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突如舞い込んだ1日限りのチャンス。ぶっつけ本番のF1ドライブで佐藤公哉に課された「大事なミッション」【F1“テスト”経験者の追憶】

F1参戦こそ叶わなかったものの、テストドライブなどでF1を経験した日本人ドライバーは数多くいる。今回はザウバーからF1テストに参加した経験を持つ佐藤公哉に当時を振り返ってもらった。

Kimiya Sato, Sauber

 F1ではこれまで、18人の日本人ドライバーが本戦に出場し、その内10人のドライバーがフル参戦を果たした。現在アルファタウリから参戦している角田裕毅もそのひとりだ。その一方で、F1グランプリへの出走こそ叶わなかったものの、フリー走行などの公式セッションやテストなどでF1マシンをドライブした日本人ドライバーも多くいる。

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 現在はスーパーGTなどで活躍する佐藤公哉も、かつてはヨーロッパでシングルシーターのキャリアを積み、F1テストまでたどり着いた経験を持つ。そんな彼のキャリアパスは他の日本人ドライバーとは一線を画している。

 佐藤が4輪(シングルシーター)デビューを果たしたのはイギリスだった。2006年からフォーミュラBMWに2年間参戦し、2007年はランキング4位となったが(チャンピオンはマーカス・エリクソン)、翌年からは日本に帰国。フォーミュラ・チャレンジ・ジャパンを経て全日本F3にステップアップした。

「F3に出るからにはマカオGPに出たい」という思いがあった佐藤は、当時所属していたノバ・エンジニアリングの紹介でモトパークと知り合い、2010年のマカオF3に出走。この縁が、翌2011年からのヨーロッパ再挑戦に繋がる。

モトパークからF3に参戦

モトパークからF3に参戦

Photo by: Drew Gibson / Motorsport Images

 モトパークから2011年はF3ユーロシリーズ、2012年はドイツF3に参戦した佐藤は、2013年からユーロノヴァ・レーシングからAutoGPに参戦することになるが、この年が彼にとってのターニングポイントとなる。

 AutoGPとは、ユーロF3000の流れを汲むシングルシーターの選手権で、車両は2005年から2009年にかけて行なわれていた“国別対抗戦”『A1グランプリ』で使用されていたローラのシャシーに空力のアップデートを加え、ザイテック製3.4Lエンジンを搭載したもの。型落ちながらも、F3車両よりもダウンフォース量やパワーで勝るパッケージだった。

 そんなAutoGPで佐藤は、開幕のモンツァラウンドから好成績を残しタイトル争いに加わることになる。この頃から、F1チームが佐藤に関心を寄せるようになったという。

「AutoGPの開幕戦、どしゃ降りとなった第2レースで優勝することができました。これは僕が直接聞いた話ではありませんが、この優勝をきっかけに、当時のフォースインディアやザウバーからコンタクトがあった、という話がありました」

 佐藤はそう振り返る。

「本当かは分からないですけどね(笑)。そんな話もあったよ、という感じでしたが、そこからすぐF1に乗るということに直結することはありませんでした」

 しかし夏頃になって、佐藤にザウバーから正式なオファーが舞い込むことになる。

「(6月末の)イギリスGPでピレリのタイヤがバーストしまくったんですね。それを受けてシーズン中にタイヤのキャラクターを変えるという話になり、シルバーストンでタイヤテストを兼ねたルーキーテストをやるということで、(テスト参加の)話が急に舞い込んできました」

「3日間のテストの3日目に1日を通して乗れるかもしれないということでした。もちろんたくさんの方の応援がありましたが、話が転がって来てからは動きが早く、1ヵ月以内でバタバタと話が進み、乗れることになりました」

 

Photo by: Andre Vor / Sutton Images

 佐藤曰く、話が急ピッチで進んでいったこともあり、テストに向けては事前の準備が十分にできなかったという。現在はテスト前には当たり前に行なわれるシミュレータでの予行演習もできず、文字通り“ぶっつけ本番”でF1マシンを初ドライブすることになった。

「あまりに時間がなさすぎて、テスト2日目の午後くらいにシルバーストンサーキットに入り、いきなりステアリングの実物を見せられ、電話帳みたいに分厚いステアリングマニュアルを渡されて『これ見て勉強しといて』って。いやいや、無茶言うなよって……(笑)。そんな感じだったのを覚えています。懐かしいですね」

 

Photo by: Andre Vor / Sutton Images

 そんな中で、1日限りのテストに臨んだ佐藤。最新モデルのザウバーC32を走らせたが、初めてのF1マシンの驚きを次のように語る。

「速度域もダウンフォースも驚きでしたね。2013年はブロウンディフューザー(排気ガスを活用してダウンフォースを増やす機構)があり、コーナー出口でアクセルを踏めばもっとダウンフォースが増えるようになっていました。僕も『コーナー曲がり切る前からアクセル全開で踏め!』とだけ言われていました」

「当時のAutoGPの車両はダウンフォースもパワーもありましたが、昔ながらの車なのでハンドルが重く、“漢のフォーミュラ”みたいなところがありました。F1はパワステがあったので、ハンドルだけ妙に軽いのに、首と背中だけむっちゃしんどいみたいな(笑)」

「その辺もシミュレータなどで対策できていれば、もっと良いテストができていたかなと思いますが、良い経験になりましたし、かけがえのない経験でした。今考えるとなかなか無茶なテストでしたが……(苦笑)」

 準備不足の中で迎えたテストだったため、限界まで攻めた走りはできなかったものの、ハードタイヤでのロングランを中心に上々の評価を得ていたという佐藤。目標とするF1シート獲得に向けて、この日は大事なミッションを抱えていた。それは1日で300kmを走破し、スーパーライセンスの発給要件のひとつをクリアするということだった。

「当時はスーパーライセンスの複雑なルールがなく、とりあえず(現行F1マシンで)300km走って、AutoGPなどのカテゴリーで成績を残せばスーパーライセンスの話ができたんです。それで僕は300km走って、それでスーパーライセンス取れちゃったんです」

 かくしてスーパーライセンスを取得した佐藤は、同年の日本GPにザウバーのリザーブドライバーとして帯同。その後イタリアのバイラーノでのストレートラインテストにも参加したが、結果的にはレースシートやリザーブドライバーのポストを獲得するには至らなかった。

「何せ僕はメーカーのバックアップなしだったので、良くも悪くも“素っ裸”のような状態でした。結果的にチャンスのあったシートも他のドライバーに取られてしまい、尻すぼみ的にしれっと話がなくなってしまいました」

「やっぱり莫大な資金が必要だったと思いますし、それを用意できたかと言われると、あまり現実的ではなかったですね」

GP2では苦戦

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Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images

 翌2014年は望みを繋ぐべく、AutoGPに継続参戦しつつGP2にもフル参戦した佐藤だったが、AutoGPではタイトルを獲得した一方でGP2はランキング27位と低迷。2015年以降は日本国内に拠点を移し現在に至る。

 しかし佐藤は、シルバーストンでのF1テストは「かけがえのない経験」だったと振り返る。

「自分がいる業界の最高峰を一瞬だけでも見られて勉強になりましたし、テストとはいえセバスチャン・ベッテル選手やフェリペ・マッサ選手と同じサーキットで走れたことも、今思うとすごいことだと思います。素晴らしい経験をさせてもらったと思っています」

 
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