F1スプリント”予選”レース実現へ、越えなければならないいくつかのハードル
F1は土曜日スプリントレースを開催する方向に舵を切った。うまくいけば、今季複数のレースで実験的にこのアイデアが実施されるが、そのためにはまだ越えなければならないハードルがいくつか存在する。

2021年のF1では、土曜日にスプリントレース形式の予選が行なわれることになるかもしれない。これが実現すればF1の新たな形を作り上げる一助となるだろうが、実現に向けては様々な課題もありそうだ。
2月11日に行なわれたF1委員会で、各チームにはスプリントレースの実施について提案がなされた。この案は基本的にはチーム側に受け入れられたものの、そのフォーマットをどうするのかということについては、シーズン開幕前に改めて話し合われることになったようだ。
昨シーズンも、リバースグリッド形式の予選レース導入の可能性が議論されたことがあった。しかしこれはメルセデスが反対したことにより実現せず。ただ今回のスプリントレースについては、全チームが前向きな形で議論に参加したようだ。
委員会終了後にF1とFIAが発表した声明によると、スプリントレースのアイデアについては「幅広い支持」が集まったという。そのため今後の数週間で計画を組み立てることを目指しており、前述の通りシーズン開幕前に最終決定を下すという。
スプリントレースを実現するためには、様々な障壁がある。しかしその中でも最大の障壁は、各チームの承認だ。これについてはほぼ確保できたと考えられるため、あとはその詳細を詰めていくという現実的な作業になる。
スプリントレース形式の予選は、現時点ではカナダ、イタリア、ブラジルの各グランプリで実施することが目指されている。ただ、予選を完全に置き換えるというわけではない。
従来の予選は削除されるわけではなく、金曜日の午後に移動し、スプリントレースのスターティンググリッドを決定することになる。フリー走行は金曜日の午前中に行なわれる1回だけとなり、スプリントレースの結果で、決勝レースのスターティンググリッドが決まる。
しかしチーム側が会議で疑問を呈したのは、スプリントレースの勝者が、どんなステータスを手にするのかということだ。F1の公式記録としては”ポールポジション”になるのか、それともポールシッターの称号は金曜日の予選トップのドライバーに与えられ、スプリントレース勝者は公式の”レース優勝者”に認定されるのかということだ。
それを決めるのが必要なのは、記録のためだけではない。ドライバーの契約は多くの場合、レース結果や勝利数などに基づくことになる。そういう意味では、法的な観点からスプリントレースに勝つことが何を意味するのかということについて、明確な定義が必要なのだ。
またスプリントレースを行なうことによって、タイヤやパーツにどんな影響を及ぼすかということも確認しておく必要がある。
タイヤに関しては、フリー走行が1回だけに減らされるため、これまでよりも単純になるかもしれない。しかしパーツという面では、スプリントレースを行なうことでかかるストレスも間違いなく増えるため、パワーユニットの年間使用可能基数が決まっている今では、難しい状況に陥るかもしれない。
そしてペナルティについても同様だ。例えばあるグランプリで次戦のグリッド降格ペナルティが科された場合、それはスプリントレースにも科されるモノになるのか、それとも日曜日に決勝レースだけが対象になるのか……それも明確にしておく必要がある。
ポイントについても、加算されるのかどうかを決める必要がある。もしスプリントレースでもポイントを獲得できるのであれば、各チームもドライバーも必死に前を目指すことになるはずで、レースにスパイスを付け加える要因となるかもしれない。
スプリントレースの距離は100km程度に設定される予定で、これは通常のレース距離の1/3……つまり勝者には通常のレースの約1/3にあたる8ポイントを付与するのが適当のようにも思える。いずれにせよ、これらの点についても明確化が必要だ。
もうひとつの大きな問題は、どこでこのスプリントレースを行なうべきなのかという点だ。モンツァは比較的オーバーテイクがしやすいため、こういうスプリントレース形式の予選レースが効果的に作用するかもしれない。
インテルラゴスとモントリオールもオーバーテイクがしやすいコースであるものの、昨年は新型コロナウイルスの影響によりグランプリを開催できなかった。もし今年も開催できなかった場合、別のイベントでスプリント予選レースを試すのだろうか。これも明確にしておく必要のあるひとつだ。
スプリントレースが実現すれば、F1の歴史上初めてのことだ。そのため、一部の伝統を重んじるファンや関係者からは異論が噴出する可能性もある。しかし現在語られているような流れで行なわれるのであれば、最速であるモノが勝つべきという基本理念は変えずに済むだろう。これが損なわれる可能性があったからこそ、昨年メルセデスはリバースグリッド方式の予選レースには反論したのだ。
土曜日にスプリントレースを行なうことによって、その週末の様相がどう変化するかということに対しても懸念はある。しかし例えばF3のマカオGPは、今F1で検討されているような予選レースを伝統的に開催してきており、それが何らかの問題を生んだということはない。逆に異なる勝者が誕生するなど、バリエーションをもたらすという良い効果の方が大きいと言えるだろう。
ただ今季限られたレースだけで開催されるということは、もしそれが失敗だったと判断されるのであれば、すぐに実施を取りやめることができるということを意味している。その逆もまた然り。大成功となれば、すぐに他のレースでも実施することができる。
スプリントレースの実現に向けては、全チームがすでに賛同する姿勢を見せており、最大のハードルは越えている。今後数週間でその詳細が明らかになるはずであり、2021年のF1に新たな要素が付け加えられる、その理由を知ることになるだろう。そして何より、今年からF1のCEOに新たに就任したステファノ・ドメニカリの最初の功績だということになるだろう。
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