ヨーロッパで見る機会が減った国内メーカーのGT3……その理由を探る:英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記

日本を拠点に活動するmotorsport.comグローバル版のニュース・エディター、ジェイミーがお届けするコラム。今回のテーマは、ヨーロッパのカテゴリーでの参戦が激減した日本メーカーのGT3車両について。

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 先月末、ベルギーのスパ・フランコルシャンでは伝統のスパ24時間レースが開催されました。GT3規格のマシンにとっては最高峰ともいえるレースですが、そのエントリーリストには2年連続で日本のメーカーの名前がありませんでした。

 アウディ、BMW、メルセデス、ポルシェ、フェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーチン、マクラーレン、ベントレー……そこには世界を代表するビッグネームがズラリと並んでいます。しかし、日産のGT-R NISMO GT3、ホンダのNSX GT3、レクサスのRC F GT3といった日本のマシンは、ヨーロッパのメーカーに負けない力を持っているにも関わらず、スパのグリッドに並んでいないのです。

 こういった状況を鑑みると、日本の自動車メーカーは、ヨーロッパという賑わいのあるマーケットで自社の製品を売り出そうとしていないようにも感じてしまいます。

 GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ(GTWCE)を主催するSROはスパで、各メーカーのGT3車両が世界でどのくらい走っているのかに関するデータを公表しましたが、これは非常に興味深い数字でした。日本のメーカーは軒並み下位に沈んでいて、4台のレクサスはベントレーと並んで同率最下位。日産は9台、ホンダは14台(アキュラブランド含む)でした。ちなみに上位のメーカーを挙げると、メルセデスが63台、アウディが50台、ランボルギーニが42台と、その差は歴然です。

 もちろん、スーパーGTやGTワールドチャレンジ・アジア、スーパー耐久など、日本のレースでは国内メーカーのGT3車両が盛んに走っています。また北米のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でも、アキュラ(ホンダの北米ブランド)とレクサスがGTデイトナクラスで活躍しています。ただ、ヨーロッパにおいては話が違うということなのです。

 数年前までは、日産もレクサスもホンダも、ファクトリーチームやそれに準ずる体制でGTWCEやインターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)に参戦していました。その一環としてスパ24時間にも出場していたのです。3社ともその実力は折り紙付きだったのですが、それでも積極的に自分たちのマシンを選んでもらえるほど、カスタマーチームを納得させることはできなかったようです。

 2015年には日産(NISMO)がバサースト12時間に参戦し、千代勝正の活躍もあり総合優勝を収めており、日本のGT3が世界の舞台で通用することを証明しています。ちなみに彼らは翌年のレースでも1.2秒差の2位に入っています。

 RJNとタッグを組み、RJNがチーム運営をするという形で参戦していた日産ですが、残念ながら日産の資金提供は2018年シーズンを最後に終了となり、パートナーシップは解消となりました。当時チームに参加していたとあるドライバーによると、GT-Rのランニングコストは欧州車の2倍であり、スペアパーツも高価だったそうです。プライベーターチームにとれば、GT-Rを走らせるのは経済的ではないようです。

 2019年にはKCMGがGT-RでIGTCに参戦し、バサーストにも出場しましたが、翌年KCMGはポルシェにスイッチ。それ以来、日産はヨーロッパのトップレベルのGT3選手権に参戦していません。

#14 Emil Frey Lexus Racing Lexus RC F GT3: Christian Klien, Albert Costa, Marco Seefried

#14 Emil Frey Lexus Racing Lexus RC F GT3: Christian Klien, Albert Costa, Marco Seefried

Photo by: Marc Fleury

 レクサスに関しても、2018年のポール・リカール1000kmでエミール・フレイ・レーシングがRC Fで優勝しましたが、彼らは翌年からランボルギーニに車両を変更。その後はテック1レーシングがRC Fを走らせていましたが、その関係も2020年をもって終了となりました。

 そしてホンダは、JASモータースポーツがファクトリーチームを運営する形で2019-2020年のIGTCに参戦しました。優勝こそありませんでしたが。2019年のラグナセカではポールポジション、2020年のインディアナポリス8時間では表彰台を獲得、そしてシリーズ最終戦のキャラミでは不運なコーションに勝利を奪われたものの、優勝まであと一歩というところまで迫りました。

 当時スーパーGTに参戦する傍ら、IGTCでNSX GT3をドライブしていたベルトラン・バゲットは、NSXが2年間のプログラムの間に優勝できなかったことが、ホンダがその後プロジェクトを継続しなかった理由ではないかと考えています。

 しかし一方でバゲットは、少なくともヨーロッパにおいてはホンダというブランドがそれほど魅力的ではなく、カスタマーチームを惹きつけることができなかったのではないか、とも考えています。彼は昨年、「クルマは良いのに残念だ。ポルシェやメルセデス、アウディと戦うのに十分な性能を持っている。信頼性も高いし、24時間レースも全て完走しているのに、なぜSROの選手権でもっと多くのチームが(NSXを)使わないのか分からない」と話していました。

#29 Team Honda Racing Honda Acura NSX GT3: Dane Cameron, Mario Farnbacher, Renger van der Zande

#29 Team Honda Racing Honda Acura NSX GT3: Dane Cameron, Mario Farnbacher, Renger van der Zande

Photo by: SRO

 バゲットの指摘は興味深いです。NSX GT3が速かったとしても、フェラーリやポルシェ、ランボルギーニといったブランドの魅力がそれを上回るということです。

 残念ながら、現行のGT-R、NSX、RC Fがヨーロッパのレースに復帰して勝利を収めることは現実的とは言えません。アップデートは何度かされているとはいえ、ベースとなるモデルは比較的古いものであり、日産、ホンダ、トヨタ(レクサス)がそこに多額の投資を行なうとは考えにくいからです。

 だからこそ、注目すべきは新世代の日本製GT3マシンの登場です。1月の東京オートサロンで発表されたトヨタのGR GT3コンセプトはその出発点となりそうです。これが成功を収めるかどうかは、車両自体のパフォーマンスよりも、トヨタがヨーロッパのチームに対して、無数の選択肢がある中からいかにこの車両を選んでもらえるように仕向けられるかにかかっているでしょう。

 2024年には、WEC(世界耐久選手権)とル・マン24時間レースにおけるGTクラスの車両がGT3規格に完全移行しますが、そうなればGT3の市場競争はますます激しくなるでしょう。ただそれは、トヨタやホンダ、日産にとっても、この新時代に自分たちのマシンを再びヨーロッパのグリッドに並べる上でのモチベーションにもなり得るはずです。

 
 
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