコン効率が芳しくないことも関係しているようだが、いずれにせよ夏場のレースではクールスーツがある意味命綱となっている。
しかし、もてぎ戦では55号車の佐藤蓮と34号車の密山祥吾が共にクールスーツが効いていない状況での走行を強いられてしまい、体調不良に見舞われてしまった。そういった意味でも、やはりクールスーツを確実に機能させることは夏場のレースにおいて非常に重要になってくると言える。
クールスーツとは、ドライバーのアンダーウェアを通るチューブに冷却された液体を流し、ドライバーの身体を冷やす装置。トラブルとしては、タンクから液体を吸い出してクールスーツへと送り込むポンプが故障する、というケースが多いようだ。ARTAも8月の鈴鹿戦から予備のポンプを増設し、信頼性向上に務めているという。
またTEAM UPGARAGEの一瀬俊浩エンジニアは、クールスーツの信頼性対策について次のように語った。
#18 UPGARAGE NSX GT3
Photo by: Masahide Kamio
「クールスーツのトラブルは、ポンプが熱でやられてしまい、ベアリングなどが焼き付いてモーターが回らなくなる、ということが多いと思います。ですので、そこの電流制御をできるように、制御用のツマミを用意しています」
「モーターは電流値をコントロールすれば回転数も制御できるので、あまりフルパワーで回さないようにして、熱を持たないようにしています。ただ、回転数を落とせば(クールスーツの)効きも悪くなるので、そこは塩梅を見ながらですね」
またクールスーツのポンプに関しては、熱で動かなくなる以外にも、凍って動かなくなるケースもあるという。スバルの小澤正弘総監督は次のように語っていた。
「我々はドライアイスで循環水を冷やしていますが、ずっと回していない状態でいきなり動かそうとすると凍っちゃって動かないということが過去にはありましたので、ポンプを定期的に回すなど、対策をしています」
61号車SUBARUの助手席部分。写真手前にはドライアイスが積まれるクーラーボックスも
Photo by: Masahide Kamio
NSXユーザーではないものの、もてぎ戦でケイ・コッツォリーノが熱中症に見舞われた9号車PACIFIC NAC CARGUY Ferrariも、鈴鹿でクールスーツに関するアプローチを変更した。彼らはもてぎ戦では“電子式”のクールスーツを使っていたが、その効きが悪かったため、鈴鹿戦から氷を入れたクーラーボックスで液体を冷やすオーソドックスなタイプを採用したという。
この“電子式”のクールスーツとはどういったものなのか? かつて電子式のクールスーツを採用していたという18号車の一瀬エンジニアに聞いた。
「エアコンや冷蔵庫に近いシステムでして、電気で冷媒を冷やして、(液体を)冷やすというものです。ただこのシステムは、(冷却システム)本体自体を冷却する必要があります」
「実は僕たちも、オフのテストでそれを使っていました。しかし車内温度が高すぎるせいで本体自体を冷却できず、止まってしまうということがありました。一応(開幕戦の)岡山では使ったのですが、その時から『ぬるい』と言われてしまい、これでは真夏のレースは無理だと思いましたので、今年の途中で(氷で冷却するタイプに)戻しました」
ドアウインドウ開口部はつけるべき? NSX GT3ユーザーでも分かれた方針
酷暑のもてぎ戦を終えて、暑さ対策でもうひとつ注目された点がある。それが、GTアソシエイション(GTA)から出されたFIA-GT3車両に対する特別措置だ。8月の鈴鹿戦から、運転席および助手席のドアウインドウに車室の換気用開口部を設置することが許可されたのだ。
車内温度の高さが課題となっているNSX GT3ユーザーの3チームにとって、これは朗報にも思える。しかし、彼らの中で実際に開口部を設けたのは18号車UPGARAGEのみであった。これは一体何故なのだろうか?
34号車のドライバー兼エントラント代表を務める道上龍は次のように語った。
「今回、GT3車両に関する暑さ対策が出ていましたが、このクルマでやれることは何もありません」
「窓(の開口部)を大きくできるとありましたが、入ってきた風が抜けないと意味がありませんから」
NSX GT3は、車内に風を入れてもそれを排出=排熱する性能に限界があるため、開口部を設けても意味がない、というのが道上の主張。一方ARTAの池田弘人チーフクルーは、排熱用の開口部を設けることはできるが、それでもあまり意味はないという考えのようだ。
55号車ARTAはドアウインドウ部に開口部を設けず
Photo by: Masahide Kamio
「NSX GT3は、車内に入ってきた風の“抜き”、つまり排熱が少ないです。この“抜き”を作るための開口部を作ってもいいんですけど、その辺りは空力とのバランスになってきますし、ドライバーもエンジニアも嫌がる傾向にあります」
池田氏はそう語る。
「それに、結局クールスーツが壊れてしまえば、その“抜き”が開いていようが開いてなかろうが、基本的にドライバーは走れないと思います」
18号車UPGARAGE。ドアウインドウ後部にスリット状の開口部が確認できる
Photo by: Masahide Kamio
そんな中、ドアウインドウ後部に“抜き”のためのスリット状の開口部を設けてきたのが18号車。一瀬エンジニアはその理由について「現場に来てから『暑い、どうしよう』ということがないように、一応開けていこうと。使わないのであれば塞げばいいだけですからね」と話していた。
導入が予想される『NSX GT3 Evo22』が救世主となるか?
このように、NSX GT3ユーザーは暑すぎる車内温度に対処するため、頭を悩ませている。そんな中8月には、アメリカのホンダ・パフォーマンス・デベロップメントがNSX GT3の改良版、『NSX GT3 Evo22』をアキュラブランドで発表した。この車両はエアコンシステムなどにも改良が加えられているようで、これがホンダブランドとしてスーパーGTに投入されることになれば、チームの悩みの種も解消されるかもしれない。
道上は、今後導入されるであろうNSX GT3 Evo22への期待感も語りつつ、ドライバーにとってマシンの快適性はパフォーマンスにも関わる重要な要素であると訴えた。
「GT3 Evo22に関しては、僕たちの意見なども踏まえたアップデートが行なわれると思うので、どこまでクーリングを改善してホモロゲーションをとれるかですね。もちろん、財政面でどのくらいの費用がかかるのかも見ておかないといけませんけどね」
「やはり快適性は一番上げてほしいですよね。いくらクルマが速くなってもドライバーがしんどかったら速く走れません。そこはなかなかトレーニングでどうこうできるものではありませんから」
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