WEC富士の復活は重要だけど……ショーとしてはスーパーGTの方が上手?:英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記

日本を拠点に活動するmotorsport.comグローバル版のニュース・エディター、ジェイミーがお届けするコラム。今回のテーマは、3年ぶりに開催となったWEC富士について。

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JEP / Motorsport Images

 今月、待ちに待ったWEC富士の開催は、日本国内のモータースポーツシーンにとって、2年半にわたる国際舞台からの孤立に終止符を打つ重要な瞬間となりました。

 何しろ、2019年の12月に開催されたスーパーGTとDTMの交流戦以来、日本でのレースに海外勢が本格的に参加したレースはこれが初めて。その数ヵ月後に新型コロナウイルスのパンデミックが始まり、海外ドライバーやチーム関係者の日本入りが極めて困難な状況になったのです。

 2019年以降、日本を離れていた元スーパーGTドライバーのロイック・デュバルやジェームス・ロシター、オリバー・ジャービスもWECのために来日。トムスの山田淳監督など、日本を代表するレース関係者もパドックに姿を見せ、彼らとの再会を楽しんでいました。

 中嶋悟さんは、グリッド上でプジョーのロイック・デュバルと話をしていました。アンドレ・ロッテラーやデュバル、ベルトラン・バゲット、アレックス・パロウなど、ヨーロッパで活躍する若手ドライバーを育ててきた中嶋さんにとって、ヨーロッパから日本に初上陸する若手ドライバーの動向は気になるところでしょう。WECの富士開催は、日本国内とモータースポーツ界をつなぐ重要なイベントなのです。

 しかし、レース当日に集まった2万4千人のファンは、残念ながら最高のスペクタクルを味わうことはできなかったかもしれません。トヨタが地元で優勝したことは驚きではありませんでしたが、アルピーヌに2周の差をつけたことは、誰もが予想した以上の結果でした。

 2019年WEC富士以来の来日となった私の尊敬する同僚ゲイリー・ワトキンスは、旧規定のLMP1マシンは燃料タンクが小さいため、6時間のレースで1回余分にピットストップしなければならないだろうと予想していましたが、アルピーヌはトヨタと同ラップでゴールすると確信していました。

 しかしレース開始から4時間を前にアルピーヌは1周遅れとなり、ピットストップ回数の違いにより、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレー、平川亮が乗るトヨタ8号車に2周遅れでチェッカーフラッグを受けました。

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 アルピーヌとプジョーの3位争いは、レース序盤に2台のプジョー9X8のうち速い方のマシンがオイル漏れを起こし20分ほどガレージに留まったことで早々に決着。その後アルピーヌは孤独なレースを強いられることになりました。

 他のクラスはより僅差の優勝争いとなりましたが、それでも最後の1時間になるころには勝敗が決していました。LMP2クラスはJOTAが燃料セーブによって逆転を狙いましたが失敗。WRTが優勝しています。GTE Proはフェラーリがポルシェとコルベットを抑えて1-2、GTE AmはTFスポーツがブロンズドライバーのベン・キーティングの速さもあって差をつけました。

 一方で同じ富士スピードウェイで開催されたスーパーGTの2レースを振り返ってみると、5月の第2戦で日産の3号車3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zが大クラッシュし、フルディスタンスを走れなかったことを差し引いても、2戦とも波乱に満ちたレース展開となり、ファンを飽きさせることはなかったと言えるでしょう。

 WECをよく見ている人なら、7月のモンツァでのレースがスリリングなものだったことはご存じでしょう。ですがこのようなレースは例外的であり、ある意味、考え抜かれたルールやレギュレーションの結果ではなく、「偶然の産物」だともいえます。

 その原因として、例えばハイパーカークラスにおける性能調整が挙げられるでしょう。確かに、アルピーヌのパフォーマンスは、モンツァと富士のコース特性の違いを考慮して下方修正する必要がありました。ですが、ルールを作る側が明らかにやり過ぎてしまったのです。金曜日の時点で、アルピーヌがトヨタに速さで対抗することは不可能であることは明らかでした。

 モンツァでトヨタに僅差で勝利したことで、11月の最終戦バーレーンに向けてチャンピオンシップをできるだけ僅差にしておくために、余計なペナルティを科されたとアルピーヌが感じるのは当然でしょう。

 最終戦バーレーンには、トヨタ8号車とアルピーヌが同ポイントで臨みます。トヨタにとってもアルピーヌにとっても、”勝者総取り”といった状況の中で、WECはBoPを設定するという困難な仕事に直面することになります。

 スーパーGTは、GT500クラスのマシンが同じシャシーをベースに開発されているため、接近戦を続ける上で条件がより容易ではありますが、長年にわたるチャンピオン争いを見れば、GTAのサクセスウェイトシステムがうまく機能していることは明らかです。

 またタイヤ開発競争によって、スーパーGTにはさらなる要素が加えられています。コース特性や天候、コンディションが噛み合った時に、劣勢に立たされていたチームにチャンスが訪れることがあるのです。ですがWECでは、タイヤが共通のため、そうしたことは起こりません。BoPがレースでのパフォーマンスを左右する重要なファクターになってしまいます。

 スーパーGTでは、GT300クラスにおいてBoPの扱いに不満が出ていますが、WECが同一規格のマシン3種類を拮抗させるのに苦労しているのに対し、スーパーGTでは3つの規格(FIA-GT3、GT300、GT300MC)のバランスを効果的に取らなければいけないということにも留意しなければいけません。

 WEC富士の観客動員数はのべ41000人でした。これは5月のスーパーGT第2戦の決勝日の観客動員数44000人を下回っています。これは日本のモータースポーツファンにとって、モータースポーツのショーとしてのクオリティがお金をどう使うかを決める上で、依然として重要であることの表れかもしれません。

 
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