F1 スペインGP

F1分析|幸運だっただけじゃない。アントネッリ、自らの判断でピットに飛び込み勝利をもぎ取る……20歳の驚異的な決断力。最速ノリスは不運|F1スペインGP決勝

最速だったランド・ノリスは、VSCのタイミングに嫌われ、勝利を逃した。一方アントネッリは、ほんの僅かしかない時間で抜群の判断を下し、勝利を掴み取った。

田中 健一

編集: 2026/09/14 8:33

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Kimi Antonelli, Mercedes

Kimi Antonelli, Mercedes

写真:: Federico Basile

 F1スペインGPは、メルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリが優勝。これで今季8勝目、ドライバーズランキングでのリードをなんと81ポイントまで拡大し、自身初のタイトル獲得に大きく大きく近づいた1勝だったと言える。

 今回のレースでは、確かにマクラーレンのランド・ノリスが速さを見せたものの、バーチャル・セーフティカーのタイミングが彼にとっては最悪であり、それによって勝利を逃したという側面も確かにある。しかしアントネッリは、不利な状況を自身の集中力でグッと手繰り寄せた側面もあった。その集中力がなければ、この勝利はなかった……もしかしたらレッドブルのマックス・フェルスタッペンが、今季初勝利を手にしていたかもしれない。

 ノリスは予選Q2までは特に目立つ存在ではなく、ある意味鳴りを潜めていた。

 しかし予選Q3の最終アタックでいきなり速さを見せ、ポールポジションを獲得。思い起こせば、前戦イタリアGPでは勝利を逃したものの、それ以前のハンガリーGPとオランダGPを連勝したのはこのノリスであった。

 そしてその速さは、決勝レースでも発揮された。

F1スペインGP決勝レースペース推移

F1スペインGP決勝レースペース推移

写真: Motorsport.com Japan

 このグラフは、F1スペインGPの決勝レース中のペース推移である。これをみれば一目瞭然、オレンジ色の折れ線で示したノリスのペースは、他よりも一歩抜け出しているのが分かる。

 そのためレースがスタートすると、ノリスはアントネッリ以下をどんどん引き離していった。そのまま行けば、ノリスが勝った可能性が非常に高いだろう。

 しかし14周目、ランス・ストロール(アストンマーティン・ホンダ)がマシントラブルによりストップしたことで、バーチャル・セーフティカー(VSC)が出された。このタイミングは、ノリスにとってはあまりにも不利だった。

 ノリスが14周目のピットレーン入り口に差し掛かった時、まだVSCは宣言されていなかった。しかしその先の最終コーナーに差し掛かったところでVSCが宣言。後続のマシンがこのVSCのタイミングでピットに飛び込んだ一方、ノリスだけがピットインできなかった。

 しかしノリスとしては、次の周までVSCが宣言されたままであれば、このタイミングによる損得はなかったはずだ。しかし15周目のピットレーン入り口に差し掛かったタイミングでVSCが解除されてしまう。まさにノリスとしては最悪のタイミングであった。

 しかしノリスはこのタイミングでピットイン……そしてさらに悪いことが続く。右フロントタイヤの交換に手間取り、追加でタイムをロスしてしまう。そしてノリスがコースに戻った時には5番手まで落ちてしまった。

 かなり意地の悪い神様が、ノリスにだけ”これでもか”と意地悪をしたような格好になった。

 オーバーテイクがほぼ不可能なマドリンクでは、これは致命的であった。ノリスはフェルスタッペンに抑え込まれてしまうことになった。それでもフェルスタッペンのペースも決して悪くはなく、戦略が異なり、スタートからピットインせずにハードタイヤで走り続けていたルクレールに抑え込まれたアントネッリに接近していった。レースの最終盤には、アントネッリ、フェルスタッペン、ノリスによる三つ巴の優勝争いになるように見えた。

 しかしルクレールがピットインして前が開けると、アントネッリが一気にペースアップ(グラフ赤丸の部分)。フェルスタッペン以下を置き去りにしてトップチェッカーを受けた。

■自らの判断で勝利をもぎ取ったアントネッリ

 ノリスが意地悪された一方で、アントネッリには勝利の女神が微笑んだ……そんなレースだったように見える。しかし実はそうではない。アントネッリは、自らの力で勝利を掴み取った、そんな瞬間があった。それは、前出のVSCのタイミングである。

 ノリスには、どう転んでもVSCを活かすことができなかった。これは事実だ。しかしアントネッリも、そう簡単にVSCが出たタイミングでピットインできたわけではなかったのだ。

 当時2番手を走っていたアントネッリには、ストロールがストップした段階で「ターン19〜20でイエローが出ているよ」という情報が無線で伝えられた。そしてターン20(ストロールが停まっていた箇所)を通過すると、コース右側のライトパネルにはグリーンフラッグが表示された……つまり”加速してよし”という意味だ。

 そしてターン21を通過したところでは、まだVSCの指示は出ていない。このターン21のすぐ先に、ピットレーンの入り口がある。

 ここで担当エンジニアのピーター・ボニントンから、アントネッリに無線が入る。

「セーフティカーウインドウにいるよ」

 つまりボニントンは、アントネッリに対して「セーフティカー(もしくはVSC)が出たらピットインできるタイミングだよ」と伝えたのだ。

 するとその無線交信の直後、コース右側にあるライトパネルに「VSC」の表示が灯る。アントネッリは即座にステアリングを右に切り、ピットレーン入り口に飛び込んだ。

 そしてピットレーン入り口のコーナーを曲がり切ったところで「BOX!(ピットインだ!)」という指示がアントネッリに飛ぶ。つまりアントネッリは、チームの指示よりも先にピットに入る選択をしたのだ。

 アントネッリはまだF1デビューして2年目の20歳。おそるべき決断力である。

 ただアントネッリは「BOX!」の指示には返答せず。ボニントンは心配になったのか、再度「BOXだ!」と無線で指示する。これにアントネッリは「あー、わかってるよ!」と返答した。

 なおこのシーンは、F1 TVで配信されているオンボード映像+無線交信で確認することができる。ご覧になれる方は、ぜひお試しいただきたい。

 確かにノリスに比べれば幸運な部分もある。しかしアントネッリは自らの判断でピットに飛び込んだ……まさにこの判断により、勝利を掴むことができたと言えるだろう。チームとの信頼関係があったからできた判断であるのは間違いない。その信頼関係がなければ「タイヤって用意されてるのかな?」と不安になり、判断を躊躇する隙が生じたかもしれない。もちろん、先にボニントンからの「SCウインドウだよ」という無線交信があったことも、この決断の後押しとなっただろう。

 なお、もしアントネッリが自ら「ピットインする!」という判断を下さなければ、勝ったのはおそらくフェルスタッペンだったはずだ。

 まだまだレース数は残っているため、確実だとまでは言えない。しかし、この判断で、今季のチャンピオン獲得の可能性をグッと高めたのは間違いない。そしてアントネッリとそのチームには、今やつけ入る隙はなさそうだ。

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