F1メカ解説|ハースF1のアップグレード……ただフェラーリをコピーしたわけじゃない?
2022年シーズンに力強いスタートを切ったハースF1は、アップデートの投入を遅らせた。ハンガリーGPでようやく大型アップデートを投入したが、このアップデートの効果はいかほどのモノなのだろうか?
写真:: Giorgio Piola
2021年はコンストラクターズランキング最下位に沈んだハースだが、今季は一転開幕から力強いパフォーマンスを発揮している。
ハンガリーGPを終えた時点でのハースの獲得ポイントは34。アルファタウリ、アストンマーチン、ウイリアムズを従えて、ランキング7番手につけている。
ただハースはシーズン前半で、あまり活発にアップデートを行なってこなかった。それを考えるとこのポジションは、驚異的なモノのように感じられる。実際ハースは、今季から導入された新レギュレーション下でのまったく新しいマシンを深く理解し、最大限のパフォーマンスを引き出すことを重視してきた。それが功を奏したと言えるだろう。
ただそんなハースも、ハンガリーGPに大規模なアップデートを投入。そのマシンは、今季のタイトル争いを繰り広げるフェラーリのF1-75を彷彿させる要素が多々あり、「ホワイト・フェラーリ」と揶揄する声もあった。
Haas sidepod comparison
一部の人々は、「単にフェラーリを真似ただけ」とこのアップデートパッケージについて言及した。しかしチーム代表のギュンター・シュタイナーは、フェラーリを真似るのは当然だと語った。
「我々はフェラーリと同じエンジン、同じギヤボックス、そして同じサスペンションを使っている。ならなぜフェラーリ以外の誰かをコピーするのだろうか? 他のチームはレースに勝っているか? つまり1+1は2であり、我々は愚かではない」
しかもハースの投入したアップデートは、マシンのコンセプトを根本から変えるようなものではない。確かにサイドポンツーンの上面にバスタブのような窪みができるなど、印象は以前のモノとは大きく変わる。しかしながら方向性は、開幕当初のマシンと同じ系統であると言えるだろう。
対してアストンマーチンやウイリアムズなどは、サイドポンツーンの形状が開幕戦仕様と全く異なり、空力的なコンセプトは大きく変更されている。これは、ハースとは大きく異なる部分だ。
ハースVF-22の側面(下がアップデート後)
前述の通り、ハースの新しいサイドポンツーンは、フェラーリからインスピレーションを受けたものであるのは明らかだ。ただそれのみならず、ボディワークの複数箇所にも変更が加えられている。
F1マシンは言わずもがな、マシンの周辺を後方に向けて流れていく気流をいかにコントロールするかが重要である。中でも特に、フロントタイヤが作り出す乱流を、いかに制御するか……それに注力する必要があるわけだ。
以前なら各チームのデザイナーたちは、コクピット横のバージボードや、サイドポンツーンの前端につけられたディフレクターなどを使ってコントロールすることができていた。しかし今季は、バージボードやディフレクターの使用が制限されている。またフロントウイングでも、外側に向けて気流を向けるいわゆるアウトウォッシュを作り出し、乱流がマシンの空力に悪影響を及ぼさないようにしていた。このフロントウイングも今季は形状が制限されているため、昨シーズンまでと同じような効果を狙うのは難しい。
そんな中ハースは、イギリスGPの際にアップデート版のフロントウイング翼端板を持ち込んだ。この翼端板はイギリスGPでは実戦投入されなかったが、ハンガリーではアップデート版のマシンに投入。おそらくこのデザインは、大規模アップデートが施されたマシンでのみ、求められた効果を発揮していたのだろう。
またサイドポンツーンは上部に窪みが入れられただけでなく、その全体的な形状も変更された。ショルダー部分は高くなって上面を通る気流が左右に溢れ落ちるのを防ぎ、さらに後端はより高い部分に空気が抜けていくようになった(緑色の線)。
前述のように細かい空力パーツを使えなくなってしまったため、ハースは今シーズン、より率直とも言えるアプローチを取っている。彼らはフロントタイヤが生み出す乱流を、ボディワークを使って調整したり、コントロールしたりしているわけだ。
例えばサイドポンツーンに加えられた変更は、フロントタイヤによって作られた乱流をマシンから遠ざけるのに役立ち、さらにマシンの後方に及ぼす影響を改善することができる。またリヤタイヤの前面に当たる気流も改善させ、空気抵抗も減らすことに繋がるはずだ。
マシン後端の細くなった部分……いわゆるコークボトル部への流れも、リヤサスペンションを変更したことに伴い、改善されているはずだ。これに伴い、ハースは様々な部分のフェアリングも修正している。
またエンジンカウルにも変更が加えられた。後端に取り付けられたシャークフィンは、後部がカウル本体から浮き、2本のステーで支えられるようになっていた。そしてその下には、熱排出用の開口部が設けられていた。しかし今回のアップデートでは、この開口部が埋められ、シャークフィンもエンジンカウルと一体化している(赤い矢印の部分)。
Haas VF-22 floor fences
またVF-22はフロアにもアップデートが施された。このフロアは開発が比較的自由であり、2022年のテクニカルレギュレーションにおいては、ダウンフォースを生み出すためには特に重要な部分である。
ハンガリーでのアップデートでは、フロアの前端部分とサイドエッジのフェンスに変更が加えられた。この部分はライバルチームも開発を行なっており、フロア下の気流を最適化し、さらに乗り心地の改善にも繋げられている。また、フロア下にも多くの変更が加えられているはずだ。
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