F1 オランダGP

アストンマーティン・ホンダAMR26は失敗作なのか? ニューウェイ作の”お蔵入り”マシン、マクラーレンMP4-18との共通点

今季のアストンマーティン・ホンダのマシンAMR26は、失敗作なのか? 天才デザイナーのニューウェイとて、全てのマシンが成功したわけではない。

田中 健一

編集: 2026/08/17 9:31

Copy link

Facebookでシェアする

Twitterでシェアする

WhatsAppでシェア

Linkedinでシェアする

Pinterestでシェアする

Viberでシェア

Google検索でmotorsport.comをお気に入り登録

Jak Crawford, Aston Martin F1 Team AMR26 Honda

 2026年のF1前半戦で大いに注目されたのは、アストンマーティン・ホンダの躓きだ。今季は天才的F1マシンデザイナーであるエイドリアン・ニューウェイがマシンを手がけただけあって、ものすごい戦闘力を発揮するのではないかと期待が寄せられていた。しかしスタートダッシュには大きく失敗。前半戦最後のレースとなったハンガリーGPでアップデートを投入したことで、中団グループ上位には浮上したものの、それでも期待されたポジションからは程遠い。

 しかしニューウェイが手がけてきたマシンのどれもが、好パフォーマンスを発揮したわけではない。中には失敗作もある。その最たる例が、2003年シーズン用に開発されたマクラーレンMP4-18であろう。

 ニューウェイはレイトンハウス/マーチに所属していた時、小規模なチームであるにもかかわらず時折上位を脅かすようなマシンを次々に生み出し、トップチームへ移籍する足がかりとなった。そして1992年、ウイリアムズFW14Bがニューウェイが手がけた初のチャンピオンマシンとなった。以後マクラーレン、レッドブルと渡り歩く中、数々のチャンピオンマシンを生み出した。

 ただ中には失敗作と言えるマシンもあった。その最たる例が、マクラーレン時代に2003年用マシンとして生み出した、MP4-18であろう。

 当時マクラーレンは、1998年にダブルタイトル、1999年にはドライバーズタイトルを獲得していたが、フェラーリ+ミハエル・シューマッハーのコンビに先行され、2000〜2002年はダブルタイトル獲得を許していた。そんな中開発されたのがMP4-18である。

 このMP4-18は徹底的にコンパクトにパッケージングされた。ボディワークやサイドポンツーンはもちろん、ギヤボックスも小さく設計された。

 またフロア下にうまく気流を流すために、ツインキールというコンセプトも採用された。

 当時はいわゆる”ハイノーズ”と呼ばれるデザインが主流であり、モノコックが持ち上げられ、コクピットの下に広い空間が設けられていた。ここからマシンのフロア下に気流を導くことで、ディフューザーの効果を高めようとしたのだ。

 ただモノコックが持ち上げられると、フロントサスペンションのウイッシュボーンの下側2本の取り付け位置がない。当時のF1では、サスペンションのアームは極力路面と並行にしなければ、安定したパフォーマンスを発揮することができないとされていたのだ。

 そのためモノコックの下、中央部を延長させてサスペンションの取り付け点を設ける方式、いわゆる”シングルキール”という方法が考え出され、それが主流となっていた。しかし気流の中央部分に突起物が存在することとなり、フロア下に向かう気流を乱していた。

 これを避けるために考えだされたのが、モノコック下の左右の角に1本ずつキールを設ける”ツインキール”と呼ばれる方式。これならば、フロア下に向かう気流を乱すことはない。

 このツインキールは、当時マクラーレンにいたマイク・コフランが2002年にアロウズ時代に採用したものであり、MP4-18にも採用された。

 ちなみに後にF1のサスペンションは、必ずしも路面と並行ではない角度で設置されるようになり、ゼロキールが主流となった。今もこのゼロキールだ。

 その他にも、レイトンハウス時代から模索していた波打つような格好のフロントウイング、レッドブル時代に完成させるディフューザー内に排気ガスを吹き付ける手法も採用した。

 しかしこの車両は実戦投入されることはなかった。

The new McLaren Mercedes MP4-18

The new McLaren Mercedes MP4-18

写真: DaimlerChrysler

 F1公式サイトによれば、開発途上に数々の問題が明らかになったようだ。モノコックはあまりに狭かったため、側面のクラッシュテストに不合格。搭載していたメルセデスエンジンの要求に応じた冷却性能も不足していた。またリヤエンドはごくコンパクトであったため、セットアップ変更やギヤボックス交換に多大な時間を要した。

 しかもテスト走行時にはサスペンションの破損が頻発するなど、満足に周回を重ねることができなかった。また空力的には敏感すぎ、ドライブするのも極めて困難だったようだ。

 F1公式サイトには、ニューウェイの当時の説明が掲載されている。

「その問題は、シャシーの前部とサイドポンツーンの前部が、サイドポンツーン直前のデルタウイング状の構造で発生する渦に過度に干渉し、その結果特定の条件下でその渦を不安定にさせたり、崩壊させたりすることに起因していた」

 この問題を解決するためにはモノコックを変更する必要があり、結局MP4-18はお蔵入りに。この年は前年マシンの改良版であるMP4-17Dで戦うことになった。ただMP4-18の改良版は翌年にMP4-19として登場することになる。

 このMP4-19もニューウェイが望んでいた変更すべてが投入されたわけではなく、ニューウェイが手を施した改良版はシーズン後半になって登場。ベルギーGPでは優勝も手にした。さらにその進化版が、2005年に合計10勝を挙げたMP4-20である。

 つまりニューウェイが過激なコンセプトを採用して失敗したマシンも、しっかりとその後に繋がっているということだ。

 レッドブル加入時も、すぐにニューウェイ効果が発揮されたわけではない。初めてニューウェイが手がけたのは2007年のRB3だったが、表彰台を1回獲得するのがやっと。2008年のRB4も表彰台1回だった。しかしレギュレーションが大きく変化した2009年のRB5で一躍トップチーム入りを果たし、2010年にはチャンピオンを獲得することになった。

 さて今季のアストンマーティン・ホンダのマシンAMR26は、実に過激だ。ある意味、MP4-18よりも過激と言えるかもしれない。

 その最たる例は、フロントサスペンションだ。上のウイッシュボーンは、前後で高さが変えられているだけでなく、後方のアームは極後方まで伸ばさている。また下側のウイッシュボーンは、通常なら前後でV字型になるように配置されるが、このAMR26では2本揃ってタイヤからモノコックの方に後方に向けて斜めに配置されている。この2本のアームがウイング状になっており、ここで気流を下向きに変え、フロア下に送り込んでいるのだろう。こういうレイアウトのフロントサスペンションを持つマシンは、これまで見たことがない。

 またサイドポンツーンは下部が極端に抉れ、薄く板状とも言える形状になっている。またリヤサスペンションも、上のウイッシュボーンがリヤウイングステーに取り付けられているのも実に過激である。

関連ニュース:

 これらはいずれも、さすがニューウェイだと言わしめる過激さ。繰り返すが、かつて見たこともないような、驚くべきマシンであると言える。

 もしAMR26が、他のチームのマシンと同じようにオーソドックスなマシンでありがなら、最下位付近を走るような低いパフォーマンスしか発揮できないのならば、何の将来性もなかったかもしれない。しかしここまで過激なデザインならば、逆に将来性すら感じさせる。

 マクラーレンMP4-18、その過激なデザインからお蔵入りとなったが、同チームの将来に確実に繋がった。しかし改善には時間がかかった。ただAMR26は、ハンガリーGPでのアップデート1回で、しっかりと中団グループには入れるまでパフォーマンスを向上させている。そういう意味では、2000年代前半のマクラーレンほど時間はかからないかもしれない。

 あとはホンダのアップデート版パワーユニットの出来次第だ。アップデート版
パワーユニットは、オランダGPで投入される。

 その後押しとなりそうなのが、アストンマーティンとホンダがひとつのチームになって現在の苦境に立ち向かおうとしているということだ。今季のような展開となれば、その責任の所在はどこにあるのか、それを探ろうとして内部崩壊してしまう……そんな可能性だって十分にあったはずだ。実際、開幕前後にはそういう言動も多少見てとれた。しかし最近では、アストンマーティンの首脳陣もホンダの首脳陣も、徹底して「ひとつのチーム」であるということを主張する。

 これはアストンマーティンとホンダのプロジェクトではない。アストンマーティン・ホンダというチームのプロジェクトなのだ。そしてそこには、超過激なAMR26という素材がある。

 このまだ輝き始めたばかりの原石と言えるAMR26を磨き上げることができるのか、それはアストンマーティン・ホンダの全員の手にかかっている。

関連ニュース:

 

あなたの意見が聞きたい!

Motorsport.comで何を見たいですか?

5分間のアンケートにご協力ください。

- Motorsport.comチーム

関連ニュース :

記事をシェアもしくは保存

Copy link

Facebookでシェアする

Twitterでシェアする

WhatsAppでシェア

Linkedinでシェアする

Pinterestでシェアする

Viberでシェア

前の記事 ホンダF1、PU性能改善の時期見通しを示す「2027年中か2028年にはトップの競争相手になりたい」

次の記事 成功に近道なし。苦労人マクニッシュがセナとアウディ重鎮から得た学び……F1レーシングディレクターの職務に活きる

More from

田中 健一



日本から世界に挑戦……宮田莉朋、中村仁の2026年の評価をトヨタ加地ディレクターに訊く

F1

F1 18 時間前

日本から世界に挑戦……宮田莉朋、中村仁の2026年の評価をトヨタ加地ディレクターに訊く



F1分析|フェラーリの秀逸な準備。最適なタイヤはソフトだと、初日から気づいていた可能性……”バグ”がなければ、打倒メルセデスは間違いなかった?

F1

F1

バーレーンGP

2 日前

F1分析|フェラーリの秀逸な準備。最適なタイヤはソフトだと、初日から気づいていた可能性……”バグ”がなければ、打倒メルセデスは間違いなかった?



アロンソがセパンで8位、最後ノリスを封じる「次のシンガポールにも希望が見えている」

F1

F1

バーレーンGP

3 日前

アロンソがセパンで8位、最後ノリスを封じる「次のシンガポールにも希望が見えている」

More from

アストンマーティン



F1分析|アストンマーティン・ホンダのパフォーマンスは確実に向上。セパンでのレースペースは良好……次戦シンガポールでのこのペースを維持できるか?

F1

F1

バーレーンGP

2 日前

F1分析|アストンマーティン・ホンダのパフォーマンスは確実に向上。セパンでのレースペースは良好……次戦シンガポールでのこのペースを維持できるか?



アロンソの現役続行、かつての好敵手ハミルトンが歓迎「才能という面では、彼に敵わないドライバーはたくさんいる」

F1

F1

バーレーンGP

2 日前

アロンソの現役続行、かつての好敵手ハミルトンが歓迎「才能という面では、彼に敵わないドライバーはたくさんいる」



ホンダF1にとってマレーシアでのバーレーンGPは今季最高のレースに。折原エンジニア「PUの実力を完全に反映したわけではないが……価値ある結果」

F1

F1

バーレーンGP

3 日前

ホンダF1にとってマレーシアでのバーレーンGPは今季最高のレースに。折原エンジニア「PUの実力を完全に反映したわけではないが……価値ある結果」

最新ニュース



インドネシアGPとの相性が最悪のマルク・マルケス、ドゥカティも苦戦を覚悟?「10点か12点失っても悪くはない」

MotoGP

MGP MotoGP

インドネシアGP

41 分前

インドネシアGPとの相性が最悪のマルク・マルケス、ドゥカティも苦戦を覚悟?「10点か12点失っても悪くはない」



”俺たち”はレッドブルの判断を見習うべき? ルクレール「彼らが選択を外さない理由を理解しないと」

F1

F1 F1

バーレーンGP

1 時間前

”俺たち”はレッドブルの判断を見習うべき? ルクレール「彼らが選択を外さない理由を理解しないと」



MotoGP、2027年から新フォーマット導入。スプリント予選追加、ウォームアップ廃止など変化

MotoGP

MGP MotoGP

日本GP

4 時間前

MotoGP、2027年から新フォーマット導入。スプリント予選追加、ウォームアップ廃止など変化



キャデラックF1、それでいいのか? 「F1を制するのが目標なら、アメリカ拠点は最適ではない」元F1チーム代表から厳しい声

F1

F1 F1

アゼルバイジャンGP

5 時間前

キャデラックF1、それでいいのか? 「F1を制するのが目標なら、アメリカ拠点は最適ではない」元F1チーム代表から厳しい声

Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.

フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。

次の 2 つのオプションがあります。

購読中 すでに購読していますか? ここからサインインします

広告ブロッカーを無効にしましたか?
ページをリロード

お知らせの管理

登録