【WEC】トヨタ村田主任「今年は笑って日本に帰る」ル・マン必勝誓う

TOYOTA Gazoo RacingのWECパワーユニット開発総責任者である村田久武エンジニアに、新型TS050ハイブリッドについて訊いた。

 2016年WEC最終戦バーレーンで激動の1年を終えたトヨタは、約4カ月のシーズンオフに入った。

 あの悲劇のル・マン24時間レースの直後、必ず雪辱すると高らかに宣言したトヨタは、2017年シーズンのル・マンで3台体制を敷くことを決定。あらゆるコンポーネントを改良し、勝利に向け刃を研いだ。トヨタはこのオフシーズン中に30,000km以上にも及ぶ距離を走破し、30時間連続耐久走行テストを4回行った。

 先週行われたイタリア・モンツァでの公式テスト”プロローグ”で、トヨタは2017年型TS050 HYBRIDを初公開した。

 その現場で、パワーユニット開発総責任者である村田久武に2017年型マシンについて訊いた。

一見変化のないパワーユニット

 2016年、トヨタはエンジンをNA(自然吸気)からターボチャージャー式に変更した。当時は開発のための十分な時間が確保できなかったという理由で、ターボシステムは”オーソドックスなモノ”にまとめられた。

 2017年新型TS050 HYBRIDのエンジンスペックは、昨年と同様2.4リッターのV6ツインターボだ。しかし、ほとんど新設計を行なったと村田は打ち明けた。その目的は燃焼効率を上げ、高い熱効率を確保することだった。

「去年から『なんで2リッターエンジンじゃないんだ』とよく言われていたので、まずは分析を行いました」と村田は語った。

「また熱効率なども、色々とチェックしました。その結果、『基本的には今のままでいい』という結論に至りました。スペックだけ見ていると何も変わっていないじゃないかと思われるかもしれませんが、中身はかなり変わっています。エンジンのシリンダーヘッドやクランク、ブロックも全て一新しました。新設計です」

悲劇を生んだ、”ターボ周辺の不具合”

 2016年のル・マンの後、トヨタはレース残り3分でストップした理由を「ターボチャージャーとインタークーラーを繋ぐ吸気ダクト回りの不具合」と発表した。2016年に導入したターボチャージャーシステムが、悲劇の元凶となってしまったのだ。

 昨年のル・マンでは、ターボを制御してNAのままフィニッシュラインを横切ったというエピソードを取り上げたところ、村田は次のように語った。

「今年も片バンクの変更制御は入れていると思います。去年起きた全ての原因は潰しています」

 トヨタがシーズンオフの間にこの原因に対する根本的対策を十分に打ってきたことは、テストでの走行距離からも伺える。

「(テスト中にトラブルは)なかったです。今年は1回目のテストから6,000km走ることができました。レースをストップさせるようなシリアスな問題は発生していないです。当然、小さなトラブルはありましたが、それでもかなり走り込めたと思います。走り込みをしながらも、新しい諸元が間に合えばそれも入れました。それでもマシンが止まってしまうことはなかったですね」

 今回、トヨタが発表したリリースによるとターボチャージャー、MGU(モーター/ジェネレータユニット)などを改良し、応答性や過渡特性を向上させ、さらに小型化させたという。それを指摘したところ、村田は次のように語った。

「開発において最も重要視したのは、まずは効率ですね。今年はターボも色々いじりました」

「他も同じですが、ターボチャージャーで手がけたのはターボ効率を考え、動作点をきちっと合わせていく作業です。ですのでターボ自体が小さくなろうと大きくなろうと同じことです。ターボの効率自体を上げるのはなかなか難しいので、動作点を完全に合わせるためにターボ諸元をいじる作業をしたと言うのが正しいですね」

徹底的な効率化

 また、村田はドライバーの快適性を左右する過渡応答について言及した。トヨタは”ドライバビリティ”を数値化し、ドライバーと共に妥協点を探したという。そのエピソードからも、彼らが徹底的に効率化を図ったことが汲み取れる。

「過渡応答についてよく言われますが、そもそも、ドライバーが心地良いかどうかってことだと思います」と村田は説明した。

「まず、(快適性を)重要視してラップタイムが何秒上がるんだという疑問が一点ありますよね。当然(マシンを作る上で)それ(ドライバーの快適性)は考慮されています。電気を使って(過渡応答を)制御する方法もありますし、エンジンでそれをやる方法もあります。それらを試してみて、モーターとエンジン(で過渡応答を制御した時)のデメリットとラップタイム全体の向上シロなどを全て観察しながら、最終的にドライバーにきちっと説明して納得してもらって、これで行こうねと話しています。今はそういった類のことはほとんど数字で説明できちゃうんですよね」

「ドライバーは、エンジンで走っている時にリフトオフ(スロットルを戻す)するのをとても嫌がるんです。彼らは(コーナーの入り口で)『あそこまで行きたい!』とギリギリまでブレーキを踏まないモノですから。またブーストに関しては、切れている時間が短くなっても、体感ではあまり感じないようなのです。しかし、ラップタイムには影響します。そのあたりを総合的に判断して、最終的には決めることになります」

電池のスペシャリスト

 また新型TS050 HYBRIDのリチウムイオンバッテリーは、高出力に対応できるようになったという。これは非常に大きな変更点だ。

「中はセルレベルから変わっています。とても進化していると思います」と村田。彼はトヨタ内部にいるバッテリーのスペシャリストについて語った。

「あのレベルのものを作れる人はそういません。トヨタにはそういったスペシャリストがたくさんいますから、そういう人を連れてきて色々とやっていったら、どんどん性能が上がりました。やっぱり餅屋は餅屋ですよ」

「とにかくパワーは十分だと思っています。電池を開発する上で、他にも様々なファクターがあります。寿命もだいぶ伸びました。だから去年まで抱えていた苦労が吹き飛びました」

 バッテリーの仕上がりに太鼓判を押す村田は、TMGでシャシー開発を担当するバセロンとのエピソードを披露した。

「とにかく電池に関しては、何もかもが向上しました。パスカル(・バセロン)なんて、『もっと電池をいじめろよ!』って言ってます。彼は余裕を持っているよりも、ちょっとよろよろ走っていた方が頑張ってる感が出てるって言いたいんじゃないですかね(笑)」

ル・マン制覇へ

 トヨタは、イタリア・モンツァのプロローグで、ローダウンフォース仕様のパッケージ、すなわち”ル・マン・スペック”を用意した。

 2日間に渡るテスト日では両日とも最速を記録し、宿敵ポルシェのタイムを上回った。テストのラップタイムによって今季の両チームの勢力図が測れるわけではないが、トヨタはこのテストの主目的をル・マン・スペックの仕上げに置いていた。

「アラゴンでシェイクダウンを行い、ロングランして、セットアップとかを色々を行いました。その仕上げのために今回ル・マン・スペックを用意しました」

「モンツァの1コーナーは特殊で、ハードブレーキになりますよね。みんな『F1ではどうだった?』と昔のデータをひっくり返して、『ここをこのままで行くと大変なことになるぞ』と対策をしました。WECではああいう(モンツァ1コーナーのような)動きをしなければならないコースはないですからね」

 またパワーユニットの課題に対して、「あとは粛々と仕上げていくことですかね。もう少し頑張っていくつもりです。ドラビリ(ドライバビリティ)など詰めなければいけないところがありますね」と語った。

 慎重な姿勢の村田から、勝利に対する貪欲さが垣間見える。「今年は笑って日本に帰りたいですね?」という問いかけに対して、「帰りたいですね。と言うか、笑って帰ります。それ以外の選択肢はないです」と村田は力強く答えた。

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この記事について
シリーズ WEC
イベント名 プロローグ・モンツァ
サブイベント Sunday
サーキット Autodromo Nazionale Monza
記事タイプ 速報ニュース