分析:"スーパーシーズン"でも解決できないWECの問題点とは?

WECが来季以降のカレンダーの大幅な見直しを行ったことについて、motorsport.com編集部のジェイミー・クレインが考察した。

 今季末をもってポルシェがFIA世界耐久選手権(WEC)LMP1プログラムを終了させることを発表してから、1ヵ月以上が経過した。今月上旬に行われたWECメキシコシティでは、FIAとACO(フランス西部自動車クラブ/ル・マン24時間レース運営組織)が考える世界的なスポーツカー選手権の今後のビジョンが明らかにされた。

 WECはル・マン24時間レースをカテゴリーの最終戦に持ってくるために、その移行期として特例的に2018年初頭から2019年のル・マンまで約18ヵ月を1シーズンとして開催する"スーパーシーズン"について発表した。これにより、今後は狙い通りル・マン24時間が最終戦として設定される予定だ。しかしスーパーシーズンは、シルバーストンとニュルブルクリンクが開催されないことから、すでに一部のファンから不評を受けている。

 だが、早急に立てられたこの新スケジュールに、ル・マン24時間を2レースと2012年以来の復帰となるセブリングでのレースが追加されたことは、トヨタのフル参戦を継続させるという狙いがあったようだ。

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 WECが今後の方向性について発表する前まで、トヨタは2018年活動計画の案として富士とスパ、ル・マン24時間の3レースにスポット参戦をするプログラムを検討していることが広く噂されていた。

 8月1日付けでTMG(トヨタモータースポーツGmbH)の社長に就任した村田久武は、将来の計画の発表は来月中に行われる理事会の最終承認を待つ可能性が高いと述べている。

「我々がなぜWECでハイブリッドを使ってレースをやっているかというと、そこでハイブリッド技術を成熟させて量産車に反映させたいからです。ハイパフォーマンスのハイブリッド・スポーツカーなどが開発の視野に入っており、すでにプログラムは進んでいます。ですから、ライバルがいなくなってもハイブリッド・レーシングは続ける意味があるのです」

「ハイブリッド技術を開発できるWECでレースを継続させることが、どれほど重要なものなのか社内の取締役会メンバーと話し合いました。我々にはまだやるべきことがたくさんあります」

#8 Toyota Gazoo Racing Toyota TS050 Hybrid: Anthony Davidson, Sébastien Buemi, Kazuki Nakajima, #7 Toyota Gazoo Racing Toyota TS050 Hybrid: Mike Conway, Kamui Kobayashi, Jose Maria Lopez

 今季末にポルシェLMP1チームを失うことになるWECにとって、伝統的なレースカレンダーにこだわり、フラッグシップとなるメーカーの参加台数が少なくなるよりも、トヨタがフル参戦することは極めて意義深いものだった。

 その理由は、今後LMP1クラスにBRエンジニアリング/ダラーラやジネッタ、バイコレスなどのプライベーターの参戦が見込まれているため、最低6台のLMP1車両をグリッドに並べることができる可能性が高くなるからである。

 台数が多いとは言えないが、今後レギュレーションの調整を行うことでハイブリッドのトヨタとガソリンのプライベーターの性能差が縮まれば、少なくともドライバーズチャンピオンシップの意義を確立していけるだろう。

 しかしこれは主に短期的な問題であり、WECが長期的に取り組まなければならないのは、2020年以降トヨタ以外の新しいメーカーをカテゴリーに誘致することだ。

 アメリカを中心にしてレースを行うIMSAは今季よりデイトナプロトタイプ(DPi)規則を新しく取り入れた。それにより、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権へヨーストとペンスキーを誘致することに成功している。

 すでにWECは2018/19年シーズンからDPiを取り入れる可能性を排除している。しかし、WECはこのコンセプトがLMP1車両に適応することができるかどうか検討し続けていくという。

 LMP1クラスに参戦するためには、年間1億ユーロ(132億円)ほどの予算を必要とするのが現状であり、これが参戦者を遠ざけている主な要因のひとつだ。すでにマクラーレンのエクゼクティブディレクターであるザク・ブラウンは、その水準を大幅に引き下げることができれば、WECに参戦することを前向きに検討すると述べている。もしLMP1クラスにDPi規則を取り入れることができれば、容易にそれを実現できる可能性も見えてくることだろう。

 DPiは新しく参入するLMP1プライベーターのパフォーマンスを一律にすることが可能となり、さらに現行のDPi規則はヨーロッパでレースをしている一般的なLMP2クラス車両とも互角にレースできるような設計が施されている。

 そのようなプラットフォームならば、WEC参戦を目論むメーカーのプジョーとも折り合いをつけられるかもしれない。これまでもプジョーはWEC参入のために、コストの劇的な削減と技術レベルの低下を求めロビー活動を行なってきている。

 もしLMP1クラスにDPiが取り入れられることとなれば、WECカレンダーとIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権カレンダーを統合することも論理的に考えられる。2018/19年シーズンで復帰するセブリングは、その初めのステップになり得るだろう。WECがIMSAの強みを活用してシリーズへの関心を高めることは、恥ずべきことではない。

#10 Wayne Taylor Racing Cadillac DPi: Ricky Taylor, Jordan Taylor

 ポルシェLMP1プログラムの撤退を受けたFIAとACOは、重大な行動を起こしたと言える。ル・マン24時間の時点で発表されたレギュレーションからは、そのような動きがあるように感じられなかった。もしWECがポルシェをLMP1クラスに留まらせるためにレギュレーションを制定していたとしたら、これは完全に不発に終わった。

 それでもメキシコでの発表は、シリーズ復興に向けた長い道のりの第一歩に過ぎないことを心に留めておくことが重要だ。

 2014~16年までの輝かしい栄光から一転したWEC。再び素晴らしいチャンピオンシップを取り戻すには時間がかかるとみられる。WECは一刻も早く2020/21年シーズンに向けて、一連のルールを確立するために取り掛からなければならない。

Additional reporting by Kunihiko Akai 

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シリーズ WEC
記事タイプ コメンタリー