F1メカ解説|今もポーパシング問題に苦しむメルセデスが、イモラで行なったリヤウイングの”実験”
メルセデスは今季、激しいポーパシングに悩まされ、パフォーマンス面でも苦しめられている。これに対処するため、エミリア・ロマーニャGPのフリー走行では、ある実験を行なっていた。
写真:: Giorgio Piola
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
2014年以来昨シーズンまで、常に優勝を争う存在だったメルセデス。しかしレギュレーションが大きく変更された今シーズンは大いに苦しみ、ここまで優勝争いには加われないでいる。
その最大の原因となっているのが、激しいポーパシング現象である。メルセデスはこれを解決するため、様々な対策を施しているが、今も収まらずに苦しみが続いている。
メルセデスはポーパシングの解消を最優先事項としており、マシンのパフォーマンス向上のためのアップデートを投入することを避けている。そのため、ここまでは気流にわずかな変更を加えることを目的とした小さな調整と、適切なダウンフォース/空気抵抗のレベルを見出すための変更に留めている。この一環としてエミリア・ロマーニャGPのフリー走行1回目では、ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルのマシンのダウンフォースレベルに差をつける実験も行なった。
チームは現在も、新車発表時と同じリヤウイングを使っている。そのためドライバー間の差は、フラップの変更もしくはガーニーフラップを取り付けるか否かという点のみである。
イモラでメルセデスは、2種類のウイングの設定を持ち込み、それぞれを2台のマシンに取り付けた。ハミルトンのマシンは、ガーニーフラップのない、薄いフラップで走行。ラッセルのマシンは、それよりも大きなダウンフォースをつけた状況で走行を開始した。
結局はよりダウンフォースをつけた方が適していると判断されたため、ハミルトンのマシンも予選からは同じダウンフォースレベルでの走行となった。
メルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクターであるアンドリュー・ショブリンは、ウイングの違いは最終的には非常に小さな差しか生まなかったと語った。
「それは僅かな差だった。マシンの挙動を変えるほどではなかったんだ」
そうショブリンは語った。
「ルイスは、ジョージよりも僅かに低いダウンフォースレベルで走った。しかしストレートでの速度差は、僅か2km/h程度の話だ」
Mercedes W13 sidepod canards and SIS comparison
Photo by: Giorgio Piola
メルセデスは、ウイングのダウンフォースレベルを調整するだけでなく、エアフローの改善と冷却性能向上を目的とした空力アップデートをイモラに持ち込んだ。
まずは側面の衝撃吸収構造(SIS)を内包した”フェアリング”の上にとりつけられた、ミラーのハウジングが変更されている。それと同時に、サイドポンツーンの開口部前のカナード(赤い矢印)がそれまでの2つから3つに増やされ、さらにその位置も変更されている。
メルセデスのサイドポンツーンは、前例のないほど小さいモノになっており、開口部も細くなっている。このカナードは、そんなサイドポンツーン開口部に向かう気流を増やし、冷却性能を上げることを目指したモノだと考えられる。また、サイドポンツーン周辺の気流調整にも役立てられているだろう。
SISフェアリングの形状変更は、実に微妙ではあるものの、前端がかなり薄くなっている。これによってリヤビューミラーのステー(青い矢印)を前方に移動させることできる。一方薄くなることで不足する強度を増強するため、金属製のパーツも付け加えられている。ミラーのステー(黒い矢印)にも変更されている。
Mercedes W13 Floor comparison
メルセデスは、さらにふたつの変更も加えている。ひとつはフロア後端の形状、もうひとつはリヤブレーキダクト下部のディフレクターである。
これらの部分には、タイヤのサイドウォールで発生する後方乱気流などを整える役割がある。またジオメトリを変更することで、タイヤが変形した時の空力特性にも影響を与える。
写真を見ても分かる通り、新しい仕様のフロアは、後端が激しく上向きに曲げられている(黄色の点線で示した部分)。これにより、気流が向かう方向を整えているものと考えられる。
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