【スーパーGT】酷暑の第4戦もてぎでドライバー4人が体調不良……“異常事態”はなぜ起こったのか?
酷暑の影響により、4人のドライバーがレース後メディカルセンターで処置を受けたスーパーGT第4戦もてぎ。これほどまでに多くのドライバーが体調不良に見舞われた背景を探った。
写真:: Masahide Kamio
7月18日にツインリンクもてぎで行なわれた2021スーパーGT第4戦。気温30℃超え、路面温度は一時50℃を超えるという“酷暑”の中で行なわれたこのレースでは、ドライバー、メカニック、レースクイーンなど、多くの関係者が熱中症などの体調不良に見舞われた。
特にドライバーに関しては、実に4人がレース後にメディカルセンターで処置を受けた。これまでも夏の海外戦や鈴鹿1000kmなどで体調不良者が出ることはあったが、4人がメディカルセンター行きになったというのは異例だという。ではなぜ、このような事態に陥ったのだろうか?
まず、メディカルセンター行きとなった4人のドライバーの内訳はこうだ。9号車PACIFIC NAC CARGUY Ferrariのケイ・コッツォリーノ、18号車UPGARAGE NSX GT3の名取鉄平、34号車Yogibo NSX GT3の密山祥吾、そして55号車ARTA NSX GT3の佐藤蓮だ。4人全てがGT300クラスのFIA-GT3車両に乗るドライバーであり、その内なんと3人がNSX GT3ユーザーなのだ。つまり、NSX GT3を使用する3チーム全てで体調不良者が出たということになる。
これは決して偶然ではないかもしれない。
NSX GT3の暑さは群を抜いている?
#55 ARTA NSX GT3
Photo by: Masahide Kamio
「NSX GT3は暑い」
同マシンに関わるドライバー、関係者は皆口を揃えてそう話す。特にNSXとそれ以外のGT3車両を共に経験した者からは、その車内の快適性に大きな差があるという声も聞こえてきた。
2018年までBMW M6 GT3を使用し、2019年から現行のNSX GT3にスイッチしたARTAのチーフクルー、池田弘人氏は次のように語った。
「BMWは室内が大きいのですが、NSXはコンパクトなので熱気がこもりやすいんだと思います」
「あとは風の“抜き方”、排熱の部分が良くないんだと思います。風を入れたとしても、排熱しないといけない、つまり“抜く”必要があります。NSXはその“抜き”が少なくて熱がこもりやすいんじゃないかなと思っています」
スーパーGTではドライバーの熱中症防止のため、エアコンやクールスーツなどの搭載が義務付けられており、今季のGT300クラスでは第6戦オートポリスまで「エアコンディショナー装置またはクールスーツ装置を機能する状態で搭載し、使用しなければならない」とされている。熱のこもりやすいNSX GT3はエアコンの効率が芳しくないということもあり、NSXユーザーの3チーム全てがクールスーツを使用している。
しかし、今回はその内55号車の佐藤、34号車の密山がクールスーツの効いていない状態での走行を強いられてしまい、それが体調不良に繋がったのだ。34号車はNSX GT3勢の中でエアコンとクールスーツを両方搭載している唯一のチームだが、エアコンの効果はドライバー兼エントラント代表の道上龍曰く「そよ風程度」とのことで、レーシングスーツとグローブをつけていると、冷気の気配すら感じられないという。
コクピットの”排熱性能”に課題のあるNSX GT3勢でクールスーツを機能させられなかったチームが複数出たことは確かだが、仮にクールスーツが動いていても、ドライバーにとってはかなり過酷な状況であったことは間違いないだろう。現にクールスーツに問題が起きていなかった18号車NSXの名取も熱中症の症状に見舞われているし、フェラーリ488 GT3を駆るコッツォリーノも同様に熱中症となっているのだ。
その背景には、クールスーツに関する規定の変更があるようだ。
“スーパークールスーツ”が安全性の観点から使用禁止に
スーパーGTではこれまで、俗に“スーパークールスーツ”とも言われるベスト型のものが使用可能だった。これはベストの全面に冷却された液体が流れるもので、非常に快適性が高かったという。
しかしながら、FIAの厳しい耐火基準を遵守しなければいけない影響から、昨年からこういったタイプのクールスーツが使用できなくなった。現在は耐火性のアンダーウェアにチューブを通し、そこに液体を流すというものが採用されているが、上半身の広範囲を冷やせる“スーパークールスーツ”と比べると、その効果は限定的と言わざるを得ないようだ。しかし、そういった規則変更もまた、ドライバーの命を守るために行なわれたものであることは忘れてはならない。
ARTAが使用しているクールスーツ
Photo by: Motorsport.com / Japan
したがって、車内温度の高さが課題となっているチームは今後、クールスーツの信頼性向上や、マシンのエアコン効率、コクピットの排熱性能向上を、レギュレーションで許される範囲で行なっていくことになるだろう。
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