【WEC】開幕戦トヨタの勝利と大クラッシュの真相

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トヨタのパワーユニット開発総責任者である村田久武は、開幕戦シルバーストンをどう見ていたのか。レース後に話を聞いた。

 2017FIA WEC(世界耐久選手権)開幕戦シルバーストンで、8号車トヨタTS050 Hybridが優勝を果たした。

 レーススタートから1時間、トヨタは盤石のペースを発揮してポルシェを引き離したものの、降雨のせいで大乱戦となった。レース中盤には7号車トヨタが大クラッシュを喫し、優勝争いから脱落。8号車トヨタは立て続けに発生するイエローフラッグやセーフティカーのせいで、タイヤ温度の管理に苦戦した。しかし最終的には、ポルシェとのテール・トゥー・ノーズの戦いを制し、今季初優勝を決めた。

 トヨタのパワーユニット開発総責任者である村田久武は、今回のレースをどう見たのか。レース後に話を訊いた。

「最後めっちゃ面白かったね」と村田。

 レース中盤から終盤にかけ、8号車のペースが落ちてしまった場面があったが、その理由としてタイヤ温度の管理が困難だったことを村田は打ち明けてくれた。

「例えばポルシェのタイムと比べて見ると、タイヤを換えた直後は、タイム差が縮んでいました。でも、スティントの後半になってタイヤ温度が上がってくると再び引き離していくんですよね。(中嶋)一貴に関しても『温度のせいだから、もう少し車を振ってタイヤを温めろ』というレースエンジニアからの指示が出ていました。(そのおかげで)途中から一貴が調子を取り戻して走れていたと思います」

 レース終盤の8号車トヨタのセバスチャン・ブエミの猛プッシュは、レースのハイライトとして挙げられるだろう。その時のトヨタ陣営の様子について村田は語った。

「毎周毎周、大騒ぎでしたよ。後ろの方でアンソニー(・デビッドソン)とかの奇声が聞こえてきました。隣のピットがどうして応援してくれるんだろうと不思議に思っていたら、アンソニーたちの奇声でした。(ブエミがイン側を)刺した瞬間は、『愛してるー!』って叫んでました」

「最後(のポルシェのピットインの後)は前にいるはずだったのですが、結局(ポルシェが)8秒前でレースに復帰して、残り20分で8秒巻き返せっていう感じでした。それは現実的なことなのかと(レースエンジニアに)聞いてみたら、『我々はニュータイヤで、向こうは2スティント走っているタイヤだからなんとかしろ』とブエミに命じていました。その前の一貴の時も『20秒以上のタイム差をつけろ』ってオーダーが出ていて、毎周『プッシュだ』って言われていました。その光景をみて何年か前の富士を思い出しましたね」

 ブエミが首位を走る2号車ポルシェを追っていた時、トラックには小雨が降っていた。それにもかかわらず、2台はコンスタントに141秒台のタイムを記録し争い合った。その戦いにも村田は感心されられたという。

「スイッチ入っていたんじゃないの? あんな小雨の状態でよくタイム出し合っているなと思いましたよ。(2号車ポルシェもブエミに)抜かれた後はペースが落ちましたからね。我に返ったんじゃないですか」

7号車クラッシュの真相

 大クラッシュを喫したものの、66分間に及ぶピット作業を行い、レースに復帰したトヨタ7号車。結局、完走を果たし、クラス4位をトヨタに持ち帰った。そのおかげで、トヨタはコンストラクターズランキングの首位にいる。

 7号車トヨタをクラッシュさせてしまったのは”新人”ホセ・マリア・ロペスだった。村田は、マイク・コンウェイの時から生じていたリヤのバランスのトラブルによって、そのクラッシュが引き起こされたと読んでいるようだ。

「(その前のスティントを担当した小林)可夢偉は経験があるから、その状況を理解していたと思うので。(ロペスは)若干勉強が足りないね」

「(トラブルの原因については)調べてみないとわかりません。(マイク・)コンウェイから可夢偉に移った際、可夢偉も(トラブルを)感じると言っていました。去年のル・マンの時も最後(に乗った時の)可夢偉(のクルマ)のエアロはボコボコになっていましたからね。それでも彼は(良い)ラップタイムを出していた」

「昨日の予選でも、普通の人なら曲がれないところも可夢偉は曲がったし。まあでも、その可夢偉も苦しんでいました。だからロペスが乗った時、すぐにクラッシュしてしまったんでしょうね」

 起きてしまったクラッシュを取り戻すことはできないが、流石とも言えるのは、トヨタがレースに復帰を果たせたということだ。

「ぶつかった瞬間にハイブリッドシステムが生きていることはわかっていました」と村田は言う。

「すぐに『お前絶対に降りるなよ』とドライバーに指示が出ていました。(グラベルから)自力で脱出しようとトライしていましたが、完全に埋まってしまっていて(無理でした。)その後、もう一回、エマージェンシーモードについて説明しました」

 クラッシュのシーンは戦慄だったが、その時のロペスの困惑したような、興奮したような瞳が印象的だ。その時のロペスとレースエンジニアとのやりとりについて、村田は語った。

「事故の際のモードの練習はなかなかしないよね。でもレースエンジニアは、冷静にマニュアルを伝えていました。でもホセがなかなか理解できなかったから、すごく丁寧に説明していました。これまではEVモードで走っていたので、『エンジンは生きているからエンジンをかけなさい』という指示にもすぐに対応できなくて、『クラッチ外せば(エンジンは)かかるんだ』なんてやってましたよ。彼が不慣れなのもしょうがないです。あのモードはなかなか練習することができませんから」

 痛ましい姿で、ヨタヨタとガレージに戻るトヨタ7号車。マシンが無事に帰還した後、66分間に及ぶ修復作業に入った。

「意外とステアリングのあたりまでダメージがいっていたから、そこ交換するのに最後時間がかかりました。ステアリングラックのラック・ピニオンか何かのオイルが漏れていたようです。あれはハイドロ(油圧)で動いているので。それも交換して、コースに復帰した後は普通にタイムを出すことができていました」

ローダウンフォース仕様パッケージ

 このレースでいう大きなトピックスのひとつは、ローダウンフォース仕様のエアロパッケージのポルシェが2-3位を掻っ攫ったということだ。

「ポルシェはやるね。彼らと対峙していると、ああいう展開ばかりなので疲れますよ。去年のル・マンでは私たちがなんとかしたんですが。トヨタはこれからもなんとかしようとするでしょうね」と村田。

「彼ら(ポルシェ)は燃費を押さえて、その2周か3周の間にクリーンなところでプッシュするって感じでした。単純に一対一になったのは最後だけでした。このレースって、ただラップタイムシミュレーションするだけじゃないです。単独で走っていたらもっと差は広がっていたはず」

 されど1勝。優勝ポイントをトヨタに持ち帰れたことは事実だ。この結果に対し村田は次のように語った。

「満足というか、最低限の結果は出せたと思います。本当は2台を表彰台に揃えたかったですが。シリーズチャンピオンを考えると、上位でポイントを押さえておかないと。まあでも完走できたし」

 開幕戦早々、勝利の美酒を味わったトヨタ。しかし安堵することなく、第2戦スパが再来週(5月5日~7日)に迫っている。トヨタは3台体制になるが、その活躍は如何に。

取材・赤井邦彦

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この記事について
シリーズ WEC
イベント名 シルバーストン
サーキット シルバーストン
記事タイプ 速報ニュース