WECメキシコ決勝:雨、クラッシュ、トラブル……要素満載の6時間を1号車ポルシェが制す
WEC第5戦メキシコの決勝レースが行われ、1号車ポルシェが優勝を果たした。

薄曇りのメキシコシティ。現地時間午後1時半、世界耐久選手権(WEC)第5戦メキシコ6時間レースのスタートが切られた。スタートから飛び出したのは2台のアウディR18。アンドレ・ロッテラーとルーカス・ディ・グラッシの乗る2台が2台のポルシェ919ハイブリッド、2台のトヨタTS050ハイブリッドを引き離しにかかった。
レースが10周を終えた時点で7号車アウディのロッテラーが8号車アウディのディ・グラッシを1.126秒引き離し、さらに1号車ポルシェのブレンダン・ハートレーを3.322秒、2号車ポルシェのマルク・リーブを7.218秒離す。圧倒的なスピードだ。2台のトヨタはその後ろ。セバスチャン・ブエミが乗る5号車は7号車アウディから8秒以上、小林可夢偉が乗る6号車が13秒以上遅れて続く。
最初のピットストップはトップを行く7号車アウディ。ロッテラーによれば、「突然の性能低下でスピードが落ちた」とのこと。そのせいで予定よりかなり早い25周目にピットへ入り、6番手でレースに復帰した。ロッテラーは2スティント目もドライブを続行。実は7号車アウディのブノワ・トレルイエも、トヨタのアンソニー・デビッドソン同様このレースに参加していない。そのために7号車アウディはロッテラーとロイック・デュバルのふたりで走ることになり、1人の受け持ち時間が長くなる。
レースが30周目を迎える頃、トップは8号車アウディ、2位に1号車ポルシェが10秒遅れてつけ、その後ろに2号車ポルシェ、5号車トヨタ、6号車トヨタと続く。トヨタ勢はスタート直後にブースト圧がないと言って6号車に抜かれた5号車がすぐにスピードを取り戻し、6号車をかわして5番手に上がっている。
トップが33周目を迎えた頃、LMP2クラスの37号車SMPレーシングがクラッシュ。コース上にボディの破片を落として全コースイエロー(FCY)が出された。スタートから50分を過ぎた時間でもあり、この間にピットインするクルマが続出。上位から8号車アウディ、1号車ポルシェ、2号車ポルシェ、5号車トヨタ、6号車トヨタ……が次々とピットへ飛び込んできた。5号車はブエミから中嶋一貴に、6号車は小林可夢偉からマイク・コンウェイにドライバー交替が行われた。その6号車は、コースを飛び出す場面もあった。
午後2時29分、トップを走る8号車アウディが38周目に掛かった時グリーンフラッグが出て、レースが再開された。イエローフラッグ中のピットストップの結果、2号車ポルシェは5号車トヨタに先行を許し、レース再開後は2台の激しい3位争いが続いている。
3位争いに目を奪われている間に、トップ争いに変化があった。ハートレーからマーク・ウェバーに替わった1号車ポルシェが8号車アウディを抜いてトップに躍り出ていたのだ。8号車アウディは目の前でスピンした31号車を避けてスピードを落とした隙に1号車ポルシェに抜かれたのだ。しかし、両者の差は約1秒。ちなみにアウディは1人のドライバーが2スティントを連続で走行、レースがスタートして1時間半経過した段階で、7号車はロッテラー、8号車はディ・グラッシがドライブを続けている。
ちょうどこの頃、ターン12で31号車を抜こうとした6号車トヨタが接触。31号車は今日は散々な日だ。この接触で6号車にドライブスルーのペナルティが科せられた。
LM-GTE Proクラスは2台のアストンマーチンがリード。しかし、3番手の67号車フォードGTが上がって来た。4番手には77号車ポルシェが着いている。
午後3時過ぎ、44号車マノーがガレージに運び込まれる。水圧の問題だ。同じ頃、5号車トヨタがピットイン。ピットロードでフロントカウルを外してチェックした後、ガレージに運び込まれた。時を同じくして、ピットロードをドライブスルーのペナルを消化する6号車が駆け抜けた。
5号車トヨタのトラブルはリヤのインバーター(ハイブリッドのトラブルと表記)。ガレージで修復を試みたが、午後3時半過ぎに修理不可能とみてリタイアを決めた。トヨタTS050ハイブリッドはメキシコ初日のセットアップに苦労したが、2日目には劇的にタイムをあげ、決勝レースに向けて高いパフォーマンスを確認していただけに、非常に残念な結果に終わった。
レース開始から2時間を迎える頃、激しいトップ争いが1号車ポルシェと8号車アウディの間で繰り広げられる。1号車ポルシェが逃げ、8号車アウディがピタリとテールに付く。そしてスタジアムセクションを抜けたところで8号車が1号車を抜いてトップに。そして次の周、2台揃ってピットへ入った。
ピットインはディーゼルエンジンを搭載するアウディは時間を要する。燃料の流量制限がガソリンエンジンより厳しいからだ。この結果、ウェーバーから運転を引き継いだティモ・ベルンハルトの1号車ポルシェは、デュバルに替わった8号車アウディに比べてかなり早くコースに戻り、2台の差は7秒にまで広がった。
レース開始から2時間半。レースは依然として1号車ポルシェが8号車アウディをリードして進んでいる。3番手に2号車ポルシェ、4番手に7号車アウディ。ところが7号車アウディはピットストップの際、ピットレーンでストップ。燃料切れだ。ドライブしていたファスラーが無線で、「燃料に関してメッセージくれた?」と訴える。
午後4時15分、レースコントロールが「ウエットトラック」のサインを出す。コースの一部で雨が落ちてきた。
午後4時半、レースはスタートから3時間が経過。ハートレーの乗る1号車ポルシェがピットレーンのエントリーライン(白線)を踏んだことに対してストップ/ゴーのペナルティが科せられ、ハートレーはそのためにピットへ。そのせいで1号車ポルシェは3番手に転落。替わってトップに立ったのは8号車アウディ、2番手に2号車ポルシェが上がる。1号車ポルシェのドライバーであるウェーバーは「連絡ミスだね。薬飲んで頑張らなきゃ。それにしてもルールが曖昧だね」と語る。そしてその頃、「16時50分辺りから雨が来る」とレースコントロールが発表する。
3番手に落ち、トップから12秒遅れていた1号車ポルシェだが、ドライバーのハートレーが猛烈なプッシュを始め、2位の2号車ポルシェに0.5秒差まで接近。トップの8号車アウディまでの差も6秒に縮めた。そして午後4時48分、ハートレーはターン1でリーブの2号車ポルシェを抜き去った。デュバルのアウディとの差は5秒を切った。
ドライバーから、雨が降り始めたことが伝えられる。トップのデュバルは、「もし雨が来たらもう1スティント僕が続けて乗っても良いよ」と無線で語る。そのデュバル、ターン12で1号車ポルシェに掴まり2位に転落、その後にも2号車ポルシェの攻撃に遭い、3番手に転落した。
雨は徐々に酷くなってくる。すると、6号車トヨタはピットに入ってフルウエットタイヤに交換。4番手の座をキープしている。ポルシェは2台揃ってピットへ。その間に8号車アウディがデュバルからオリバー・ジャービスに替わってすぐ、ターン1でスピン。バリアに突っ込んだ。その後自力でピットに戻るが、ボディ右側に大きくダメージを負っており、修復には時間がかかった。スピンの原因は左前輪のベアリングに何か問題が発生したためだという。
「直線の最後でブレーキが効かず後輪がロックした」とジャービスは語るが、この後退は8号車アウディにとって選手権争いで大きな痛手になった。
レースは残り2時間余り。雨の得意なロッテラーは猛烈な勢いで3番手の6号車トヨタを追い上げ、午後5時29分についにトヨタを捕らえた。トップはハートレーの駆る1号車ポルシェ。2番手も2号車ポルシェが続くが、その差は20秒。2号車ポルシェはLMP2のクルマに左リヤに追突され、リヤウイングの支柱をもぎ取られた。ピットへ入ってリヤカウルの交換をする間に、7号車ロッテラーに先を越された。
20周を費やして修復した8号車アウディ。5時43分ようやくレースに復帰するも、再びスロー走行でピットへ。その8号車と正反対に、7号車アウディはロッテラーの俊足ぶりが遺憾なく発揮され、1号車ポルシェがピットへ入っている間にトップに躍り出た。2番手には20秒差で1号車ポルシェが続く。
注目は3番手争い。2号車ポルシェを6号車トヨタが追い回し、165周目についにそれを捕らえ3番手に上がった。2号車ポルシェは過鳴き始めたコース上の濡れた個所を探して走っていたが、フルウエットタイヤでの走行だった。5時56分、6号車トヨタが2号車ポルシェが同時にピットイン。2号車ポルシェはニール・ジャニに交替するが、6号車トヨタはステファン・サラザンのままだ。しかし、2号車ポルシェが先にピットアウトし、順位は入れ替わった。共にスリックタイヤでレースに復帰。
レースは残り90分。トップグループが次々とピットに入る。ロッテラーの7号車アウディはピットストップで1号車ポルシェにリードを奪われ、3番手争いが2号車ポルシェと6号車トヨタの間で再び始まった。そして176周目のターン12で6号車トヨタが2号車ポルシェを抜き去って3番手に上がり、その差を広げにかかった。
残り1時間。トップの1号車ポルシェを追い上げていたロッテラーの7号車アウディの前輪がロックして曲がりきれずにガードレールにぶつかる。再走してピットへ戻ってきたが、ボディをチェックしてすぐにレースに戻った。その間に6号車トヨタが2番手に浮上、1号車ポルシェから1周後れだが、1分27秒台のハイペースでトップを追いかける。
レースは残り45分、レースをリードする1号車ポルシェが最後のピットストップ。タイヤ交換をして燃料を足してピットアウト。その間に6号車トヨタがさらに差を詰めてきた。その差10秒余り。ただし、6号車トヨタも最後のピットストップが待っている。トヨタの後ろには7号車アウディが続くが、約20秒のギャップがある。
残り30分、サラザンの6号車トヨタは1号車ポルシェに20秒差に迫るも、最後のピットストップで差は以前同様に1周後れになった。このピットストップで6号車トヨタはインターミディエイトタイヤに履き替えた。予想では間もなく雨が来るはず……。同時に7号車アウディに2番手の座を譲った。しかしこの2号車アウディにも最後のピットストップが残っている。ただ、レースの残り周回数は少なく、そのピットストップは恐らくスプラッシュになるだろうと予想された。トヨタはアウディをキャッチアップ出来るだろうか?
残り20分、予報通りに雨が落ちてきた。トップグループのクルマのワイパーは動いたり止まったり。果たしてインターミディエイトを履いたトヨタの賭が吉と出るだろうか?
残り13分、7号車アウディがピットイン。燃料補給とタイヤ交換をしてレースに戻ったが、6号車トヨタに12秒以上の差を付けて2番手をキープする。
レースのゴールが近づくと、思いもよらぬドラマが起きる。レースをリードしていた1号車ポルシェが最終コーナーでコースアウト。バリアに当たる寸前でストップしてレースに戻ったが、彼は20秒のタイムを失った。しかし、トップは譲らずファイナルラップを迎えた。2番手を走る7号車アウディには1周の差を付けている。サラザンの6号車トヨタはロッテラーの7号車アウディから10秒遅れ。最後に猛烈なプッシュをしたが、僅かに届かなかった。
初めてのメキシコWECレースは、ハラハラドキドキのドラマに満ちていた。アウディ、ポルシェ、トヨタのトップ3チームも満身創痍。6時間に及ぶ長い耐久レースは、最後まで何が起こるか分からない。
なおLMP2クラスは地元メキシコのチームである43号車RGRスポーツbyモランドが、LM-GTE Proクラスは97号車アストン・マーチン・レーシングが、88号車アブダビ-プロトン・レーシングがそれぞれ制した。
WEC 2016 Mexico City
Cla | # | Drivers | Car | Class | Laps | Time | Gap | Interval | Pits | Retirement | Points | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | ![]() ![]() ![]() |
Porsche 919 Hybrid | LMP1 | 230 | 6:00'43.702 | 7 | |||||
2 | 7 | ![]() ![]() ![]() |
Audi R18 | LMP1 | 230 | 6:01'45.144 | 1'01.442 | 1'01.442 | 7 | |||
3 | 6 | ![]() ![]() ![]() |
Toyota TS050 Hybrid | LMP1 | 230 | 6:01'53.411 | 1'09.709 | 8.267 | 7 | |||
4 | 2 | ![]() ![]() ![]() |
Porsche 919 Hybrid | LMP1 | 230 | 6:02'13.706 | 1'30.004 | 20.295 | 7 | |||
5 | 13 | ![]() ![]() ![]() |
Rebellion R-One | LMP1 | 218 | 6:01'44.598 | 12 Laps | 12 Laps | 7 | |||
6 | 43 | ![]() ![]() ![]() |
Ligier JS P2 | LMP2 | 210 | 6:01'12.588 | 20 Laps | 8 Laps | 7 | |||
7 | 36 | ![]() ![]() ![]() |
Alpine A460 | LMP2 | 210 | 6:01'14.573 | 20 Laps | 1.985 | 7 | |||
8 | 31 | ![]() ![]() ![]() |
Ligier JS P2 | LMP2 | 207 | 6:01'19.980 | 23 Laps | 3 Laps | 7 | |||
9 | 42 | ![]() ![]() ![]() |
Gibson 015S | LMP2 | 207 | 6:02'06.005 | 23 Laps | 46.025 | 7 | |||
10 | 41 | ![]() ![]() ![]() |
Gibson 015S | LMP2 | 207 | 6:02'38.532 | 23 Laps | 32.527 | 7 | |||
11 | 35 | ![]() ![]() ![]() |
Alpine A460 | LMP2 | 206 | 6:01'19.643 | 24 Laps | 1 Lap | 7 | |||
12 | 27 | ![]() ![]() |
BR01 | LMP2 | 206 | 6:01'22.453 | 24 Laps | 2.810 | 9 | |||
13 | 26 | ![]() ![]() ![]() |
Oreca 05 | LMP2 | 205 | 6:01'25.864 | 25 Laps | 1 Lap | 8 | |||
14 | 30 | ![]() ![]() ![]() |
Ligier JS P2 | LMP2 | 204 | 6:00'54.134 | 26 Laps | 1 Lap | 6 | |||
15 | 97 | ![]() ![]() |
Aston Martin Vantage V8 | LMGTE PRO | 202 | 6:01'30.739 | 28 Laps | 2 Laps | 6 | |||
16 | 51 | ![]() ![]() |
Ferrari 488 GTE | LMGTE PRO | 202 | 6:01'40.176 | 28 Laps | 9.437 | 5 | |||
17 | 95 | ![]() ![]() |
Aston Martin Vantage V8 | LMGTE PRO | 202 | 6:01'48.981 | 28 Laps | 8.805 | 5 | |||
18 | 71 | ![]() ![]() |
Ferrari 488 GTE | LMGTE PRO | 201 | 6:00'44.919 | 29 Laps | 1 Lap | 4 | |||
19 | 67 | ![]() ![]() ![]() |
Ford GT | LMGTE PRO | 201 | 6:01'45.701 | 29 Laps | 1'00.782 | 5 | |||
20 | 77 | ![]() ![]() |
Porsche 911 RSR (2016) | LMGTE PRO | 201 | 6:02'05.757 | 29 Laps | 20.056 | 4 | |||
21 | 4 | ![]() ![]() ![]() |
CLM P1/01 | LMP1 | 199 | 6:01'06.959 | 31 Laps | 2 Laps | 7 | |||
22 | 88 | ![]() ![]() ![]() |
Porsche 911 RSR | LMGTE AM | 197 | 6:01'39.852 | 33 Laps | 2 Laps | 6 | |||
23 | 83 | ![]() ![]() ![]() |
Ferrari F458 Italia | LMGTE AM | 196 | 6:00'52.159 | 34 Laps | 1 Lap | 5 | |||
24 | 78 | ![]() ![]() ![]() |
Porsche 911 RSR | LMGTE AM | 196 | 6:01'09.914 | 34 Laps | 17.755 | 8 | |||
25 | 86 | ![]() ![]() ![]() |
Porsche 911 RSR | LMGTE AM | 196 | 6:01'43.768 | 34 Laps | 33.854 | 6 | |||
26 | 66 | ![]() ![]() |
Ford GT | LMGTE PRO | 181 | 6:00'45.547 | 49 Laps | 15 Laps | 7 | |||
27 | 8 | ![]() ![]() ![]() |
Audi R18 | LMP1 | 167 | 6:04'22.532 | 63 Laps | 14 Laps | 8 | |||
98 | ![]() ![]() ![]() |
Aston Martin Vantage V8 | LMGTE AM | 192 | 6:00'54.881 | 38 Laps | 7 | Retirement | ||||
50 | ![]() ![]() ![]() |
Chevrolet Corvette C7-Z06 | LMGTE AM | 184 | 5:51'11.518 | 46 Laps | 8 Laps | 7 | Retirement | |||
44 | ![]() ![]() Alfonso Diaz Guerra |
Oreca 05 | LMP2 | 179 | 5:36'24.354 | 51 Laps | 5 Laps | 8 | Retirement | |||
5 | ![]() ![]() |
Toyota TS050 Hybrid | LMP1 | 62 | 1:37'13.023 | 168 Laps | 117 Laps | 2 | Retirement | |||
37 | ![]() ![]() ![]() |
BR01 | LMP2 | 29 | 47'49.011 | 201 Laps | 33 Laps | Retirement |
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