WEC:衝撃のアウディ撤退。LMP1はどうなってしまうのか?
アウディの突然の撤退により、WECの将来には暗雲が垂れ込めているが、まだ繁栄のチャンスが失われたわけではない。

2015年9月に発覚した”ディーゼルゲート”(フォルクスワーゲン・グループによる排ガス規制逃れ事件)以降においても、アウディはスポーツカー・レーシングにおいて、トップを走ってきた。
しかしフォルクスワーゲン・グループは、2016年のル・マン24時間へのアウディ、ポルシェのエントリーをそれぞれ2台(2015年は3台ずつ)に減らした。その時点ではコスト削減という点で賢明な判断に思われていたが、アウディ撤退の前触れだったのかもしれない。
LMP1-Hクラスに、フォルクスワーゲン・グループの競合するふたつのブランドがエントリーしていることで、数十億ドルの費用がかかることが問題になっただけではなく、自動車産業においてディーゼルに対する態度が変化し、ディーゼルのレーシングカーを開発することに、何百万ドルも投資することはもはや継続できないというのが、アウディ撤退の原因のひとつである。
しかし、ニュース自体は予想外のものであり、撤退のタイミングが最も予想外であった。一般的に、アウディはもう1シーズン参戦し、”お別れツアー”を戦ってル・マンでの勝利数を14に伸ばすチャレンジをし、現在のルールが終わる来季末に撤退をすると考えられていたからだ。
2018年からLMP1-Hクラスのレギュレーションが変わり、ハイブリッドの出力が10MJに増やされる。アウディはこれに激しく反対していたようだ。現在はハイブリッドパワー6MJの規約で戦っているアウディは、MGUを追加することを余儀なくされ、重量が増加してディーゼルの競争力が減ると主張していたため、2017年末での撤退が噂されていたのだ。
しかし、アウディはそうではなく、我々の多くがこれから1年間、読むのを恐れるはずだった『アウディ、WEC撤退』を認めるプレスリリースを先月発表し、モータースポーツ界に衝撃を与えたのだ。
状況が大きく違った”2年前”
2年前と比べると、多くのことが変わってしまった。ポルシェがLMP1-Hクラスに参入し、日産が2015年にLMP1-Hクラスに参戦することを発表していた。他にも、BMWやジャガーも、参戦を噂されていた(参戦というよりも、むしろ復帰だが)。
しかし、日産はル・マン24時間の1戦のみに参戦した後、計画が頓挫してしまった。BMWやジャガーはハイブリッドではなく、未来がある完全電気自動車に魅力を感じ、フォーミュラEに参画している。そしてアウディも、WECを撤退しフォーミュラEに注力するとしている。
もちろん、以前にもWECには2メーカーしかいなかった時代があり(2012年と2013年。アウディとトヨタの他にプライベーターがLMP1クラスに参戦していた)、一時的にでも、もう一度そうできない理由はない。
しかし、”生き残る”ことが重要な世界である。2つしか参戦メーカーがいないLMP1-Hクラスは、競争が不均衡になり、レースの結末が予測できるものになってしまうというリスクにさらされている。そうなれば今年の富士のような、興奮するレースは過去のものになってしまうだろう。
明らかに第3のLMP1メーカーが必要とされているが、アウディの後任となるようなメーカーは現れていない。
それはなぜだろうか? ハイブリッド技術の絶え間ない進歩によって、メーカーによる多額の費用をかけた開発競争がなされているのだ。このため、どのメーカーもLMP1クラスに新規参入しようとは思わないところまで来てしまっている。
LMP1クラスに参戦する、最も理にかなった候補であるプジョーにとってもこの点が問題になっており、ル・マンを3度勝ったメーカーとしても新たにかかるであろう費用に躊躇している。
高額なハイブリッド以外の”道”
このため、何か新しい考えが求められている。トヨタやポルシェと戦うためにハイブリッドシステムを開発するのは、新規参戦メーカーにとって現実的ではない。研究開発を行うのに妥当性がない技術に大金を払うことなく、LMP1クラスのラップタイムに匹敵できるような別の方法が必要とされている。市販車ではハイブリッドシステムがまだブームであるとしてもだ。
プジョーのテクニカルチーフであるブルーノ・ファミンは、LMP1車両の最低重量を劇的に減らすのがひとつのやり方だと語っている。ポルシェが2006年から2008年にかけて、LMP2クラスのレギュレーションに適合したRSスパイダーで、アウディに対抗しようとしたように。
その場合、LMP2クラスではなく、間違いなくLMP1-Lクラス(レベリオンがLMP2クラスに移るため、現在ほとんど死に体のクラス)が、現代のRSスパイダーのホームになるだろう。LMP1-Lクラスは、2018年からDRSの導入や空力面の規則見直しが検討されている。
FIAとACOはLMP1-Lクラスのマシンと、LMP1-Hクラスのマシンの性能差を縮めようと、ルールを微調整している。
もちろん、ハイブリット搭載よりもハイブリッドなしのマシンの方が勝つのに安価だとなれば、LMP1におけるエネルギー回生の終わりとなるだろうが、大局的に見れば、おそらく悪いことではないだろう。
WECは変わらなければならない時期に来ている
エネルギー回生は、2011年に初めてACOのルールブックに記載された。それをトヨタが2012年に初めて利用し、ポルシェと日産が続いて、ルールに独自のアプローチをしていった。結果としてWECは他のシリーズには見られない、技術的な多様性を獲得したのだ。
しかし今シーズン、トヨタとアウディはそれぞれスーパーキャパシタとフライホイールを捨て、ポルシェ同様リチウムイオンバッテリーを電池として採用したため、技術的な多様性は失われた(アウディが撤退するため、ガソリン/ディーゼルという多様性も失われてしまった)。
本質的に、マニュファクチャラーたちは”理想的な”ハイブリッドソリューションに収束しており、この技術に関して数シーズン分の遅れを取り戻す、天文学的な開発費を正当化できる参入者はいないだろう。
それゆえ、必要とされているのは改革だ。プジョーの提案に沿ったものか、低コストの共通ハイブリッドシステムなのか、それとも完全に違うものなのか。新しいメーカーが参入し、膨大な予算をつぎ込むことなく自身の得意分野でポルシェ、トヨタに挑戦できるような、何かが必要なのだ。
結局のところ、ル・マンを勝つためにハイブリッドが必要であるという、本質的な理由はない。エネルギー回生は目的を達成するための手段であるべきで、それ自体が目的ではないのだ。
2012年のWEC黎明期から、状況は劇的に変化している。そして今、過去4年そうだったように、WECは魅力的なシリーズであるために変わらなければならない時期に来ている。
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