
ポルシェLMP1チームの一員として富士スピードウェイを訪れていたブレンドン・ハートレー。ポルシェ919ハイブリッド2号車のドライバーとしてティモ・ベルンハルト、アール・バンバーとドライバーズ・タイトルに最も近い位置にいる。
しかし、ハートレー個人に取ればより大きな緊張が待っている。ポルシェのWECプログラムが今年で終了する事は公表済みだが、同チームのドライバーでも来年以降の身の振り方が決まっていない者が多い。ハートレーもそのひとりで、インディカーレースへの転身が噂されている。しかし、ここに来て新しい可能性が彼の頭上に降って来た。F1だ。
トロロッソはマレーシアGPより、ダニール・クビアトに代わってスーパーフォーミュラ参戦中のピエール・ガスリーを走らせることを決めた。翌日本GPもそのガスリーとカルロス・サインツJr.がトロロッソのマシンを走らせたが、この日本GPの予選終了後にサインツJr.の次戦アメリカGP以降のルノーF1チーム移籍が発表。サインツJr.は来季からのルノー移籍が既に決まっていたため、その施行が前倒しとなった格好だ。サインツJr.の後任にはクビアトが復帰し、ガスリーと共にアメリカGPを戦うものとみられていた。しかし先週末、ガスリーはアメリカGPと同日に行われるスーパーフォーミュラ最終戦に参戦することが決まり、それと同時にハートレーのアメリカGP参戦が発表されたのだ。
複雑なジグソーパズルのピースがひとつひとつ埋まっていくように、各チームのドライバーが決まっていく。しかし、ハートレーの起用は驚きを持って迎えられた。それはハートレー本人にとっても同様だった。
「狂ったような1週間がいきなり始まった感じで、あっという間に時間が過ぎていった」
「富士のWECが終わったらすぐにアメリカの週末のことを考えなくてはいけない。F1デビューは僕の永年の夢が叶うこと。とにかく集中して取り組むよ」
トロロッソ加入はレッドブルのヘルムート・マルコ博士からの電話でハートレー本人に知らされた。彼とレッドブルの間に関係はないように見えるが、若い頃からレッドブル・ジュニアチームのメンバーとして支援を受けていた。ジュニア・フォーミュラのカテゴリーを経験し、2009年にはトロロッソF1をテストしている。2010年にはフォーミュラルノー3.5に参戦、それに続いてポルシェのWECプログラムに呼ばれることになる。2012年、メルセデスF1をテストドライブ、それがF1に接した最後だ。それから5年経ち、いよいよ今年、本格的にF1デビューを飾る。
自信のほどを尋ねると、次のような答えが返って来た。
「当時と比べて僕は随分と成長したと思う。F1デビューのアメリカGPの週末は忙しくなるけど、上手くやり抜く自信はある」
10月、ハートレーは忙しい週末を過ごしている。先週はアメリカでIMSA選手権を走り、今週末は富士でWEC、そして来週はアメリカでF1デビューだ。
「F1は僕が子供の頃からの夢。その時が来るのをずっと夢見ていた。とにかく全力で戦って、楽しんで来る」
ニュージーランド出身のドライバーがF1に参戦するのは、マイク・サックウェル以来33年振り。ブルース・マクラーレンやデニス・ハルムを生んだ国に久々に後継者が登場する可能性がある。ポルシェがWECから撤退した後は、ハートレーはどこへ行くのか?
「来シーズンの事はまだ決まっていない。インディカー・シリーズへの参戦が視野にあるが、F1という選択肢も出て来たかもしれない。しかし、現実的に厳しいことはわかっている。とにかくアメリカで全力を尽くす」
ニュージーランドのブロンドの若者も、もう27歳。現実の世界の厳しさはよく知っている。
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