悪名高き2006年モナコGPから20年。「シューマッハーが何度か見せた短絡的な行動のひとつ」と言われる“ラスカス駐車事件”
ミハエル・シューマッハーがF1モナコGPの予選で“駐車”をしてから20年が経った。この一件は今でも物議を醸す瞬間としてファンの記憶に残っている。
ミハエル・シューマッハーのF1キャリアは、その卓越したレーステクニック、そして打ち立てた記録の数々によって、伝説的なものとなっている。一方で彼は物議を醸した行為もいくつか犯したが、そのひとつが今から20年前に行なわれたF1モナコGP予選の一件であった。
2006年のモナコGPを前にして、フェラーリのシューマッハーはルノーのフェルナンド・アロンソに対して15点のビハインドを背負っていた。当時は優勝が10ポイントの時代であり、15点差は決して小さいものではなかった。
モナコGPでもアロンソは好調。フリー走行では2セッションでトップタイムをマークし、シューマッハーを上回っていた。迎えた予選でもQ1、Q2ともにマクラーレンのキミ・ライコネンが最速タイムをマークする一方で、シューマッハーはそれぞれ13番手、5番手。Q3に進んだとはいえ、予選順位が極めて重要なモナコで厳しいレースを強いられそうな状況であった。
しかしQ3前半のアタックでは、ライコネンが1分14秒140であったのに対し、シューマッハーは1分13秒898をマークしてトップに。アロンソもこれに届かず、1分13秒980というタイムにとどまった。
タイヤを交換後、各車は最後のフライングラップに向かっていった。ただシューマッハーのタイムはセクター3に入る時点でプラス表示。そして彼は低速コーナーのラスカスを曲がりきれず、ガードレールの数センチ手前で停止した。その結果イエローフラッグが出され、後続のアロンソは減速を強いられ、シューマッハーのタイムを更新することができなかった。
予選後の記者会見で、シューマッハーはこう振り返っている。
「最初の走行は良かったけど、完璧ではなかった。それで(2回目のアタックでも)セクタータイムを見ると、ほぼ同じような感じだった」
Fernando Alonso, Renault, Michael Schumacher, Ferrari
Photo by: Charles Coates / LAT Images via Getty Images
「残念なことに、少し行き過ぎてしまった。ラスカスと呼ばれる最後からふたつ目のコーナーでフロントをロックさせてしまい、膨らんでしまった。それから何が起きたのかは分かっていなかった。誰がどこを走っているかも知らなかったからだ」
「それから、チームに確認して『どういう状況なんだ、僕らは何位なんだ?』と尋ねた。このポジションにいるなんてとは思わなかったからね。それで1位だと言われて……もちろん嬉しかった」
しかしこの発言は、記者たちを納得させるものではなく、シューマッハーはこの件について厳しく追及された。しかし本人は「不正はしていない。そういうことを聞かれるのは辛い」と反論した。
「最後のコーナーに向けて行き過ぎてしまったんだ。僕がトップなのは知らなかったし、あのラップではかなりプッシュしていた」
「勢いよくコーナーに進入して、フロントがロックして膨らんだ。チームに順位を確認したら、1位だと言われた」
「最初はエンジンがかかっていたけど、トラフィックのせいでリバースに入れて後退することができなかった。後ろからクルマが来ているのは分かっていたし、よく見えなかったからどのタイミングでコースに復帰すればいいか判断できなかった。そしたらエンジンが止まってしまった」
「どういう状況であっても、敵側はそういう見方をするし、味方は逆の味方をするものだ」
このシューマッハーの動きはパドック、特にライバルのルノーから懐疑的な見方をされるようになる。ルノーのチーム代表だったフラビオ・ブリアトーレは当時、憤慨してこう語っていた。
「バリアにぶつかったわけじゃない。彼はただマシンを停車させただけだ。信じられない」
Flavio Briatore, Renault
Photo by: Dominique Faget / AFP via Getty Images
「なぜあんなことをする必要があったのか分からない。皆を騙しているんじゃないか。7度のワールドチャンピオンが“わざとじゃない”と言うのを信じろというのか? そんなの通用しない」
8時間に及ぶ審議の末、スチュワードはシューマッハーを予選失格とした。これには、フェラーリのチーム代表だったジャン・トッドが激怒した。
「これには全く同意できない」とトッド。
「このような裁定は非常に危険な前例を作る。ドライバーのミスという可能性を排除してしまうからだ」
「ミハエルは最終アタック中で、ポールポジションを確実なものにしようとしていた。最初のセクタータイムが最速だったことからもそれは明らかだ」
「決定的な証拠もないまま、スチュワードは彼を有罪と決めつけたんだ」
シューマッハーは公の場で罪を認めることはなかったが、2020年にスカイ・スポーツが公開したドキュメンタリー『The Race To Perfection』で新事実が発覚した。
当時シューマッハーのチームメイトであったフェリペ・マッサは、次のように証言した。
「予選についてチームでミーティングをしていた」
「予選(Q3)ではタイヤが2セット使えた。ミハエルが『最初から速ければ、2セット目を入れる前に……』というようなことを言うと、(テクニカルディレクターの)ロス・ブラウンが『イエローを出せるかもな』と言ったんだ。僕は『冗談でね。本気じゃなくて、冗談で』と続けた」
Michael Schumacher, Ferrari
Photo by: Sutton Images via Getty Images
「でも実際に、その通りのことが起きた。ミハエルはその冗談を実行に移したんだ」
「予選の後、僕は『まさか本当にやるとは思わなかった』と言ったのを覚えている。でも、彼はそれをやったと認めることができなかった」
マッサはさらにこう続ける
「彼が故意にやったことを僕に打ち明けるまで1年かかった。僕は『どうしてそんなことをしたんだ?』って聞いたよ」
「人は誰でも間違いを犯すということだ。そしてこの一件は、間違いなく失態だった」
ドキュメンタリーの中では、ブラウンもこのことについて語っている。
「ミハエルには時折、理屈では説明できない行動があった。彼は圧倒的な競争心を持っていて、それが彼を突き動かしていた。そして時に、それが短絡的な行動に繋がることがあった」
「モナコでのポールポジションは普通なら誰もが欲しがるものだ。でもあの時は戦略やタイヤ、マシンの状況を考えれば、実は必要なかった。ただの愚かな行動だった。彼のキャリアの中で2〜3回あった、思考のショートのひとつだ」
なお、レースではアロンソが圧勝。シューマッハーは最後尾から追い上げるも、5位となった。その後両者のポイント差は最大25点まで広がったが、シューマッハーの猛追により残り2戦で同点に。しかし最終的にはアロンソが2年連続でタイトルを獲得した。
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