まだF1ガーデニング休暇は必要ですか? “働き方改革”から生まれた利害の一致で紳士協定案が浮上
F1では長らくチーム機密情報を守るために“ガーデニング休暇”が使われてきた。しかしリモートワークが普及した現代において、まだ意味を成しているのだろうか?
Lance Stroll, Aston Martin AMR24, passes engineers of the Aston Martin F1 Team on the pit wall
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
イギリスほど手入れの行き届いた庭園はない!
シーズン開幕からF1のパドックでは、そんなジョークが飛び交っている。
これはF1の“ガーデニング休暇”にちなんだモノで、チーム従業員が他陣営へ移る際、契約上、新天地に移籍するまでのインターバル期間を指す非公式な呼称だ。多くのF1チームが拠点を置くイギリスでは、もはや必要もないほど”ガーデニング”されている、というわけだ。
結局のところ、従業員が他チームと契約し、すぐにライバル陣営で仕事を始めるのは、その従業員が元々いたチームからするとノウハウの流出という点で得策ではない。
その代わり移籍が完了するまでの間、その従業員はF1チームとは関係のない特別プロジェクトに携わったり、自宅で作業したりして、契約の残りをやり繰りすることを余儀なくされることが多い。
この宙ぶらりんの期間では、最新のチームの開発に関する知識が限られているため、新しいチームに合流しても“持っていける”情報はそれほど多くない。
ここ数年、チームは退職時に課すガーデニング休暇の期間を大幅に延長する傾向にあり、時には12ヵ月以上に達することもある。
例えば、フェラーリのフレデリック・バスール代表は2023年の晩春に新テクニカルディレクターであるロイック・セラと契約を交わしたが、セラが実際に加入するのは今年の10月だ。
元々ガーデニング休暇制度が受け入れられたのは、従業員を失うことを恐れている人々を保護するためだ。
しかし、ここ数ヵ月はこの制度をめぐり反発の声が挙がっている。中には制度全体を変える必要があるのかどうか疑問視する者もいる。
2022年末以降、F1では10チーム中8チームが新しい代表を迎えており、新任のチーム代表が組織図を変更したがるのはよくあることだ。
チームの採用活動は、ほとんどの場合、他チームから技術者やマネージャーを引き抜くことを目的としている。2023年に入ってからの一連の人事異動(特に技術系)は、何百通もの辞表を生むことに繋がった。
あるチーム関係者はこう語る。
「ガーデニング休暇中の人たちを全て合わせれば、11番目のチームができるね!」
昨年の冬、バスール代表は、チームを移籍しようと考える従業員が直面する問題について、次のように語っていた。
「採用枠に空きがあることを知った時、新しい従業員はチームに加わるまで12ヵ月待たなければならない」とバスール代表は語った。
「その期間が過ぎれば、彼らはオフィスに来るようになる。そして、彼らの貢献が目に見えるようになるのは、翌年のプロジェクトになってからだ」
Frederic Vasseur, Team Principal and General Manager, Scuderia Ferrari
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
「その人が必要になってから、その人の仕事に関連した結果が出るまで、2〜3年はかかる」
長過ぎるガーデニング休暇は今やほとんどのチームにとって頭痛の種となっている。そして不都合が共通のモノとなれば、それを改善しようという意志も高まる。
ここ数週間、パドック関係者が従業員の取るガーデニング休暇期間を一般的に短縮するための紳士協定が提案されていると指摘したのは驚くことではない。
現在行なわれている議論の中心には、いくつかの重要な要素があるとされている。
例えば、働き方の進化を考えると、これほど長いガーデニング休暇は現在でも意味があるのだろうか?
COVID-19のロックダウン期間中には、リモートワークを可能にするシステムの強化が積極的に推し進められた。そしてF1はその性質上、新しいテクノロジーとの融合に関して、際立ったスピードと効率性を持っている。
リモートワークは多くの問題を解決したが、不注意にも新たな問題を生み出した。今日、ガーデニング休暇中のプロが自宅にいながら自身のアイデアをF1チームに注入しないかどうかチェックできる人がいるだろうか?
数年前までは、技術者が現場に常駐していることは、その部門をしっかりとサポートするために不可欠な要素だった。しかし現時点では、協力相手とやり取りができるのは依然として“プラス”ではあるが、もはや不可欠という条件でもない。
そのため、このような長期的なガーデニング休暇を課す必要がありながら、それを監視することができず、契約条項を尊重したい人たちが、PCの電源を入れたり自宅で作業したりすることにあまり問題のない人たちと比べて困難に陥る危険性があるという奇妙な矛盾が生じる。
また逆説的だが、契約ではガーデニング休暇が満了するまでその従業員に給与を支払うことになるため、これら全てが元いたチームの予算上限を圧迫することになる。
この他にも、ガーデニング休暇をF1界全体の発展にブレーキをかけるマイナス要因とみなす人々もいる。
F1において、あまり制約のない人的交流は常に情報交換の主要な手段であり、勢力図の均衡を保つ上でも貢献している。しかし今日、F1チームがタイトなスケジュールで運営されていることを考えると、ガーデニング休暇はそれを遅らせてしまっているようだ。
互いに思うように人材を採用できないというフラストレーションに直面している中で、ライバルチームへの従業員移籍を引き留めることに固執するのは本当に意味があるのだろうか? チームは双方とも損をしているように思える。
F1での採用活動がここ数年で最も活発になっている今、この話題は消えることはないだろう。
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