GT500を席巻。ブリヂストンはなぜ強いのか? 今も活きるF1時代の”遺産”
スーパーGTのGT500クラスで強さを見せるブリヂストンタイヤ勢。その強さの裏には、同社がF1に参戦していた時に形作られた試験手法が今も活きているという。
F1用(左)とスーパーGT用(右)のブリヂストンタイヤ
Motorsport.com / Japan
スーパーGTのGT500クラスでは、ブリヂストンタイヤを使うマシンが強さを発揮し続けている。今季ここまで全勝。2020年以降を見ても、3回しか”負けていない”のである(18戦15勝)。
なぜGT500でこれほどまでにブリヂストンタイヤユーザーが強いのか? これについてブリヂストンのモータースポーツ開発部門の寺田浩司部門長に訊いた。
「コロナ禍で十分にテストができなかったりしたので、ライバルメーカーさんの性能向上については脅威に感じています。余裕というわけではありません」
そう寺田部門長は語る。
「レースは良いタイヤがあれば勝てるというモノではありません。コンディションに適したモノをしっかりサポートするのが重要。スーパーGTのようにタイヤコンペティションになっている場合は、特にそれが重要です」
「我々はコンディションに応じてサポートできていると思うので、ソフト面とハード面の両方で、少しだけ優位に立てているのかなと思います」
ではブリヂストンの”ハード“面の技術開発は、どうやっているのか? 他のカテゴリーで培われた技術が、スーパーGT用タイヤの開発に貢献しているのだろうか? これについて寺田部門長は、次のように説明する。
「(技術開発のベースは)スーパーGTそのものです。何か他のカテゴリーからの展開というのは、やりたくてもできないというのが現状です。ニュルブルクリンクだったり、カートで得られたモノも多少は使いますが、スタート地点はスーパーGTである場合が多いです」
ただ、かつて参戦したカテゴリーの”遺産”は、今もスーパーGTタイヤの開発に活かされているという。それが2010年まで参戦していたF1だ。
「F1の遺産はあります。中には時代遅れになっているモノもありますが、それは精査して使っています」
「一番使っているのが、室内評価手法というか、試験機ですね。これには巨額の投資が必要なんですが、F1をやる時にはかなりの投資をします。その時に作ったのがこの試験機で、今も我々の大きな財産になっています。ずっと同じように使っているわけではありませんが、今も継続して使っています。もしF1をやっていなかったら、なかったんだろうと思います」
アルティメット アイ(ULTIMAT EYE)試験機
Photo by: Bridgestone
この試験機を使う評価手法は、アルティメット アイ(ULTIMAT EYE)と呼ばれるもの。接地面の圧力や摩擦力をコンピュータで予測するシミュレーション、そして実際にタイヤを回転させ、試験機で圧力や摩擦力を計測する技術……この両方を合わせたモノの総称であるという。このシミュレーションと計測を繰り返し行なうことでタイヤの精度を上げており、それがスーパーGT用のタイヤに活きているというのだ。また、市販車用のタイヤにも活かされているという。
「レースタイヤはかなり特殊なので、”スーパーGTテクノロジー”と言って市販車用タイヤに転用するのはかなり難しいです。しかしコンパウンドの原材料だったり、解析手法だったり、室内評価法は応用されています」
そう寺田部門長は説明する。
「我々の市販車用タイヤでは”アルティメット アイ”というアイコンを謳っています。これが技術、そして機械の名前なんですが、これこそがF1をやっている時に作った試験機、そして評価手法なんです」
「これは長いこと機密で、この試験機で採ったデータを公にしないという期間も長かったです。しかし2014年頃に市販車用タイヤのアイコンに使おうとなり、今はカタログや広告資料などにも使っています」
アルティメット アイ(ULTIMAT EYE)試験機
Photo by: Bridgestone
さてスーパーGTを運営するGTアソシエイションの坂東正明代表は、将来に向けて「グリップ向上よりも長い距離を走れるタイヤ」を目指したいと公言している。寺田部門長もこれには大いに賛同するという。
「坂東代表が仰るのは、1レースで使うタイヤのセット数を減らしたいというところ。我々もエントラント等に負荷をかけるのはサステナブルではないので、そうしなきゃいけないと思っていました」
「様々な負荷を減らしていった方がいいと思っていたところ、今年の3月に正式にそういうお話をいただきました」
ただタイヤ開発競争のあるスーパーGT。タイヤの航続距離を長くするとはいえ、パフォーマンスを落とすわけにはいかない。しかも、グリップ力向上とタイヤの耐久性向上は、相反する要素である。
「両立するのは難しいですが、そこが技術の発展なのでしょうね。とにかく今までのように、ピンポイントのコンディションを狙うという時代は終わると思います。それを続けるのは、自己満足の世界だと思います」
「ワイドレンジにした方が、戦略も組みやすい。我々もワイドレンジにしようというマネジメントをしているので、坂東代表が仰っていることは、我々もやりたいと思っていたことです」
ではそのタイヤは、どんなモノになるのだろうか? その概念について、寺田部門長は次のように説明する。
「一番中心のレンジ、よく使うモノの裾野をもっと広げていくというスタイルになると思います。とはいえ、ピークグリップも上げます」
「基本的には、今あるものの進化系になると思います。予選1発だけ保てばいいというタイヤは、今持っているコンパウンドをベースにして作れます。でも、それでは意味がありません。グリップを上げることと耐摩耗性を上げるのは相反する部分なんですが、その両立をもっと高い位置に持っていく……それが技術のブレイクスルーだと思っています」
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