メルセデスの新しい武器は”AMDのCPU”! 空力開発の制限と予算制限で新たな競争領域に?
F1は近年、全チームが公平に競争できるようなルールを導入するために多大な努力を払ってきた。その結果、これまでには見られなかった分野での競争が生まれている。
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
F1は近年、予算制限に加えて空力開発に制限が設けられており、チームの規模に関わらず平等に競争ができるようにルールを整えてきた。
かつては資金力のあるチームがより大規模で、より良い開発を行なうために好きなだけリソースを投入しており、勢力図に変化が起きることはほぼなかった。
しかし、2021年から予算制限が導入。各チームがかけられる予算が厳しく制限されるようになった。ビッグチームにとっては、支出を1億4000万ドル(約179億円)に収めるのが精一杯な状況だ。
予算上限に加えて、もうひとつの重要な変化は、パフォーマンスに応じた空力開発制限が導入されたことだ。
この制度はコンストラクターズランキングの順位に応じて、風洞での試験やCFD(コンピュータ流体解析)を実行できる時間が変動するというハンディキャップ制となっている。
これらのルールが複合的に作用することで、小規模なチームにもチャンスがもたらされるはずだ。
一方でビッグチームにはこれまでとは全く異なるアプローチが求められるようになった。お金をかけて問題を解決するのではなく、できるだけ効率的に、最大の利益を追求する必要があるのだ。
そうしたルール変更の影響は、各チームがアップグレード投入を制限していることで、すでにファンの目に見えるような形で現れている。新しいパーツを見境なく持ち込むのではなく、どのように開発を進めるのか戦略的に考えているのだ。
そうした環境の中で、チームがパフォーマンスを向上させていくために行なった変更を詳しく調べてみると、チームが使用しているコンピュータチップに関する、興味深い結果が出ている。
先日発表されたレポートによると、2020年にメルセデスがコンピュータ・プロセッサーをAMD製のチップに変更したことで、CFDの性能が20%向上したことが明らかになった。
メルセデスは2021年に控える予算上限と空力開発制限の導入を前に、過去3年半にわたって使用してきたシステムよりも、価格と性能のバランスに優れたAMDの第2世代EPYCプロセッサーに移行することを決断した。
その結果、チームはCFDの作業量を半分に減らすことができ、通常チップの進化で得られる1~2%の改善よりもはるかに大きな利益を得ることができたようだ。
AMD EPYC 7003 Series Processor
Photo by: AMD
メルセデスの空力開発ソフトウェア責任者であるサイモン・ウィリアムズは、CFDにかかる費用が予算制限の中に含まれる以上、いくつか大きな決定をしなければならず、それが第2世代EPYCプロセッサーを採用した理由であると述べた。
「新しいレギュレーションが導入され、システムを一新することになった」
「性能は、意思決定の重要な要素だった。AMDと他の競合他社を比較したんだ。ベンチマークを行なう際は、CFDでの能力が重要だった。そのハードウェアを3年間使用することになるため、正しく理解する必要があったんだ」
「もうひとつの要素は我々の敷地内にハードウェアがあり、それがデータセンター全体を占有するようなことになってしまったら、選択肢から外れるということだ。EPYCは、我々が必要とする性能と省スペースを実現するフロントランナーだったのだ」
ウィリアムズは、レギュレーションの細かい変更も決断を後押しした理由のひとつだったと説明する。
「風洞とCFDを実施できる時間は、以前は共通の数値で規制されていたため、風洞とCFDのどちらかに偏る可能性があった」
「3つ目の要素は、チャンピオンシップの成績に応じて空力開発の時間が変わることだ。我々はそれを最大限活用しようとしているんだ」
ウィリアムズは、20%の性能向上が印象的だったと同時に、ダウンタイムがないことも重要な要素だったという。
「新しいシステムのおかげで、空力開発に集中できるようになった」
「信頼性についても素晴らしいものがある。数時間でもロスしたら大変なことになるから、こうしたシステムは堅牢で信頼性が高いことが重要だ。EPYCはこれを実現している」
「最初のアイデアから、CFD、風洞でのテスト、そして実車への搭載までのタイムスケールは非常に短いものだ。それは数週間単位だ。それを1年以上にわたって一貫して提供できたことが鍵になっている」
2022年シーズンこれまで、レッドブルとフェラーリの後塵を拝しているメルセデス。新しい武器を有効活用し、なんとかパフォーマンスを上げていきたいところだ。
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