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F1特集|アルファタウリの”総本山”へ潜入。成長を続けるファクトリーをフランツ・トスト代表と巡る

アルファタウリのF1における使命は、タイトル獲得よりも若手ドライバーの育成にある。チーム代表を務めるフランツ・トストが、イタリア・ファエンツァにあるファクトリーを案内。成長を続ける施設を紹介した。

Franz Tost, Team Principal, Scuderia AlphaTauri at the AlphaTauri Faenza tour

Carl Bingham / Motorsport Images

 イタリアのエミリア・ロマーニャ州の田舎町、ファエンツァのボアリア通りにアルファタウリF1チームのファクトリーはある。チーム代表のフランツ・トストが、現在も成長を続ける施設を紹介する。


壁には雨のモンツァを制した2008年のマシンが

 トストがファクトリーのドアを開け我々を迎え入れると、そこには広々とした廊下が広がっていた。他の社屋よりも少し肌寒く、気圧も低い。メインのドアが閉まるまで、次のドアを明けることはできない。その奥の部屋では、低温を好むカーボンコンポジットの作業が行なわれていた。

 ガラス張りのその部屋の中では、白衣を身にまとったチームスタッフたちが黙々と作業をしているのが見えた。レーシングチームの施設というよりも医療用品の生産工場のような印象を受けた。

 清潔感にあふれているように思えたが、トストの厳しい目は誤魔化せない。ふと見るとトストが代表自らダンボールの切れ端やビニール袋などをゴミ箱の奥に押し込んでいた。エンジニアのオフィスから作業場まで、整理整頓がここでの優先事項だ。

 この社屋とファクトリー全体が、彼の”ライフワーク”と言っても過言ではない。

初めてここに来た時、チームがベストな状態ではないことは一目瞭然だった

トストはそう語る。

「ファクトリーは古かった。チームが長年に渡り財政的に苦しんでいたことがよく分かった」

 アルファタウリのファクトリーは、前身であるミナルディ時代のモノと、2005年末にレッドブルに買収されトロロッソとなって以降、つまりトスト在任中に建設されたモノのふたつで構成されている。

 ミナルディ時代の社屋には現在、広報やマーケティング、ペイント作業場などに使用されているが、F1マシン製造のほとんどはそこから数百メートル離れた比較的新しい社屋で行なわれている。

ファクトリーの壁には、ベッテルが2008年イタリアGPを制したマシンの風洞模型が飾られている。

ファクトリーの壁には、ベッテルが2008年イタリアGPを制したマシンの風洞模型が飾られている。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 その比較的新しい社屋には、大きな階段がふたつ。そのひとつは、非公認だが「ベッテルの階段」と呼ばれている。そして、そこには若きセバスチャン・ベッテルが雨の中行なわれた2008年イタリアGPをポール・トゥ・ウィンで制し、チームに初勝利をもたらした際の写真が飾られている。そして2階へ上がると、そのレースを制した2008年型マシン『STR3』の風洞模型が目に飛び込んでくる。 

「2012年からここにあるのだ」とトストはその階段について説明する。

「モンツァの優勝記念エリアなのだ。あの時のセバスチャンとの写真をたくさん集めて壁に飾り、スタッフのモチベーションを上げようとした。そうすれば常に素晴らしい記憶を思い出せる」

 当時はF1チームの在り方も変わっていた。トロロッソは当時、レッドブル・テクノロジーズを介して親チームであるレッドブルのシャシーを使用し、異なるメーカーのエンジンやギヤボックスを搭載するためにシャシーに変更を加える程度だった。

「これは素晴らしいフェラーリのエンジンを搭載したエイドリアン・ニューウェイのマシンだ」とトストはSTR3を振り返る。

「そしてセバスチャンという信じられないほど優秀なドライバーがそれに乗った。ただ、チームも良い仕事をしたと言わなければならない。当時はジョルジオ・アスカネッリがマシンを担当していて、彼がテクニカルディレクターを務めていた。そして我々はとても競争力があった。もちろんウエットコンディションというのもあるが、我々のマシンは速かった。ベッテルもチームも素晴らしい仕事をしたのだ」

カスタマーチームから”独立した”コンストラクターへ

 ベッテルがモンツァを制した2008年シーズンは、トロロッソはまだミナルディの旧社屋を使用していた。レッドブルのカスタマーシャシーを使用していたため、ささやかな設備で十分だったのだ。

 しかし、2010年からはコンコルド協定が改定され、他チームとの”マシンデザインの共有”が禁止された。これによりレッドブル・テクノロジーズを介して、レッドブルとシャシーを共有していたトロロッソはコンストラクターとしてシャシーを開発することとなった。

「今とはフィロソフィーが完全に異なっていたんだ」とトストは言う。

「(レッドブルオーナーの)ディートリッヒ・マテシッツがチームを買収した時、レッドブル・テクノロジーズとのシナジーを活かして、若いドライバーを育成しなければならないと言ったんだ」

「モンツァで勝つまでは上手く機能していたが、それでライバルたちが怒ってしまったんだ。 それがF1の常……ある日突然レギュレーションが変更され、完成されたマシンを自社開発するか、サプライヤーと共同開発するしかなくなったのだ」

新しい社屋に多くの投資を行なう必要を迫られたが、幸運にもここで全てを構築できた。今は本当に必要なモノだ

トストはそう語った。

トロロッソ時代に、ファエンツァのファクトリーに大規模な投資が行なわれた。

トロロッソ時代に、ファエンツァのファクトリーに大規模な投資が行なわれた。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 F1が”トロロッソモデル”のF1参戦を禁じた時、ファエンツァで新社屋の建設が始まった。その拠点も今では築10年以上となり、アルファタウリへと名称を変え3シーズン目を迎えた現在では、チームとしての規模はもはやF1で最小規模とは言えないレベルとなった。

 アルファタウリのスタッフ数は常時400名、ニューマシンの組み立てが始まる冬季は500名規模にまで増加する。トストによると、ミナルディ時代から継続してチームに在籍しているスタッフは20名ほど残っているという。

 大部屋のデザインオフィスへ向かうと、60名ほどのワークスペースが設置されていた。

「ここには異なるグループが集約されている。手前にいるのは、 CFD(数値流体力学)担当のスタッフだ」

 トストはそう言いながら、部屋を進んでいく。

「そして車両性能グループと、ボディーワークやフロアなどのパーツを担当するグループがある。それから、モノコックやシステムのグループ、ギヤボックスに油圧系、そしてツール用のグループがいる」

 デザインオフィスの壁の一面にはモニターが設置され、イギリス・オックスフォードシャーのビスターにあるアルファタウリの風洞施設からのライブ映像が映し出されている。

「我々は常に彼らを見て、彼らも我々を見ることができるのだ」とトストは説明する。

アルファタウリは、親チームのレッドブルと協力関係を維持しているが、独立してマシンを開発している。

アルファタウリは、親チームのレッドブルと協力関係を維持しているが、独立してマシンを開発している。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 アルファタウリの設備は、レッドブルから完全に独立してマシンを走らせる能力を有している。今でも他チームに譲渡可能なパーツはレッドブルと共有しているものの、必要とあらばアルファタウリ内部で設計・開発ができるのだ。

「(自社開発に)問題はない」とトストは言う。

「我々はこれまでも既にその手法を採ってきたからね。(レッドブルと)異なるエンジンを使用していた時は、我々は独自にギヤボックスを作っていた。可能だが、もっとお金を使うこととなるし、レッドブル・テクノロジーズの技術レベルはとても高いということも忘れてはいけない」

 とはいえ、アルファタウリはパーツを自社開発するか、レギュレーションの範囲内でレッドブルからパーツを譲り受けるかという選択肢がある。例えば、今年はレッドブル『RB18』がプルロッドを採用した一方で、アルファタウリの『AT03』はプッシュロッドをフロントサスペンションに使用している。

「自社で作れないパーツはない」とトストは言う。

「人手とスペースがないため、あえて外注するパーツもある。ウィッシュボーンなどを外注することはあるが多くはない。我々は全てを自社で行ない、自分たちの知識を養いたいと考えている。柔軟でありたいのだ。サプライヤーに頼る場合、自社で行なう場合よりも柔軟には対応できないからだ。加えて、その方が安く済むのだ」

トストの”お気に入り”ともうひとつの優勝記念エリア

 デザインオフィスからそう離れていないところに、グランプリ週末にトラックサイドのレースチームをサポートするオペレーションルームはある。

 レギュレーションによりレースに帯同可能なスタッフの人数は制限されている。そのため近年ではほとんどのF1チームが、ファクトリーにエンジニアリング・ストラテジーチームを設置して後方支援を行なっている。

 航空管制室にも似たオペレーションルームに入ると、2列に並んだワークステーションには、トストやストラテジストが座るピットウォールと同じように、無線機などのツールが備え付けられている。

「ここには14〜15名のスタッフがいて、それぞれが自分のタスクを行なっている」とトストは説明した。

「エンジニアは、フリー走行、予選、そしてもちろん決勝レース中もここで仕事をする」

「それぞれが独自のタスクをこなしている。例えば、あるスタッフはタイヤ温度や内圧を担当していて、もうひとりはライバルチームの無線を聞くなどして動向を観察している。彼らはその情報をピットウォールにいる我々に送ってくれて、我々がそれを活用する。サーキットには60名しか入れないので、それはとても重要なことなのだ」

パーツを製造するオートクレーブを紹介するトスト。

パーツを製造するオートクレーブを紹介するトスト。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 この社屋の1階部分は、マシンの様々なパーツがデザインから実際に製造されている。カーボンコンポジットから作成される”プリプレグ”を型に入れ、パーツを成形する高温度と高圧力のオートクレーブ(巨大なオーブン)を見学した後、トストは他のパーツを作るエリアに案内した。

 テーブルに置かれた小さな金属片を手に取ると、トストはそれを成形した巨大なコンピュータ制御の機械加工マシンへと向かった。

「これが私のお気に入りの機械なのだ」とトストは冗談交じりに説明を加えた。

「とても良いパーツを製造してくれるし、本当に芸術品の領域だ。中にロボットが入っていて、プログラムを組めば24時間常に稼働できる。家族の話も、休みの話も、昇給の話もない。ただ働いてくれる! 素晴らしいことだ」

 ふたつ目の階段を登って、再び2階へ。こちらにはもうひとりのウィナー、ピエール・ガスリーを称え、2020年に勝利を挙げた際の写真が飾られている。2008年との違いは、ここファエンツァで設計・開発・製造されたマシンで成し遂げたということだ。

アルファタウリはファクトリーの施設拡充を進める。そして多くのトロフィで埋めることを目指している。

アルファタウリはファクトリーの施設拡充を進める。そして多くのトロフィで埋めることを目指している。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 さて、次はボディワークエリア。当然と言えば当然かもしれないが、ここでは撮影が禁じられた。ただ、トストはカーボン製サイドポンツーンを持たせてくれたり、複雑な形状をしたリヤブレーキダクトを見せてくれた。

 そのサイドポンツーンは指一本で持ち上げられる程軽く、ブレーキダクトは他パーツ同様に外部の力を借りずチーム内で開発された以前のモノだと言うが……。

「このブレーキダクトは好きじゃないのだ」とトストは明かす。

 トストは彼のチームが全てのシャシーパーツを製造可能だということを誇る一方で、できるだけ多くの標準部品を購入するというF1での戦い方は悪いことではないと考えている。

「ここには、かなりのコストがかかっている。チーム代表間で何度も話し合い、こんな複雑なブレーキダクトは必要ないというのがみんなの意見だった」

「でもエンジニアがやってきて、どうにかこうにか更に高額なモノになる。無駄にお金がかかっているのだ。もちろん、ある程度のダウンフォースは生むが、コストを考えると……とにかく、それが現実なんだから受け入れるしかない」

インフラ設備の拡充は続く

 アルファタウリはチーム規模の拡大を続けている。チームはレッドブルの”Bチーム”として、そのシナジー効果を活用しながらライバルたちを脅かす存在として、長い道のりを歩んできた。

 今では独立可能なレベルにまでアルファタウリは成長している。そしてこれまで通りトストは常に未来志向だ。

 ファクトリーツアーの最後に正面玄関の真上にある彼のオフィスを尋ねると、トストはこれからの計画についてこう明かした。

次のステップでは、プレスとマーケティングのための社屋をあそこに建てることになっている

トストはそう語る。

「今年の9月か10月にはスタートしたいと考えている。今は、契約の最終確認を行なっているところだ」

トストの”欲しい物リスト”にはシミュレータの名前が。

トストの”欲しい物リスト”にはシミュレータの名前が。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 新社屋の次にトストが狙うはシミュレータだ。現在、アルファタウリはイギリス・ミルトンキーンズにあるレッドブルのシミュレータを使用しているが、移動距離を鑑みても限度がある。ファエンツァに新たなシミュレータ設備を設けることは、チームにとって有益なことなのだ。

「(実車での)テストが限られている今、シミュレータの重要性は益々高まっている」とトストは言う。

「金曜日のフリー走行終了後に(シミュレータの)セッションを設け、テストを繰り返すことでセットアップの評価もできる。そうすれば、マシンに関する知識をより多く獲ることができるだろう」

「現在我々が取り組んでいることだ。できればすぐにでも、小さなプロジェクトから始めて行きたい。そして大きいプロジェクト……これは2023年や2024年に向けてのモノだ」

ファエンツァに根ざす職人文化

 そう明かしたトストは、フォルクスワーゲン『パサート エステート』に我々を乗せ、ファクトリーから2kmのところにあるレストラン「ラ・ターナ・デル・ルーポ」にイタリアで最も重要な食事、昼食のために送ってくれた。

 トストは、時間を効率的に使うことを好む人物。彼の仕事効率は、ファクトリーのロボットに次ぐと感じる程だ。

 そんな彼はパサートを駐車スペースに停めながら、「私は仕事場から7分以上離れたところに住んだことはない」と語った。

 天井に吊るされたトスト寄贈のF1マシンを除いて、ラ・ターナ・デル・ルーポの店内は質素。テーブルクロスがかけられたテーブルが並べられている。

 その中の一席は、横に置かれたチームカラーのおもちゃのヘルメットが示すように、トストの専用席だ。アルファタウリチームとしても御用達のラ・ターナ・デル・ルーポは、ファクトリーから近いだけでなく、出てくる料理も一級品だ。

 ファエンツァという街は、西暦187年に執政官マルクス・アエミリウス・レピドゥスによって建設された全長270kmのエミリア街道沿いの都市のひとつ。現在この街道は、北はピアチェンツァ、南はリミニをA1高速道路とSS9一般道により一直線に結んでいる。

 古代ローマ時代、退役した兵士たちはこの地に土地を召し与えられ、農業やブドウ栽培、金属加工などに勤しんだ。何世紀も歳月を経て、エミリア・ロマーニャ州は農産物の品質と小規模産業の技術で高い評価を得るまでに洗練されている。フェラーリやランボルギーニといったメーカーが、この地にファクトリーを構えるのも不思議ではない。

「この地域のインフラは素晴らしい」とトストは言う。

(レーシングカーコンストラクターの)ダラーラがあるパルマを始め、モデナのフェラーリ、ドゥカティ、ランボルギーニ……このエリアには我々と(MotoGPでドゥカティを走らせる)グレシーニと、たくさんのチームが籍を置いている

と彼は続ける。

「我々の財務部門は100%イタリア人、人事部門も100%イタリア人、物流部門も100%イタリア人だ。メカニックは混在しているが、ほとんどがイタリア人だ。デザインオフィスのスタッフは混在していて、イタリア人は少なくイギリス人やその他の国の出身が多い。製造部門はイタリア人とイギリス人が混在している」

トストは若手ドライバーを育成するアルファタウリの立場に満足している。

トストは若手ドライバーを育成するアルファタウリの立場に満足している。

Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images

 ファエンツァでは美しい田園風景と絶品料理が待っているものの、イタリアの外から優秀な人材を採用するのは難しいことだとトストは言う。

「問題は、たいてい家族の存在だ」と彼は続ける。

「経験豊富なスタッフは40歳前後で、家庭を持ち、子どももいる。そしてその家族は、イタリアへ引っ越したがらないことが多い。だから、本当に経験豊富なスタッフを呼び集めるのは簡単なことではないのだ」

「しかしありがたいことに、中には家族をイギリスに残しているスタッフもいる。イタリアに来るよう家族を説得するよりも、彼らに長期休暇を取ってもらう方が良いのだ」

 このスタッフの問題は、他のチームほどアルファタウリでは問題にはならないのかもしれない。ライバルチームはタイトル獲得に向けて厳しい目標設定を行ない、完全勝利を目指しているが、アルファタウリは別の理由でF1を走っている。

「ディートリッヒ・マテシッツがチームを買収した時、我々のDNAを設定したのだ」とトストは説明する。

ふたつの柱がある。ひとつは、レッドブル・テクノロジーズとのシナジーを活かすことだ。2チーム分の開発コストを背負いたくはないだろう。そしてふたつ目は若いドライバーを育てることだ

トストはそう続ける。

「ということは、世界チャンピオンを夢見ることはできなくなる。そこに何の意味があるのか?」

「私としてはそれで全く問題はない。全くのゼロだ」

 
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