F1 スペインGP
アウディF1が5年以内にF1で勝つために必要なコト。プロジェクト主任が示す組織の課題……フェラーリ黄金期がヒントに
2026年からF1に新規参戦を果たすアウディのF1プロジェクトを率いるマッティア・ビノットが、グランプリ勝利に必要な全てを語った。
Benjamin Vinel Franco Nugnes
公開日時: 2025/06/04 3:15
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写真:: Audi Communications Motorsport
かつてフェラーリを率いたマッティア・ビノットがザウバーに最高執行責任者(COO)兼最高技術責任者(CTO)として加わってから10ヵ月が経った。そしてチームがアウディブランドに染まる2026年まではあと半年だ。
名将ペーター・ザウバーが立ち上げたスイス・ヒンウィルのザウバーは、1993年のF1初参戦から名前や姿を変えてグリッドに留まってきたが、2012年の日本GPで小林可夢偉が3位表彰台に上がって以降、つまり250戦以上トップ3から遠のいている。
ブランドとして初めてF1に挑戦するアウディは、苦しむ母体チームと共にグリッドの先頭まで上り詰めることが容易ではないということを理解している。
予算制限レギュレーションと空力テスト制限が設けられていることを考えると、2025年のうちに、ザウバーが飛躍的な進化を示すということは難しい。そのため、苦戦を強いられることが予想される2025年はある程度割り切り、新レギュレーション導入により勢力図に変化が訪れる可能性がある2026年にリソースを割くというのは明白な決断だった。
しかしニコ・ヒュルケンベルグがオーストラリアGPで7位入賞を果たし、スペインGPでは殊勝の5位に入ったように、2025年が完全に無意味というわけではない。オペレーションという面では、2026年に向けて改善できることもある。
「できれば成長の年にしたい」
5月初頭に“アウディの”F1プロジェクト主任として、全体的な指揮を取ることとなったビノットはmotorsport.comに対してそう語った。
「コンストラクターズランキングの順位は、全てのレースでポイントを争うほど重要ではないと思う。結果において一貫性を見出す必要があり、それが大きな飛躍になるだろう」
フェラーリ黄金期のような足場固め
アウディのF1における成功目標は5年。つまり、2030年にタイトル争いに加わるということだ。
こうした長期的目標を設定してはゴールをずらすF1チームも珍しくない。アルピーヌは2021年に、野心的な“100レース計画”を打ち立てたが、その後撤回。今はチームを率いるフラビオ・ブリアトーレが2027年のタイトル争いを期待している。
Nico Hülkenberg at Audi
Photo by: Audi AG
2000年代後半のBMW時代以降、基本的には中団や下位を走ってきたザウバーがこれほど野心的だったことはない。そのためビノットはまず、「アウディとの目標」をチーム全体が共有することが合理的だと考えている。こうした計画は、チームが地力をつけていく上で必要な基盤を築くため、十分な時間を確保するというメリットもある。
ビノットが参考にしているのは、2000年代前半に5年連続ドライバーズチャンピオン、6度のコンストラクターズチャンピオンに輝いたジャン・トッド率いる黄金期のフェラーリだ。ビノット自身も、この時代を経験し、その後15年以上マラネロに所属。2019年から2022年にかけてはチーム代表も務めた。
「過去に目を向けると、私はフェラーリに在籍し、ミハエル(シューマッハー)と素晴らしい時代を築いた。しかし、どのチームにも自らを構築する期間が必要だ。ジャン・トッドは1993年にマラネロに着任し、2000年に勝った。強固な基盤を築いた例は彼だけではないと思う」とビノットは示唆した。
「マクラーレンの復活劇を見れば分かる。インフラ、ツール、人材、組織、そして文化に取り組むには時間がかかる」
Gabriel Bortoleto, Sauber
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
「アウディは、独自の個性を持つスイスのチームに、ドイツの文化を導入し、外からの血という重要なニッチを加えようとしている。それらを融合させるのは簡単なことではない」
「文化とは、行動やチームスピリットを指す。時間がかかっても不思議ではない。構築には3年、統合には2年かかるだろう」
カギは3ヵ国を股にかけた人材とインフラ
チームの構築と統合は、これまで異常に密接に絡み合ったふたつの柱、すなわち人材とインフラに基づいて行なわれる。
スイスに拠点を置くザウバーにとって人材は長年の問題。F1の中心地であるイギリスに住む熟練エンジニアの多くは、スイスに移住して生活を一変させることに消極的だ。
ビノットはこれがザウバーを取り巻く問題であることを認識している。
「イギリスで雇用しようとすると、彼らの子どもたちがまだ学校に通っていたり、妻が仕事をしていたり、家を売らなければならなかったり……決して適切なタイミングではないと気がつくのだ」とビノットは言う。
しかし、なぜエンジニアが移住したがらないのか? という問いに対してビノットは「誰がそんなことを言ったのか? 君たちを驚かせるかもしれないが、そんなことはない」と答えた。
「私はスイスが好きだ。生活の質が高く、働くには良い場所だと思うし、治安もいいから家庭にとっても良い。これは(人材獲得における)我々の競争力になると思う」
「もちろん、人材を惹きつけるためには、まずプロジェクトに信頼感がなければならない。アウディという名前だけでは不十分で、具体的な行動も必要であり、我々はそれを実践している」
「(レッドブルから移籍してきたチーム代表の)ジョナサン・ウィートリーや、今後発表するスポンサーがその一例だ。もうひとつは、必要な資金を保証するカタール系ファンドによる投資だ。若いガブリエル(ボルトレト)を含む新しいドライバーコンビで今年はスタートした。もうすぐ新しい採用もある」
「1年後にまた会えば『どうやってこれだけの人数を集めたのか?』と、違った質問になると確信しているよ」
Inaki Rueda, Sporting Director of Stake F1 Team Kick Sauber and Jonathan Wheatley, Team Principal of Stake F1 Team Kick Sauber
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
アウディのF1プロジェクトにおける重要な1歩が、イギリスの“モータースポーツの谷”から最高の人材を集めることを目的とした「ザウバー・センター・オブ・テクノロジーUK」の設立だ。
このセンターは、シャシー開発を行なうスイス・ヒンウィルのファクトリーと、パワーユニット(PU)開発を行なうドイツ・ノイブルクの施設を繋ぐ役目を果たす。
ビノット曰く、新しいセンターが「数週間以内に」オープンし、当面は「20名ほど」を雇用し、最初からスイスへ移ることをためらうスタッフにとっての「入口になる」ことを期待している。
そしてヒンウィルでは、施設の近代化のためにやるべきことが山積み。新しいシミュレータも必要だ。
「我々は多くの分野に取り組んでいる。並行して進めなければならない」とビノットは言う。
「我々は拡大する必要がある。我々は新しい施設の建設も考えている。そして社内の製造能力を高める必要がある」
「ヒンウィルを知っている人なら誰でも、現在の敷地を拡張するのは簡単ではないことを知っているはずだ。我々は現在の環境を拡大する必要がある」
アウディは、10年前にホンダが参戦を開始して以来のPUメーカーのひとつ。状況は異なるにせよ、マクラーレン組んだ数年間、ホンダが大いに苦しんだことを考えると、アウディの目の前にそびえ立つ挑戦は巨大であり、参戦当初からグリッド最前線に立つことは考えられない。
しかしビノットはこう断言する。アウディには必要なモノが揃っていると。
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