年々高まるF1の価値。HRC浅木部長「増えるファン層は、ホンダが自動車を売りたい層と合致している」
世界中でファンが増え、さらにカーボンニュートラル化へと歩みを進めているF1。ホンダ・レーシングの四輪レース開発部の浅木泰昭部長は、F1が持つ価値は年々高まっていると語る。
HRC(ホンダ・レーシング)四輪レース開発部の浅木泰昭部長は、F1の価値は年々高まってきており、そして走る実験室としての役割を取り戻しつつあると語る。
今季もレッドブル・パワートレインズのパワーユニット(PU)を製造したホンダ。ただ正式には2021年限りでF1活動を終了することを、2020年の10月に発表……現時点ではHRCを通じてあくまで“技術的な支援”をしているという立場だ。
ただF1を取り巻く環境は、2020年にホンダがF1参戦活動終了を発表した時とは大きく異なる。いずれのグランプリにも大観衆が詰めかけるなど、アメリカを中心にF1人気は爆発。2022年に久々に開催された日本GPの観戦チケットも完売となった。
さらにF1は環境対策にも力を入れており、以前のような”ガソリンを大量に消費して空気を汚す”という印象は薄まりつつある。そのためか、メルセデスは電動フォーミュラカーのシリーズであるフォーミュラEを撤退したものの、F1の活動を継続。またフォーミュラEの活動を終了させたアウディは、2026年からのF1参戦を決めた。
今のF1の価値をどう考えるか? そう問うと、HRCの浅木部長は、その意味は確実に高まっていると語る。
「私の感覚で言うと、F1はやはり最高峰のレースです」
そう浅木部長は言う。
「BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)のような制度を取り入れて、どこが勝つかわからないという形にして興行的に面白くしようという仕掛けがまったくありません。無慈悲なレギュレーションですよね」
「でも、ここで勝てれば世界一だという自負を持つことができます。そういうことをもっと認識していただければ、その価値をすごくアピールできるのではないかと思います」
またマーケティングツールとしても、今のF1は強力だと浅木部長は言う。
「北米でのF1人気が急激に上がってきています。もっと分析しなければいけませんが、お客さまの層も若いというのがアメリカで見えてきているようです。それは、ホンダとしてもアメリカで自動車を売りたい層と、かなり一致してきているんじゃないかと思います」
「日本GPも、若い人や子供連れ、そういう方が増えていている印象です。今までだとF1のファンは年齢層が高めで、その方々がいなくなってしまえば(日本の)F1は終わり……そう見る向きもありました。でも、その部分はずいぶん変わってきています」
「自動車をどういう人に売りたいか、そういう意思を持っているメーカーからすると、F1の価値は相当に上がっていると思います」
F1の環境に向けた取り組みも、これに寄与していると浅木部長は語る。F1のパワーユニットは超高効率であり、しかも2026年からは100%カーボンニュートラル燃料を採用予定。環境対策を先導しようという思惑が見て取れる。
「お客さまが離れていかないように、F1もすごく努力しています。そのため、カーボンニュートラル燃料の導入を決めたりしているわけで、地球環境を破壊しているというターゲットにされるようなイベントだと生き残っていけない……そういう感覚がひしひしと伝わってきます」
「私もそうすべきだと思うし、そうじゃなければ興行としても持続できないでしょう。そういう時代に突入していると思います。F1もそれを完全に読み取って、レギュレーションでしっかり対応してきている。それは良かったと思います」
ホンダは2020年にF1活動終了を発表した際、「カーボンニュートラルの実現に、経営資源を集中させる」のがその理由だと説明していた。しかし今のF1は、カーボンニュートラルの実現に寄与する存在となりつつある。
「カーボンニュートラルを実現するためには、どの道が一番効率がいいのかを考えなければいけません。EVはそのひとつの選択肢だし、水素もそう、そしてカーボンニュートラル燃料にも何種類かあります。でもその中のひとつしか残らないのかどうかはわかりません」
「EVは、ひとつ残るだろう選択肢だと思います。でも他の道は残らないのか……そうなった時、私としてはカーボンニュートラル燃料があると思っています」
「航続距離とか楽しさとか音だとか、そういう点で内燃機関を残したいという人が、HRCには多くいます。そのためにはカーボンニュートラル燃料が必要です」
HRCとしては、レースでカーボンニュートラル燃料を使うことで、市販車での使用に向けて弾みをつけたいと考えているという。
カーボンニュートラル燃料は、現時点では非常に高価である。ただレースで使う量を作り上げることで、市販車でも使えるようにしていきたいと浅木部長は言う。
「もちろん、それを目指していますよ。計算式だけでやっていても、なかなか実証できません。レースは大規模というわけではありませんが、中規模くらいの製造量は必要です。そういう意味で言えば、サーキットは走る実験室になり得ると思います」
「それを作っていく過程で、色々なモノの発見や発明があれば、また変わった将来への読みができるんじゃないかと思います。Sakuraに残ったエンジン技術屋が、将来を変えることができるかもしれない。そういう役割を担いたいと思います」
「HRCはホンダとは別の会社として、そこを担っていきたいと思っています。世のためにも、ホンダが目指している道の幅が広がるという点でも、意味があるんじゃないかと思います」
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