特集
F1
使用禁止になった”画期的”デバイス4:勢力図を一変させた、”魔法の”ダブルディフューザー
2009年のF1シーズンは、前年限りでF1から撤退したホンダの施設とマシンを引き継いだブラウンGPが強さを見せ、奇跡的にダブルタイトルを獲得した年として長く記憶されるだろう。彼ら最大の武器はダブルディフューザーにあった。
Matt Somerfield Giorgio Piola
編集: 2021/10/18 17:10
Copy link
Viberでシェア
Google検索でmotorsport.comをお気に入り登録

2009年のF1は、実に特徴的なシーズンだった。テクニカルレギュレーションに大きな変更が加えられ、マシンの空力パーツはシンプルに。フロントウイングは幅広く、リヤウイングの高さも引き上げられた。また、運動エネルギー回生システム(KERS)の使用も許された。
2008年シーズン、タイトルを争ったのはフェラーリとマクラーレンだった。しかし年が明けると、その勢力図は一変。ブラウンGPが連勝するなど強さを発揮し、それをレッドブルとトヨタが追う形となった。
ブラウンGPが強さを発揮した理由、それはダブルディフューザーにあった。トヨタも同様のコンセプトを使っており、シーズンが進むに連れ、他のチームも順次このダブルディフューザーを踏襲することになった。ただ時すでに遅し。ブラウンGPがシーズン序盤に築いたリードは大きかった。
では、なぜこの一部のチームのみが有利なスタートを切ることになったダブルディフューザーの使用がすぐに禁止されなかったのか? それを振り返ってみることにしよう。
2009年に導入された新レギュレーションは、ダウンフォースの発生量を減らし、マシン同士が近づきやすく、オーバーテイクのチャンスを増やすことを期待して準備されたものだ。
そんな願ってもいないチャンスに、トップチームを追い越すための解決策を探ろうとしたチームがいくつかあった。その中にダブルディフューザーのアイデアもあったのだ。
このダブルディフューザーは、新レギュレーションに対応するため、マシンの設計に取り組んでいたスーパーアグリのデザイナーが2008年に見出したと伝えられている。
スーパーアグリは、2008年シーズンの序盤に消滅。その後同チームのスタッフは、様々なチームへと移っていったが、多くがホンダに加入することになった。そのうちのひとりが、ダブルディフューザーのアイデアを実現させたのだ。
BGP001、トヨタTF109、ウイリアムズFW31は最初からダブルディフューザーを搭載していたマシンだ。このアドバンテージはすぐにライバルたちも知るところとなった。そして彼らはすぐにそのアイデアを取り入れ、3つのチームが持つアドバンテージを取り除こうと躍起になった。
この年のレギュレーションでは、ディフューザーのサイズも厳しく制限されていた。幅1000mm、高さ175mm、長さ350mm……これが同年のディフューザーに許された最大の大きさである。
ただ当時のレギュレーションには、リヤアクスルよりも前方に開口部を設けてはいけないと明確に規定する条文がなかったのを、3チームは発見。そのためこの部分に新たな開口部を設け、本来のディフューザーの上に気流を引き抜こうとしたのだ。
レギュレーションの条文を巧みに解釈した、独創的な方法だったといえよう。しかも他チームは、ダブルディフューザーありきでマシンを作っていなかったため、短期的な開発でこれを導入するのは簡単ではなかった。
そのためライバルチームたちは、オーストラリアGPの際に3チームのディフューザーについて抗議。レース結果を修正するように求めた。しかしその一方で、簡単ではなくとも、それぞれが独自の解決策を探すことになった。
Brawn BGP 001 2009 double diffuser detail view
Photo by: Giorgio Piola
オーストラリアでの抗議は実らず、結局各チームは、デザインをやりなおし、できるだけ早くダブルディフューザーをマシンに搭載する必要があった。
前述の通り、この変更は簡単ではない。リヤエンドのダウンフォースが増えるということは、そのバランスをとるためにフロント部分の処理をどうするのか……という要素も入ってくるからだ。
とはいえそのダウンフォース量を考えれば、ダブルディフューザーを導入するメリットは無視できなかった。そのため、各チームが次々に独自のダブルディフューザーを生み出した。
Red Bull RB5 2009 rear suspension detail
Photo by: Giorgio Piola
最も苦労したのは、レッドブルだったかもしれない。同年のレッドブルは、リヤサスペンションにプルロッドを採用した。今ではリヤサスをプルロッドとするのは標準的なことだが、当時はほとんどのマシンがプッシュロッドを採用していた時代だった。
プルロッドを採用することにより、サスペンションのダンパーやトーションバーなど、重量物をマシンの低いところに配置することができ、重心を下げることができる。これも、天才デザイナーであるエイドリアン・ニューウェイが考えた策だ。しかし、このことが、ディフューザーの変更を難しくした。ディフューザーを配置した場所には、プルロッドのアッセンブリーが収められていたのだ。
しかし、レッドブルとしてもこのソリューションが必要であることは分かっていた。そのため、必要な変更を加えていった。

レッドブルが採ろうとした方法は、ギヤボックスの搭載位置を全体的に引き上げることだった。こうすることで、プルロッドを維持しながら、ダブルディフューザーを採用することができた。

ダブルディフューザーのチャンネルは、ギヤボックスの真下のスペースにフィットするように取り付けられていた。

レッドブルは、ダブルディフューザーへの空気流量を最大限確保するため、ステップドフロアに大きな開口部を設けた。このステップ部分にはスキッドブロックが取り付けられているが、マシンの後部に向けて細くなり、リヤの衝撃吸収構造と形状を合わせ、ディフューザーへ向かう気流を阻害しないようになっている。レッドブルはこの形状をうまく使い、ダブルディフューザーへの気流を導いたのだ。

レッドブルのダブルディフューザーは、モナコGPで投入された。このダブルディフューザーは、シーズン開幕以来彼らが使い続けてきたフロアに直結するリヤウイング翼端版と組み合わせて使われた。つまり、メインのディフューザーは、許されている幅よりも狭かったのだ。

チームはディフューザーの開発をその後も継続。数レース後には、許された1000mmの幅をいっぱいに使った新型のディフューザーも登場した。
5
他のチームのダブルディフューザー開発
レッドブルがダブルディフューザーを搭載するのは、非常に大変だったはずだ。しかし、それで他のチームが楽にディフューザーを変更できたかと言えば、そうでもない。

トヨタは、シーズンの最初からダブルディフューザーを使用していたチームだ。しかし、第2戦マレーシアGPでは、さらに高度なトリプルディフューザーとも言えるソリューションを投入した。

フェラーリがシーズン開幕戦に投入したのは、レギュレーションを忠実に守ったものだった。そのため、実にシンプルな形状になっている。

しかしFIAがダブルディフューザーの使用を認める旨を明らかにした数戦後、フェラーリもダブルディフューザーを持ち込んだ。

しかしギヤボックスやサスペンション、衝撃吸収構造などのパッケージングにより、ダブルディフューザーの搭載は容易ではない。そのため下から見れば、複数の開口部が設けられていて、フェラーリが行なった努力が垣間見える。

ルノーも複数の開口部を持ったディフューザーを中国GPに持ち込み、まずはフェルナンド・アロンソのマシンに搭載した。チームメイトであるネルソン・ピケJr.のマシンには、1レース後のバーレーンGPから搭載された。

BMWザウバーはダブルディフューザーを導入した最後のチームのひとつであり、トルコGPまで待たねばならなかった。

BGP001は、グリッド上で最も洗練されたダブルディフューザーを持っていたと言えるかもしれない。しかしチームは、その開発をどんどん推し進めていった。スペインGPの際には、中央部分の形状を変更するなどしている。 FIAはその後、2010年いっぱいまではダブルディフューザーの使用を認めたものの、2011年からはレギュレーションの”抜け穴”が埋められ、グランプリシーンから姿を消した。
7
Read Also:
- 使用禁止になった”画期的”デバイス1:各チームが追従したXウイング
- 使用禁止になった”画期的”デバイス2:ドライバーが手動で操作! 秘密兵器”Fダクト”
- 使用禁止になった”画期的”デバイス3:抜群の安定感を実現させた『マスダンパー』
- 実は大きな可能性を秘めていた……フェラーリF92Aが”駄馬”と言われた本当の理由
- ”爆発”する個性……史上最もワイルドなデザインのF1マシントップ50
あなたの意見が聞きたい!
Motorsport.comで何を見たいですか?
5分間のアンケートにご協力ください。
- Motorsport.comチーム
コメントを読んで投稿する
関連ニュース :
記事をシェアもしくは保存
Copy link
Viberでシェア
前の記事 F1イギリスGP、開催に希望の光! イギリス首相、F1関係者の検疫免除を検討か
次の記事 新型コロナ危機終息後、ライブイベントはどうなる? F1オーナー企業「未知の問題」
Top Comments
コメントはまだありません。 最初のコメントを投稿しませんか?
View More & Comment

More from
Matt Somerfield

F1メカ解説|8種類のリヤウイングと14種類のビームウイングを投入したマクラーレン……2025年ダブルタイトルを目指し「デザイン上のリスク」を冒す
F1
F1
2024/12/24
F1メカ解説|8種類のリヤウイングと14種類のビームウイングを投入したマクラーレン……2025年ダブルタイトルを目指し「デザイン上のリスク」を冒す

F1メカ解説|2026年からの新レギュレーションF1マシン、デザインの自由度が増した? FIAが発表した新たなレンダリングを検証
F1
F1
2024/12/17
F1メカ解説|2026年からの新レギュレーションF1マシン、デザインの自由度が増した? FIAが発表した新たなレンダリングを検証

F1メカ解説|RBがシーズン最終戦に投入した”2025年に向けたテスト”用フロントウイング。その狙いは?
F1
F1
2024/12/15
F1メカ解説|RBがシーズン最終戦に投入した”2025年に向けたテスト”用フロントウイング。その狙いは?
最新ニュース

ここで乗らなきゃいつ乗るんだ! ラッセル、2020年メルセデス代役で文字通り無理を通した過去明かす
機能
F1
ライブテキスト
評価
機能
F1 30 分前
オランダGP
ここで乗らなきゃいつ乗るんだ! ラッセル、2020年メルセデス代役で文字通り無理を通した過去明かす

「我々は二輪版のF1ではない!」リバティ傘下になったMotoGP、しかしF1とは違う独自路線を目指すと主張
機能
MotoGP
ライブテキスト
評価
機能
MotoGP 2 時間前
イギリスGP
「我々は二輪版のF1ではない!」リバティ傘下になったMotoGP、しかしF1とは違う独自路線を目指すと主張

ウェーレイン完勝! 運も味方に戴冠へ大きく一歩。日産ローランド連覇の望み消える|フォーミュラE第16戦ロンドン
機能
フォーミュラE
ライブテキスト
評価
機能
フォーミュラE 11 時間前
ロンドンE-Prix レース1
ウェーレイン完勝! 運も味方に戴冠へ大きく一歩。日産ローランド連覇の望み消える|フォーミュラE第16戦ロンドン

マクラーレンのハッキネン&クルサードコンビはなぜ関係がこじれなかった?「2、3ヵ月も怒りを抱えたまま過ごす意味はない」
機能
F1
ライブテキスト
評価
機能
F1 16 時間前
オランダGP
マクラーレンのハッキネン&クルサードコンビはなぜ関係がこじれなかった?「2、3ヵ月も怒りを抱えたまま過ごす意味はない」
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
次の 2 つのオプションがあります。
- サブスクライバーになります。
- 広告ブロッカーを無効にします。
購読中 すでに購読していますか? ここからサインインします
広告ブロッカーを無効にしましたか?
ページをリロード
お知らせの管理
登録