自分たちのパワーユニットが勝ったんだ! ホンダ、念願のF1ダブルタイトル獲得を喜ぶ。HRC浅木氏「こんな時が来るなんて、感無量です」
2022年のF1のドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルを、レッドブルが獲得。同チームをHRCとしてサポートするホンダのエンジニアたちは、この結果に「自分たちのパワーユニットが勝った」と喜んでいる。
先日行なわれたF1アメリカGPで、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝し、レッドブルが2022年のF1コンストラクターズチャンピオンに輝いた。フェルスタッペンは先の日本GPで今季のドライバーズチャンピオン獲得を決めていたため、レッドブルとしては2013年以来のダブルタイトルを獲得したということになる。
現在レッドブルに積まれているパワーユニットは、レッドブル・パワートレインズのモノであるが、実際にはHRC(ホンダ・レーシング)が開発、製造、運用を担当している。実質的には”ホンダPU”と言って差し支えないモノだ。
ホンダは2021年シーズン限りでF1活動を終了。しかし今年も、レッドブルからの依頼を受ける形で上記のようなサポートを継続しており、それは新レギュレーションが導入される前年の2025年まで続くことになっている。
F1活動最終年にはドライバーズタイトルのみの獲得に終わったホンダ。しかし今季は念願のダブルタイトル獲得。HRC四輪レース開発部部長の浅木泰昭は、感無量だと語った。
「昨年は最終戦でドライバーズチャンピオンを獲得できましたが、今年はギリギリではなく、圧倒的な強さでここまで来られました。やっとというか、私がいるうちにこういう時代が来るとはな……そういう感覚です」
浅木部長はmotorsport.comの取材にそう答えた。
「ホンダとしてはF1撤退を発表した後ですが、Sakuraの技術者としては、開発がなくなったこと以外は以前と同じことをやっています。外からどう見えているか分からないですが、技術者としての気持ちは、昨年までと同じです。『自分たちのパワーユニットが勝った!』という気持ち以上でも、以下でもないです。素直に皆喜んでいますよ」
「社内でも『やったーっ!』という感じです。祝勝会もやりました……盛り上がりすぎて、呑みすぎちゃいましたけどね。感無量です」
「今年のPUの開発が終わった後、4月1日付で多くの技術者がいろんな部署に移っていきました。その人たちも呼んでの祝勝会だったんです。もちろん、エンジンだけで勝てるわけじゃない。フェルスタッペンやレッドブルのシャシーの存在も大きいですが、でも勝った。数年前はこんな時代が来るなんて、思ってもいなかった技術者が多かったわけです。でも、こういう時がやっと来た。素直に喜んでいます」
そんな浅木部長は、日本GPではコンストラクター代表として表彰台に登壇。優勝トロフィーを受け取った。その時のことを、次のように振り返る。
「帰る準備をしようとしていたら、レッドブルのスタッフが走って呼びにきて、そして走って表彰台に行きました。上がってくれと言われた時は、Sakuraの皆を代表してもらうんだ、そういうふうに思いましたね。日本の開発チームの代表が表彰台に上がるなんて、初めてだと思いますから」
「嬉しかったですね。本当にこんなことが……一生のうちに起きるとは思っていませんでしたからね。でも、シャンパンの瓶を落としそうになりました。重いし、当たり前ですけど、濡れると滑るんですよね」
「味も格別でした。そもそもシャンパンをがぶ飲みしたことなんてありませんからね。でもその後は大変でした。シャワーを浴びる時間もなかったので、一応着替えはしましたけど、お酒臭い格好で電車に乗って東京に戻ったので……頭とか、臭かったと思いますよ」
今季圧勝した”ホンダPU”。その強みはどこにあるのか? それについて浅木部長は次のように分析する。
「エンジンのパワーは互角だと見ています。でも、使える電気の量はホンダが少し多いみたいですね。コースにもよりますが、ストレートエンドで相手が電力を使い切ってしまっても、ウチはまだ少し残っている。そういうシチュエーションはあるのではないかと思います」
「最高速の差については、空力特性という部分もあると思います。電気はスピードトラップの数字には出にくいですが、直線の最後までアシストが続くという、そういうニュアンスですね」
今シーズンのライバル勢について、浅木部長は次のように見ている。
「フェラーリは予想通りです。彼らはここ2年苦労したというか、2年捨てて今年にかけてきたというように見ていました。その分伸びましたよね」
「一方でメルセデスは、失敗した感があります。これは私の妄想かもしれませんが、ホンダが第二期のF1活動で、マクラーレンと組んでいた時と似ているように思います」
「パワーで優っているという前提で何年もやっていると、ウィングでダウンフォースを稼いでも直線スピードは負けない、そういう感覚があるのかもしれません。しかし一旦パワー面で追いつかれた時には、非力なPUでなんとかしようとクルマを作り続けてきたチームとは、違いが出るのかもしれません」
「マクラーレン・ホンダがだんだん勝てなくなった頃も、既にF1エンジンの開発から離れた場所にいた私からはそういう感じに見えました。つまりパワーの差がなくなってくると、それまでパワーがない中でクルマ作りをしてきたチームに優位性が出るのかもしれません。そういう可能性もあるのかなと思ったりしています」
前述の通り、HRCはレッドブル・パワートレインズを2025年までサポートすることが決まった。契約期間が延長されたとはいえ、HRC Sakuraでやることについては、何も変わらないと浅木部長は言う。
「技術者がやることについて言えば、変わったことは何もないです。ホンダのIP(知的財産権)は開示しないということになりましたから、彼ら(レッドブル・パワートレインズ)としてはエンジンを分解することも、中身を見ることもできない。そうなると、今まで通りホンダがやるしかないわけです。21年も22年も、そして来年からの3年も、開発凍結などレギュレーションに変化があったことを除けばやることはあまり変わりません」
「他の部署に異動するスタッフは、もう全て異動しています。だから残りのスタッフでやっていくしかないですね。あと、F1をやりながら開発した方がいいと思われる部分の技術者は残っています。例えばeVTOLに知見が活かされるバッテリーとかERS(エネルギー回生システム)などの電気関連は、一緒に開発した方がいいのでSakuraに残しています」
今季の圧倒的なまでの強さに、ホンダのF1正式復帰を待望する声も各方面から上がっている。これについては浅木部長の耳にも届いているようだ。
「そういう声は当然耳にはいってきますよ。一方で、『F1やめると言ったじゃないか!』という声も、当然入ってきます」
浅木部長はそうおどけて言う。
「普通に考えれば、Sakuraの技術者が一生懸命やってきた色々なモノを、継続していきたいという気持ちはあります。でも会社が置かれている状況、経営判断というモノの方が優先ですから、それには従わなければいけません。それ以上の答えはないですね」
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