LMP2が最速……逆転現象が起きているWEC。開幕戦で性能調整の予定は無し! 大混乱のレースが待っている?

プレシーズンテストではハイパーカーより、LMP2クラスの方が速いという逆転現象が起きていたWEC。しかしシリーズ側は開幕戦スパに向けて両クラスのパフォーマンスレベルを変更する意図はないようだ。

LMP2が最速……逆転現象が起きているWEC。開幕戦で性能調整の予定は無し! 大混乱のレースが待っている?

 5月1日のスパ6時間レースでシーズンが開幕する世界耐久選手権(WEC)。今季から新しくLMH規定のマシンが走るハイパーカークラスがトップカテゴリーとなり、トヨタがニューマシン『GR010 HYBRID』を2台エントリー。アルピーヌも、レベリオンが使用していたLMP1マシンでエントリーしている。このLMP1マシンは性能調整が施され、LMHマシンと同程度のパフォーマンスとなるよう100kgのバラストを積んでいる。

 当初からLMHのマシンはLMP1マシンよりもパフォーマンスが下がるようにデザインされていたが、開幕戦を前にスパ・フランコルシャンで行なわれた公式プレシーズンテスト”プロローグ”では、トップカテゴリーであるはずのハイパーカークラスよりも、LMP2クラスのマシンの方が速いという”逆転”現象が起きてしまっていた。

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 LMP2マシンも、昨年よりパフォーマンスが下方調整されている。これはハイパーカークラスのマシンがLMP1時代よりも遅くなることを受けた変更だ。約600hpのパワーが536hp(400kW)に抑えられ、最低重量も950kgと、昨年より20kg重くなっている。さらには、WECのすべてのレースでローダウンフォース仕様のエアロパッケージで走ることが決まっている。

 にも関わらず、LMP2クラスの方がラップタイムが速くなってしまったのだ。実際のところ、そのパフォーマンスはかなり拮抗しており、第1セクターと第3セクターではトヨタ勢が速さを見せるものの、ツイスティな第2セクターではより軽量なLMP2マシンに対してタイムを失っているという傾向があった。

 こうした状況について、TOYOTA GAZOO Racingヨーロッパのテクニカルディレクターを務めるパスカル・バセロンは、ハイパーカーとLMP2のパフォーマンスバランスを見直す必要があると語った。バセロン曰く、プロローグでのGR010は予測通りのパフォーマンスだったという。

「選択の余地はないと思う。このような階層化を狙っていたわけではないはずだ。LMP2マシンがハイパーカーより速く走ることは、間違いなく目標ではなかった」

「私が言いたいのは、それを修正しようという明確な意志があるということ。調整が見直されなければならないということだ」

 また、バセロンはGR010の出力を上げるという手法は採れないと語った。

「もっとパワーを上げられる可能性はあるかもしれないが、それを検証したわけではない。未知の領域に入ってしまうので、ごく短期的にもそれはできない」

■LMP2クラスのドライバーたちも困惑「トヨタと戦いたくはない」

 一方、LMP2マシンの性能を下げることは、見かけほど簡単な解決策ではないかもしれない。

「LMP2のドライバーとしては、これ以上スピードを落としたくない」

 そう語るのは、プロローグテストで初日トップタイムをマークしているユナイテッド・オートスポーツUSA22号車のドライバーであるフェリペ・アルバカーキだ。

「すでにマシンのフィーリングはかなり悪いんだ。特にロングランだね。フラストレーションが溜まるし、クルマを機能させるのはほとんど不可能だ。ダウンフォースが適切な範囲になければ、セットアップでできることはほとんどないからね」

「バーレーンでもル・マン用のエアロキットを使うことになるけど、気温もかなり高いし……あんなところをどうやって走ればいいか分からない。スパの路面温度は20~25度で、すでに滑りやすい状態になっていたからね。これはジェントルマンドライバーではなく、プロドライバーから見てもそうなんだ」

 そのためアルバカーキは、ハイパーカーのパフォーマンスを向上させる方法を検討すべきだと指摘している。

「今はハイパーカーをより速くすることに集中すべきだと思う。重量を減らすべきだ。彼らはコーナーが多い第2セクターで苦戦していた。彼らのクルマは重すぎるから、もっと軽くしてあげてよ。アルピーヌはLMP2からLMP1に変更したのに……昨年LMP2で走った時より遅いんだ」

「これから(ル・マン24時間レースが開催される)8月までに色々なことが起きるだろう。でも紙に書かれた計画と現実は別物だ」

「WECとACO(フランス西部自動車クラブ)はドライバーやチーム、エンジニアの意見に耳を傾ける必要がある。僕たちはトヨタと戦いたくないんだ。LMP2はすでに競争が激しいんだから!」

 JOTA38号車のアンソニー・デビットソンは、LMP2マシンのストレートスピードが下がっていることから、LM-GTEクラスのマシンをコーナーで抜かざるを得ない状況が増えており、それがクラッシュ増加につながっていると指摘した。

 プロローグテストでは確かに接触が多く、高速走行時の接触でマシンが大破するクラッシュも多かった。

「GTEの方がメカニカルグリップはあるけど、ル・マン用のエアロキットを使っていても僕たちの方がダウンフォースが大きいので、高速コーナーでの接近速度は恐ろしいものがある」と、デビッドソンはmotorsport.comに語った。

「クラッシュが増えているのはそのためだと思う。LMP2のドライバーたちは、以前のように直線的に追い越すことが難しくなったため、高速域での速さを活かして動かなくちゃいけなくなったんだ。よく知っているサーキットでも、オーバーテイクの方法が以前とは違ってきているんだ」

■スパで性能調整を行なう予定はなし! 混乱のレースとなる可能性も?

 WECを運営するACOとFIAは、開幕戦スパ6時間レースを前に両クラスのパフォーマンスレベルを変更するつもりはないと明らかにしている。変更を行なう前に、プラクティスや予選、決勝で得られたデータを分析する必要があると考えているのだ。

 ACOのテクニカルディレクターであるティエリー・ブーヴェは、レースを前に変更が行なわれる可能性があるかと訊かれ、「現時点ではまったくない。ハイパーカーのパラメーターは、当初のものから変更はされない」と答えた。

「我々は新しい性能調整(BoP)を発行するだろう。いくつか変更点があるかもしれないが、それは変更というよりミスの訂正に関連するものだ」

「我々は1年6ヵ月の間、マニュファクチャラーと共に多くのシミュレーションを行なってきたが、その成果を無駄にするべきではない」

 ブーヴェは開幕戦のBoPを”出発点”だと表現。テストのラップタイムにはBoPだけでなく他の要因も関係してくると付け加えた。

 また、LMP2のマシンが空気抵抗の少ないル・マン用のエアロキットを使っていることで、パワーダウンを補うことができている可能性があり、高速サーキットのスパでは期待通りの効果が得られていない可能性があると考えている。

「我々がLMP2に対して行なった変更は非常に大きいもののように思えるが、昨年や2019年のプロローグ、フリー走行とスピードを比較してみると、信じられないほど接近していた」

「ル・マン用のキットは、パワーダウンの大部分を補っており、ストレートエンドでのトップスピードがほとんど同じなんだ」

 スパはハイパーカーにとって記念すべき初レースとなるが、このままではLMP2クラスがその初戦でポールポジションを獲得・優勝する可能性が十分にある。

 だがデビットソンは、現在レースがウエットコンディションで行なわれる確率が高い予報となっていることから、LM-GTEクラスのマシンが勝利を収める可能性があると考えているようだ。

 実際、北米で行なわれているIMSAスポーツカー選手権では、2015年のプチ・ル・マンでGTLMクラスのポルシェ911 RSRがプロトタイプカーのDPiクラスを抑えて優勝したことがある。この時は、悪天候によりレースが途中で打ち切られている。

「昨年のウェットレースでは、GTEの方がLMP2よりも速いことがあった。なぜなら、GTEの方がメカニカルグリップが優れているからだ」とデビットソンは語った。

「数年前のプチ・ル・マンのように、ウエットになれば、GTEがレースを制することもあり得るだろう。ドライになれば、ハイパーカーがもう少しペースを上げても不思議ではないけど、今のところそうはならなさそうだ」

 雨のスパ・フランコルシャンで、4クラスが入り乱れる大混乱のレースが展開されるかもしれない。いずれにせよ、ハイパーカークラスにとって簡単なレースにはならなそうだ。

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