F1のタイヤ内圧監視強化……各チームは、これまでどんな”トリック”を使っていた可能性があるのか??
ピレリは、アゼルバイジャンGPで起きたタイヤバーストの問題について、タイヤの使い方に問題があった可能性を示唆した。これを受け、フランスGPからは内圧の監視が強化されることになった。ではこれまで、実際にどんなことが行なわれていた可能性があるのだろうか?
A member of the Red Bull Racing team works in the garage
Red Bull Content Pool
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F1アゼルイバイジャンGPの決勝レース中、アストンマーチンのランス・ストロールとレッドブルのマックス・フェルスタッペンは、メインストレート走行中に突如タイヤバーストに見舞われてコントロールを失ってしまい、クラッシュ……これでレースを終えることになった。
ピレリはレース後、これらのタイヤに起きた問題について調査。当初はコース上に落ちていたデブリが原因ではないかと言われていたが、最終的にはデブリの影響や品質に問題があったわけではなく、チームによるタイヤの使用方法に問題があった可能性があると示唆した。
ピレリの声明では、タイヤがバーストを引き起こす可能性がある状況について”一般論”が語られているだけだったが、FIAはすぐさま新たな技術指令(テクニカル・ディレクティブ)を配布。タイヤ内圧の監視を強化することを決めた。この動きを見るに、問題を引き起こしたタイヤは、規定よりも内圧が低かった可能性が疑われているのは明らかだろう。
各F1チームは、なんとかして走行中のグリップを上げる方法を探っている。多くのダウンフォースを得ようとするのも、そのグリップを見つけるための手法のひとつである。
タイヤの内圧を下げるのも、そのための方法のひとつである。内圧が下がればタイヤが見た目上柔らかくなり、その分接地面積も拡大する……つまりグリップ力も向上するのだ。これは以前から各F1チームが追い求めてきたことである。ただ内圧が下がり、タイヤが見た目上柔らかくなるということは、それだけタイヤが変形してしまうということでもある。結果として、タイヤを構成する各パーツの接合部に余計な力が伝わり、その部分からタイヤの破壊に繋がる可能性があるのだ。そのためタイヤの内圧については、これまでも度々問題となってきた。
レッドブルやアストンマーチンが、タイヤの内圧について何か違法なことをしていたという確かな指摘はない。しかしフランスGPから変更される事柄を見れば、アゼルバイジャンGPでのタイヤにどんなことが起きていたのか、その手がかりを知ることができるだろう。
レッドブルはピレリの発表を受け、ルールとピレリの推奨値に従ってタイヤを使っていると反論した。このレッドブルの主張は正しいかもしれないが、問題は規定されているパラメータにはグレーゾーンも存在するという点だ。
これまでは、内圧がチェックされた後でも、チームは推奨値以下までその内圧を下げる……そしてコースを走り、タイヤが温まった後でもその内圧がそれほど高まることのない方法を見つけることができれば、レギュレーションおよびピレリの推奨内圧に準拠しつつ、グリップレベルを上げることができる……そういった余地が残されていた。
FIAがフランスGPを前に配布した技術司令を見れば、各チームがパフォーマンスを向上させるためにどんな”トリック”を使っていたのか、その手がかりを知ることができる。
Stacks of tyres in heated blankets
Photo by: Andrew Hone / Motorsport Images
■タイヤウォーマーの早期取り外し
チームがタイヤの内圧をコントロールする最も簡単な方法は、“温度”を活用することだ。基本的に物質は、温度が上がると膨張するという性質を持っている。タイヤ内部の空気を暖めれば、その空気が膨張し、タイヤの内圧が上がる……この状態で走行前の内圧チェックに合格するのだ。
その後タイヤウォーマーを外してタイヤを冷やすと、内部の空気が収縮し、タイヤの内圧下がる……これによって、レギュレーションを遵守しながらも、マシンから最大限のパフォーマンスを発揮しようとするのだ。
FIAは数年前、タイヤを急激に加熱することでこのような”トリック”を使うことを阻止するべく、タイヤウォーマーで温めることができる温度に制限を加えた。しかしそれでも、一部のチームはタイヤの加熱の面で限界に挑戦し、そしてマシンがコースに向かうまでにできるだけ冷却するという動きを止めていない。
これを行なうための方法のひとつは、マシンがガレージから出る前に、早々にタイヤウォーマーを取り外してしまうというモノだ。これについてメルセデスのルイス・ハミルトンは、レッドブルがスペインGPの際に行なっていたことを、次のようにモナコGPの際に指摘している。
「たとえば前回のレース(スペインGP)を見ると、予選では全員が、(タイヤ)ウォーマーを着けたままにしておくことになっていた」
そうハミルトンは語る。
「レッドブルはウォーマーを外すことは許されたけど、他の誰もがそれは許されなかった。だから全ての人に対して、それが一貫したモノであることを確実にする必要があると思う」
フランスGPからは、マシンがガレージを出る最終準備が整う前にウォーマーを外すと、タイヤを冷やそうとしていると解釈されるとチームに伝えられている……そのためこのような動きは、許されなくなる。
FIAの技術司令には、次のように記されている。
「まだマシンに装着されていない状態のタイヤからブランケット(タイヤウォーマー)を取り外すこと、マシンに装着されたタイヤからの早すぎるタイミングでブランケットを取り外すこと、そしてブランケットを取り外した状態で正当な理由なくガレージからマシンを発進させるのを遅らせることは、タイヤを冷やす手順としてみなされる」
「チームは、30秒以上の発進の遅れ、または頻繁に発進が遅れた時には、その理由を正当化する必要がある」
Tyre valve
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
■内圧チェックの“余裕”を活用
チームは常に、ピレリによって調整され、そしてFIAが封印したタイヤ内圧計を使用しなければならない。しかし理論的には、この測定値には余裕が持たされている。
チェックが行なわれた際、小さな差異が生じる可能性がある。もしその「小さな不一致」があった場合でも、その後タイヤに空気を再充填することが許されることを、チームも理解している。そのため、限界ギリギリを攻めることについてのデメリットは何もなかった。
しかしFIAの監視は厳しくなり、タイヤが推奨値の範囲外にあるような差は認められないということになった。
「推奨値の制限内でタイヤを使うためにマージンを取るのは、チーム側の責任だ」
FIAはそう技術指令の中で述べている。つまり、タイヤ内圧が基準以下である場合には、タイヤに再度空気を充填することが求められるだけで済むが、大きな差があったり、あるいは定期的に推奨値を外れるなどしていた場合には、スチュワードに報告されることになる。
■タイヤウォーマーの過度な使用
チームがタイヤの内圧、そして温度を管理するにあたっては、タイヤウォーマーの使用が欠かせない。このタイヤウォーマーを早めに取り外すことが制限されると前述したが、逆に過度に使うことについても制限が加えられることになった。
FIAの技術指令では、このタイヤウォーマーを長時間にわたって使うことが制限されるようになった。
フランスGPからは、タイヤウォーマーを使って暖めることができるタイヤは、次のセッションで使う場合のみ……に限定されるのだ。
またチームは、タイヤウォーマーを使って一晩中タイヤを温めるということもできなくなる。一晩かけてじっくりとタイヤを温めておくと、内部までしっかりと熱が入っているため、朝にタイヤウォーマーのスイッチを入れたばかりのチームよりも、良い状態でセッションを迎えることができる。
FIAは、ピレリが許可する時間帯を除いて、タイヤウォーマーの電源を物理的に落としておく必要があると述べている。さらに「使用中には全てのコントロールボックスに温度が表示され、簡単に視認できなければならない」とされている。
A Pirelli technician takes some data readings
Photo by: Andy Hone / Motorsport Images
■特殊ガスの使用
タイヤの空気圧に関する”トリック”を使うもうひとつの方法は、タイヤに充填する空気を特殊なガスに置き換えること、または含水率を変えるというやり方だ。これにより、タイヤ内部の空気が温度によって膨張する”率”を変えるのだ。
ただ今後は、そのような方法は許可されなくなる。
FIAは次のように述べている。
「コース走行中の圧力を下げることを目的とした、充填する気体の組成や水含有量の変更は許可されていない」
「これには、充填する気体の含水量の増加や減少、テクニカル・レギュレーションで使用が許可されていない固体、液体、またが気体の追加が含まれる」
またFIAは、チームが常にテクニカルレギュレーションの第12条5.1項に従わなければならないと、改めて指摘している。当該の項目には、以下の通り記されている。
「すべてのタイヤは製造者が供給した通りの状態で使用されなければならず、切除、溝付けあるいは溶剤や軟化剤の使用は禁止される。これは、ドライ天候用、インターミディエイト、ウェット天候用に適用される」
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