【伝説のモナコGP】もっとダウンフォースを! 難攻不落のモナコで登場した”ビックリドッキリ”アイデア
狭く、曲がりくねったモンテカルロ市街地コースで開催されるF1モナコGP。ここを攻略するためには、他のサーキットとは異なる能力……つまり多くのダウンフォースと俊敏性が必要だ。チームはこれまで、アドバンテージを築こうと、様々な解決策を投入してきた。
今年も、モナコGPが開催される時期がやってきた。木曜日にフリー走行を行ない、金曜日は走行が行なわないという伝統的なスケジュールは崩れ、他のグランプリと同じく金曜~日曜の3日間開催とはなるが、今年で79回目を数える伝統あるレースだ。
舞台は狭く、曲がりくねった難攻不落のモンテカルロ市街地コース。2022年のF1マシンはグラウンドエフェクト・カーとなり、マシンの特性が一変。低速域は苦手なマシンだと考えられているが、予算制限の影響もあって、チームが何らかのスペシャル・アイデアを持ち込むのは難しいかもしれない。
しかし過去にはカレンダーの中でも唯一無二のこのコースでパフォーマンスを見出すため、チームがクレイジーなアイデア、印象的なパーツを投入してきた歴史がある。
本稿では、そうしたアイデアの一部を紹介していこう。
1969年 サスペンションに直接取り付け! ギロチン・ウイング
Bruce McLaren, McLaren M7C Ford
Photo by: Motorsport Images
1969年のモナコGPに持ち込まれたマクラーレンM7Cには”ギロチン・ウイング”と呼ばれた巨大なウイングが取り付けられていた。これは、ウイングが前後2枚取り付けられているだけでなく、ステーが直接サスペンションアームに取り付けられていて、タイヤにしっかりと荷重をかけるものの、不安定さも兼ね備えていた。例えばウイングが外れてしまったならば、一気にタイヤの荷重が抜けてしまい、大事故につながる可能性もあったのだ。このモナコでは5位に入ったものの、FIAは後に使用を禁止することになった。
Jean-Pierre Beltoise's Matra MS80 Ford.
Photo by: Motorsport Images
マトラMS80には、フロントマウントのギロチンウイングは搭載されず、ハイマウントのリヤウイングのみが取り付けられた。フロントウイングは、通常よりも幅広いモノが取り付けられたが、それほどの効果は発揮しなかった。
Jack Brabham, Brabham BT26A Ford
Photo by: Motorsport Images
ジャック・ブラバムがステアリングを握る、BT26。このマシンにも、前後にギロチンウイングが取り付けられた。
Chris Amon, Ferrari 312
Photo by: David Phipps
フェラーリが搭載したハイマウントのリヤウイングは、なんと角度を調整し、ストレートで空気抵抗を減らすことができた。つまり、現在のDRSと同じ効果を狙っているのだ。まさに時代の先取りと言えよう。
1974年 マクラーレンM23のモナコ専用フロントノーズ「ウインクルピッカー」
McLaren M23 front wing, Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
マクラーレンは、フロントエンドのダウンフォースを手にするために、モナコGPに”ウインクルピッカー”と呼ばれるノーズを投入した(通常のノーズの幅は、青い点線で示されている)。ノーズが細くなれば、必然的にウイングの面積が増え、多くのダウンフォースを発生させる。またフロントウイングの翼端版には、小さなタブが取り付けられていた。これによりドライバーたちは、ウイングの幅をコクピットから確認することができた。
1976年 マクラーレンM23の”マル秘”ローマウントウイング
A mechanic works on the rear of the car of Jochen Mass, McLaren M23 Ford
Photo by: Motorsport Images
1976年のマクラーレンは、ダウンフォースを増やすための試みとして、低い位置にリヤウイングを追加してきた。まるで今のディフューザーのようなモノだ。このデバイスは最近まで知られていなかったが、Motorsport Imagesのアーカイブを検証していた際、偶然発見されたモノだ。
1979年 フェラーリ・312T4の特別ウイング
Ferrari 312T4, 3/4 view, Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
フェラーリは、特別仕様のフロントウイングとリヤウイングをモナコに持ち込んだ。どちらも低速域で、ボディワークとの相互作用として機能するよう設計されており、ダウンフォースとマシンの俊敏性が向上した。
1980年 ショートホイールベース化の荒業! フェラーリ・312T5
Ferrari 312T5 wings setup, Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
翌年のフェラーリは、フロントアクスルを後退。ホイールベースを短くすることで、狭く曲がりくねったコースに対応することを目指した。
Jordan 196 extra wing Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
1996年のジョーダンは、前年マクラーレンが使っていたミッドウイングに似たウイングを、エンジンカウルの上に取り付けてきた。このウイングは、それ自体でダウンフォースを発生するだけでなく、リヤウイングに向かう気流を整えるのにも役立った。
1997年 ティレル・025のXウイング
Mika Salo, Tyrrell 025 Ford
Photo by: Ercole Colombo
ティレルが使ったことで有名になったXウイング。これは実際にはサンマリノGPで初投入されたモノであり、モナコ用のデバイスではない。しかしそれでも、ストリートコースで効果を発揮した。
1999年 フェラーリ・F399のモナコ仕様フラップ
Ferrari F399 sidepod winglet and rear wing differences (high & low downforce)
Photo by: Giorgio Piola
1999年のフェラーリは、リヤウイングのフラップの配置を変更することで、ダウンフォースを増やそうとしてきた。黄色で示されているのがそのフラップで、右側がモナコ仕様である。通常と比べてフラップが2枚増え、メインプレーンはより前方に移動するなどしている。
2001年 ジョーダン・EJ11のウイングステー
Jordan EJ11 nose wing, Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
ジョーダンは2001年用マシンEJ11で、コクピット前方にウイングを立ててきた。これも、ミッドウイングと同じような効果を狙ったモノだろう。当時はこのステーがドライバーの視界を妨げるとして、予選までに使用禁止が決定。しかし今考えれば、ハロのステーとほぼ同じ位置であり、ドライバーの視界を妨げることはなかったかもしれない。
2001年 アロウズ・A22のミニウイング
Arrows A22 front view, Monaco GP
Photo by: Giorgio Piola
同年、アロウズも同様に、”普通じゃない”解決策を登場させ、物議を生んだ。そして結果的には、アロウズはこのデバイスを作った第一人者ではなかったこともあり、スチュワードはレーススタート前に使用を禁止することになった。
番外編:1996年マクラーレンMP4/11B クルサード、雨のモナコでヘルメットをシューマッハーに借りる
David Coulthard, McLaren MP4/11B, wearing Michael Schumacher's spare helmet
Photo by: Sutton Images
マクラーレンは、1996年モナコGPにショートホイールベース化されたBスペックマシンを投入した。空力性能の改善に成功したシーズン中盤以降は、このスペシャル仕様のマシンが主戦マシンに昇格するという珍しいケースだった。
エンジンカウルには、前年マシンであるMP4/10のようにセンターウイングが搭載されている。
注目すべきは、この写真でドライブしているデビッド・クルサードのヘルメットだ。デザインを見て、これが当時フェラーリに所属していたミハエル・シューマッハーのヘルメットだと分かった人はお見事!
この年のモナコは雨に見舞われ、クルサードはウォームアップからバイザーの曇りに苦しみ、シューマッハーにスペアヘルメットを借りてレースを戦ったのだ。現代ではあまり実現しないであろう、モナコの歴史の1ページだ。
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