F1新時代|2022年ホイールカバー復活……かつて一世を風靡したパーツは、なぜ禁止されたのか?

2022年のF1は、新たなテクニカルレギュレーションが導入されるため、マシンの姿が一変すると予想される。そんな中、過去に実在したマシンから想像することができる部分もある。ホイールリムカバーもそのひとつだ。

Brawn BGP 001 front rim cover

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 2022年のF1は、テクニカルレギュレーションが大変更される。これにより、F1マシンは前後のウイングで発生するダウンフォースが減り、マシンのフロア下で発生するダウンフォースの割合が増えることになる。

 この他にも、ホイールが昨年までの13インチから18インチに拡大され、タイヤのサイドウォールが低くなる。これに伴い、ホイールリムにカバーをつけることができるようにもなる。

 ホイールリムのカバーは、これまでにも何度も登場してきたパーツだ。これはホイールとタイヤによって生み出される乱気流を減らすことを目的としたもの。2022年マシンは、後方に発生する乱気流を減らすことで、オーバーテイクしやすくなることが目指されているが、このホイールリムカバーもその一環だ。ただ2022年のホイールリムカバーは、デザインの自由度が低いため、かつて登場したモノとは大きくかけ離れた、実にシンプルな形状のモノになるはずだ。

Ferrari 641 rims detail

Ferrari 641 rims detail

Photo by: Giorgio Piola

 ホイールリムカバーをF1で初めて採用したのは、1990年のフェラーリである。フェラーリは超高速サーキットとして知られるモンツァ・サーキットを舞台に行われたイタリアGPの予選でこれを装着したのだった。

 ただブレーキング時に発生する熱を逃すことができず、ブレーキがオーバーヒート。レース距離で使うのは難しかった。またタイヤを交換する作業も、カバーがあることで難しかったのだ。


Ferrari 248 F1 rear rims detail

Ferrari 248 F1 rear rims detail

Photo by: Giorgio Piola

Ferrari 248 F1 rims detail

Ferrari 248 F1 rims detail

Photo by: Giorgio Piola

 それからしばらくの間は、F1でホイールカバーを取り付けるチームはなかった。そして2006年、再びフェラーリがホイールカバーをマシンに取り付けてきた。

 同年のフェラーリ248F1は、ルノーR26と激しくタイトルを争った。そんな中、フェラーリはリヤホイールのリムに、輪っかのようなカバーを取り付けてきたのだ。これはホイールの回転に応じて、回転するシンプルなモノであり、後にカバーの面積が増え、ホイールリムのナット部分以外は全て覆われる形となった。

 このアイデアは、トヨタやトロロッソなどが踏襲。2006年のシーズン中にはこのデザインに抗議していたルノーも、2007年に独自のデザインのホイールリムカバーを登場させた。


Ferrari F2007 front rim detail

Ferrari F2007 front rim detail

Photo by: Giorgio Piola

Ferrari F2007 front rim detail

Ferrari F2007 front rim detail

Photo by: Giorgio Piola

 フェラーリはこれをさらに進化させ、2007年のイギリスGPでホイールと共に回転しないホイールリムカバーを登場させた。しかも前年までのようにリヤではなく、フロントにカバーを装着してきたのだ。これは、ブレーキダクトで取り入れた空気を再利用するという点で、新たな考え方をもたらした。

 この革新的なホイールリムカバーは、後部下端に開口部が設けられ、ブレーキダクトで取り入れた空気をここから吹き出すことで、タイヤの後方に発生する乱気流を制御しようとしたのだ。

 これは実に複雑なシステムであり、カバーの内部には空気を導くためにいくつかのコンポーネントが組み込まれていた。またこのホイールを装着できるようにするために、車軸やホイールナット、ホイールガンまでが特注品だったのだ。

 また当初はシンプルな形状だったが、シーズン途中でカバー上部に小さなガイドベインを取り付け、気流をより効果的に誘導できるようにした。

McLaren MP4-23 rim duct comparison

McLaren MP4-23 rim duct comparison

Photo by: Giorgio Piola

 このソリューションは徐々にトレンドとなり、各チームも積極的に取り入れていった。2008年のマクラーレンのように開口部を前方に寄せたり、BMWザウバーのように中央部に設けられるモノもあった。また同年のホンダは、開口部こそ後端だったが、前方は3D形状になり、ディフレクター状になっていた。またトヨタはリヤのカバーに工夫をこらし、プロペラ状にした。

Ferrari F60 rim duct detail

Ferrari F60 rim duct detail

Photo by: Giorgio Piola

 2009年にはF1のテクニカルレギュレーションが大変更され、マシンの空力パーツはシンプルなモノとなった。ただホイールカバーを引き続き使うことができ、より複雑な形状となっていった。

 フェラーリは開口部を前方に移動すると共に、その上方にはディフレクターを追加。フォースインディアは、大きなディフレクターが前方に突き出すレイアウトだった。同年シーズンを席巻したブラウンGPは、形状こそシンプルだったが、開口部は非常に大きいモノとなった。

Ferrari F10 rim detail

Ferrari F10 rim detail

Photo by: Giorgio Piola

 しかし2010年以降、このホイールカバーの使用が禁止されることになった。前述の通り、回転するホイールに取り付けるにも関わらず、カバーは動かないという非常に複雑な構造であり、開発コストは甚大だった。当時は各チームのコスト抑制が考え始められていた時期であり、その状況下ではあまりにも贅沢すぎるソリューションだったと言えよう。

 そんな中でもフェラーリは、スポークに2本の輪を取り付け、気流のコントロールをしようとした。ホイールはホモロゲーションパーツであるため、これが登場した時には、ライバルチームはすでにコピーすることができなかった。

George Russell, Mercedes W10 mule

George Russell, Mercedes W10 mule

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 上の写真は、2021年シーズン終了直後にアブダビのヤス・マリーナ・サーキットを走った、2022年仕様ホイールをテストするためのミュールカーだ。このミュールカーが履くホイールにも、カバーが取り付けられている。

 このカバーは標準パーツ化される予定になっており、タイヤ交換時にメカニックがホイールを持ち上げやすいように、リム部分に段差がつけられている。また、ホイールカバーに様々な情報を掲示できるように、LEDのライトパネルを搭載することについても、検討が進められているのだ。

 2022年のF1は、マシンの形状が大きく変わり、さらにホイールが大径化、そしてそこにホイールカバーが取り付けられる……これまでのF1とは、全く異なる姿形となるだろう。

 
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