WRC、来季に向けてデータ活用の準備進む。新システムでタイヤ戦略やハイブリッドの使い方が”見える化”?

WRCは2025年からファンがより楽しめるよう、TV放送を強化することを計画している。その一部が徐々に見えてきた。

Kalle Rovanperä, Jonne Halttunen, Toyota Gazoo Racing WRT Toyota GR Yaris Rally1

 世界ラリー選手権(WRC)をテレビやオンデマンドで観戦していて、そのドライバーがライバルたちよりなぜ、どこで速いのかを不思議に思ったことはないだろうか?

 モータースポーツは年々、データ主導のスポーツになってきており、現在では、視聴者が目の当たりにしているアクションをより理解しやすくするために、テレビ放送にも反映されている。ドライバーがいつアクセルやブレーキを踏んでいるのか、F1などではドライバーがオーバーテイクできる距離にいるのかなどのグラフィックが放送に活用されている。

 WRCにおいては、ラリー1車両には104個のセンサーが搭載され、すでにFIAがそのデータをモニターしているにも関わらず、放送に利用できているデータがはるかに少なかったのが現状だ。

 しかしWRCは2025年の開幕戦からコマンドセンターを立ち上げ、国際放送にそのデータとチーム無線を活用することを目指している。

 WRCプロモーターは、このコンセプトの開発を率いるために、元ヒョンデWRCチーム代表のアンドレア・アダモを起用した。

 WRCのコマンドセンターは、こうしたデータの一部を取得、監視し、テレビ放送やチームに提供。エンジン回転数やギヤ選択、加速度、ブレーキ圧、タイヤ内圧、タイヤ温度、ステアリング角度、ハイブリッドパワーの展開や回生などをモニターする。また、衝撃のGフォースや方向を記録することで、安全面からも支援することができる。

 使用しているタイヤと、そのタイヤで何キロ走ったかを表示する機能も開発されている。これは、これまでWRCでは分かりづらかったタイヤ戦略の理解に役立つはずだ。

 そして現在、WRCはこれまで放送で使われてこなかったチーム無線システムを稼働させており、来年の開幕までにさらに発展させる計画だ。

 こうしたデータと無線を組み合わせて、ステージ中に何が起こっているのか、視聴者にわかりやすい形で提示しようとしている。WRCプロモーターはチームやメーカーと協力し、クルマからより多くのデータを引き出し、F1スタイルのチーム無線を通じてクルーとチームとの生のやりとりを増やすことに取り組んでいる。

 コマンドセンターのテストはこの夏から始まっており、ラトビアではM-スポーツのマルティン・セスクが、フィンランドではトヨタのサミ・パヤリがそれぞれこのコンセプトをテストしたという。

 WRCイベント・プロモーターのサイモン・ラーキンは「基本的に、このシステムができることは、チーム、我々、そして家にいるファンが、これらのクルマで何が起こっているのかをより実感できるということだ」と語った。

「有益なデータを提供したいが、そのデータをパフォーマンス・エンジニアやデータ・アナリストが分析するようなことにはしたくない。なぜなら、お金を持っている人はそれにお金を使ってしまうからだ。我々は合理的な方法でこれを行なうつもりだ。ラリーに参加するマシンを維持しつつ、コストを増やさないようにしたい」

「データもほしいし、ストーリーもほしい」

TV画面にどう反映される?

 ラリーの放送は、マシンが走行する距離や地形を考えると、サーキットレースよりもはるかに複雑だ。現在、Rally.TVが提供するライブ中継はオンボードカメラやヘリコプターカメラ、地上のカメラクルーが撮影した映像が、ステージ上空を飛ぶ航空機のアンテナに送られ、国際映像に取り込まれている。

 最終的な計画では、マシンからの新しいデータも、他の映像と同じように航空機に転送されることになっている。

 コマンドセンターのテストでは、マシンにマレリのスマートアンテナが搭載され、世界耐久選手権(WEC)やフォーミュラEで使用されているLTE通信のSIMカードが装着される。

Kalle Rovanperä, Jonne Halttunen, Toyota Gazoo Racing WRT Toyota GR Yaris Rally1

Kalle Rovanperä, Jonne Halttunen, Toyota Gazoo Racing WRT Toyota GR Yaris Rally1

写真: Toyota Racing

「このシステムによって、(マシンに)何が起きているのかを明確に把握することができる」とアダモは説明する。

「どこかで止まっている車があれば、その理由がわかる。何が起きているのかすぐに理解できるので、放送にとっても良いことだ」

「もちろん、これは継続的なプロセスであり、1台だけでなく、10台、12台、あるいは将来的には何台でも追えるように最適な枠組みをどう作っていくかを理解しなければならない」

「目標は、クルマに問題があればすぐに知らせることができるポップアップアラーム(画面に表示される)を備え、様々なスクリーンを備えた部屋を持つことだ。そうすれば、放送局にクルマで起きていることを知らせることができるし、そのクルマを注意深く追跡して、何が起きているのかを理解することができる」

データはファンやチームにどのような利益をもたらす?

 ライブデータへのアクセスは、ファンとチームに利益をもたらす可能性がある。何かが起きた際、テレビクルーがステージ後にドライバーにインタビューを行なうまで待つ必要もなく、クルマから送信される情報が大いに活用されるだろう。

 タイヤとハイブリッドシステムの戦略はより明確になり、理論的には、あるクルーがなぜ速かったのか、あるいは遅かったのかを正確に比較できるようになる。

WRC TV helicopter

WRC TV helicopter

Photo by: WRC.com

「このデータでできることは、ステージ間の異なるマシンの挙動を比較することだ」とアダモは言う。

「ドライバーのハイブリッド・システムの使い方の違いを比較することができる。例えば、タイヤ温度やタイヤ圧の管理方法を理解し、あるドライバーがステージの最初の部分で他のドライバーよりも速かった理由や、パフォーマンスの違いを見ることができる」

「データのおかげで、それを発展させたり、ストーリーを作ったり、ファンに情報を提供したり、現時点では我々が盲目であるために理解できないことを説明したりすることができる」

 チームがデータから問題を診断し、問題の解決方法をクルーに伝えることができれば、これまでは諦めざるを得なかった場面でラリーを続けたりできるかもしれない。

「エンジニアにとっては、ドライバーによって簡単に修正できることもあるので、いいことだと思う」とアダモは付け加えた。

「例えば私がヒョンデにいた時、何が起こっているのかわかっていれば簡単に解決できたはずの問題がいくつかあった。今は愚かなことでマシンを失ってしまうんだ」

 WRCは、2025年に向けて今季残りのラリーでもシステムの開発を続ける計画だ。10月に開催されるセントラル・ヨーロピアン・ラリーではトヨタ、ヒョンデ、M-スポーツがそれぞれ1台づつ、新システムと無線を搭載してラリーを走る予定となっている。

 

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