生まれてはじめて「レースをしたくない」と思った……ユベールの事故死が、F1王者ベッテルの“レース観”に与えた影響
セバスチャン・ベッテルは、2019年に起きたアントワーヌ・ユベールの死亡事故が、自身にどれほど深い影響を与えたかを明かした。
2019年F1ベルギーGP。併催されたF2のフィーチャーレースでは、序盤の多重クラッシュによりアントワーヌ・ユベールが命を落とすという悲劇が起きた。当時フェラーリのF1ドライバーだったセバスチャン・ベッテルが、この事故が自身に与えた影響について語った。
ベルギーGP土曜日の予選でベッテルは、チームメイトのシャルル・ルクレールと共にフロントロウを獲得。メルセデス勢を抑え込むことに成功した。F2のレースが始まったのは、その後のことだった。
そこで起きた出来事は誰もが知っている。ラディオンの頂上で連鎖的なアクシデントが発生し、バリアにヒットして跳ね返ったユベールのマシンに、ファン・マヌエル・コレアが避けきれず激突。コクピット付近に大きな衝撃を受けたユベールは命を落とし、重い沈黙がパドック全体を包み込んだ。
翌日、ユベールの追悼が行なわれた後、F1のレースは予定通り実施された。ルクレールはメルセデスのルイス・ハミルトンを抑え切って感動のF1初優勝。一方4位に終わったベッテルのレースは人々の記憶にほとんど残っていないが、彼はニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したコラムの中で、キャリアで初めてレース出走を躊躇ったことを明かした。
当時の心境について、彼はこう綴っている。
「何かが壊れたり、プッシュし過ぎたりして、コントロールを失ったことは何度もあった」
「僕も数多くのクラッシュを経験してきた。クラッシュは一瞬の出来事だが、その瞬間には時間がゆっくり流れるように感じる。そして、スピードを追い求めた結果の厳しい現実を理解し始めるんだ。クラッシュの凄まじい衝撃は、自分がどれほど危険なものを扱っているかを思い知らせてくれるが、それでも僕はレースを続けてきた」
「20年以上にわたるレース人生で一度だけ、再びマシンに乗ることを真剣にためらったことがあった。それが2019年8月のベルギーGPだった。若手のフランス人ドライバー、アントワーヌ・ユベールがレース中の事故で22歳で亡くなった」
「自分も何度も事故を経験してきたが、幸いなことにどれも軽傷で済んだ。他のドライバーのクラッシュも見てきたが、同様だった。しかし彼はまだまだこれからの人生だったのに、その人生が皆が見守る中で突然終わってしまった」
「僕は妻のハンナに電話をして、『明日はレースをしたくない』と伝えた。その夜はほとんど眠れなかったけど、最終的にはレースに出場することを決めた」
ベッテルは当時32歳だったが、この出来事が自身のレース観を変えることになったという。
「あの週末の後、僕は自分がやっている競技に対して違った見方をするようになった。そのことを本当に理解したのは引退後だったが」
「僕はスピードそのものを恐れたことはない。しかし今では、ただ体感するだけではなく、そのスピードを客観的に見ることができるようになった」
「それまで感じたことのなかった責任感を抱くようになった。スピードや進歩、イノベーションというものは、それが我々を正しい方向へ導くものであってこそ価値があるのだと理解するようになった」
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