“好青年”のイメージが呪縛に。それでもノリスは“ありのまま”を貫く

“好青年”というイメージも災いし、ソーシャルメディア上で何度か痛い“火傷”を負ったランド・ノリス。しかし心の芯の部分は揺らいでいない。

“好青年”のイメージが呪縛に。それでもノリスは“ありのまま”を貫く

 2020年は、F1にとって非常に多忙な1年であった。コロナ禍の影響により約5ヵ月で17レースが開催され、パドックにいる誰もが休暇を必要としていた。しかし未だパンデミックは続いており、多くの国で渡航制限、入国制限がかけられている。ドライバーにとってもなかなか羽を伸ばすことができない状況なのだ。

 そんな中でも、一部のドライバーはどうにかオフシーズンに束の間の休暇を取り入れた。シャルル・ルクレール、ランド・ノリス、ピエール・ガスリーは最近、ドバイで時を過ごした。皮肉にもその3人全員が後に新型コロナウイルス陽性となるのだが。

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 ノリスはトレーニングキャンプという仕事上の名目でイギリスを発ったため、彼の渡航は認められた。そして彼は1月初旬に味覚と嗅覚の異常を訴え、新型コロナウイルス陽性が発覚。ドバイのホテルで2週間の自己隔離を余儀無くされた。彼の旅程は予定よりも少し長くなったが、隔離を終えた後にイギリスに戻った。

 ノリスのSNSに寄せられたメッセージは、彼の一刻も早い回復を願うものが大半であったが、中には「ドバイに渡航することのリスクを理解しておくべきだった」といった批判もあった。さらに「今回のことを、イングランドがパンデミックで苦しんでいる中でバカンスに行ってはいけないという教訓にすべきだ」という厳しい声も見られた。

Lando Norris, McLaren speaks to the media

Lando Norris, McLaren speaks to the media

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 SNSでは公人の失言や不祥事が“燃料”となり、“炎上”に繋がる。しかもそういったコメントや出来事は事実よりも誇張されていたり、湾曲されてしまうこともしばしばだが、ノリスの場合はそれが顕著だと言える。

 彼はF1ドライバーの中でも特にSNS上で積極的に発信をしており、その明るい性格や純粋無垢な人柄から“好青年”というイメージが広く知れ渡った。しかしこれは逆を返すと、イメージから少しでも逸脱した言動は目立ち、匿名の“キーボード戦士”たちの格好の餌となってしまうのだ。

 ノリスは既に、2020年シーズンを通してSNSでのアプローチを変えることを余儀なくされている。彼は以前、motorsport.comのインタビューに次のように語っていた。

「2019年にうまくいかない日があった時、僕はそれを重く受け止めないようにしたり、SNSなどに冗談っぽくコメントしたりした」

「多くの人はそれを気に入ってくれたけど、一部の人は『ああ、こいつは全然一生懸命やってないな。だからうまくいかないんだよ』と思っただろう」

「ただ他の人は全く違う形で受け取っていて、僕が一生懸命やっていると言う。人々はふたつのイメージを抱くんだ」

 ノリスがSNS上で批判に晒されるのは今回が初めてではない。2020年のポルトガルGPでルイス・ハミルトンが歴代最多の92勝目を挙げた際、ノリスは「彼は基本的に毎戦勝つべきマシンに乗っている。彼はひとりかふたりを倒せばいい、それだけなんだ」とコメント。波紋を呼んだ。

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 このレースでノリスがランス・ストロールと接触するなどフラストレーションを溜めていたことも、このような軽率なコメントに繋がったのだろうが、結果的にノリスは非難を浴びる形となった。

 ノリスはその後、ハミルトンに対するコメントが「不用意だった」として謝罪している。

「ちょっと複雑な状況だった」と彼は振り返る。

「僕がパドックでルイス以上に尊敬する人はいないし、彼が成し遂げてきたことも尊敬している。僕は自分がナイスガイだと思っているし、常にナイスガイであろうとしてきた。でも時には本当のことを言おうとすることもあるし、人によってはそれを良く思わないだろう」

「誰かに対して悪い意味で言った訳ではない。どんなドライバーでも感情が爆発することはある。今回間違いを犯したけど、今後もそういうことは間違いなくあるだろう」

Lando Norris, McLaren, congratulates Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1, 2nd position, on securing his sixth world title

Lando Norris, McLaren, congratulates Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1, 2nd position, on securing his sixth world title

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

「人に何を言われても気にしすぎてはいけない時もある。僕が今回謝罪したのは、それが意図しない形で広まったからだ。人を悪く言ったり、不快な気持ちにさせるつもりはなかった。だから謝罪したんだ」

「あの時は色々あってポイントを失ったりしていて、イライラしていた。ルイスのことを悪く言うつもりはなかった。彼は7度のワールドチャンピオンだし尊敬している」

 ノリスの発言が炎上した一番の要因は、その発言が多くの人が抱く彼のイメージからかけ離れていたことに尽きるだろう。もしこのような発言を、歯に衣着せぬ物言いで知られるキミ・ライコネンがしていたら……それは“面白シーン”などとして切り取られ、全く違った受け取られ方をしたかもしれない。ノリス自身もそう考えているようだ。

「もしキミがそれを言ったなら、みんな気に入っただろうね!」とノリス。

「僕にできることは何もない。人々がその人間に対してどういう人物像を描くか次第だ」

「僕は陽気な男としてやってきたし、あまり真剣な部分を見せてこなかったかもしれない。それに関しては問題ないと思っている」

「でも、僕の怒ったところを見たことがない人は、それを見ると僕の態度が悪いように感じて、軽蔑するんだと思う。僕はそんな人間じゃないのにだ」

「他のドライバーだってこういうことをよく言うけど、その人たちは普段からそれを(表立って)言うから、周りからそれが普通だと思われている。でも僕が少しでも攻撃的で喧嘩腰な感じのことを言うと、人はそれを僕の裏の一面のように見るんだ」

「でもそういうものなんだ。それは変えられることではなくて、単に人々の認識が違うということなんだ」

 ノリスがそのような認識を受け入れたことは重要なことだ。確かにハミルトンに関するコメントは非難されたが、その後に見せた大人の対応は彼の将来を考えても正解であったと言える。オーバーリアクションだったという声もあるが、彼が自身の言動への責任を示したことは、多くの同僚たちの記憶に残ったはずだ。

 ノリスはすぐに手のひらを返すF1ファンの性質を学んだことだろうが、その人間性の芯の部分が失われることはないだろう。彼は最近著名なYouTuber達と『Quadrant』と呼ばれるグループを結成し、様々なコンテンツを投稿してファンを楽しませている。

 また、彼はコロナ禍によってF1が中断されていた期間のように、ルクレールやジョージ・ラッセル、アレクサンダー・アルボンとゲーム配信をしたいと語るなど、オフの期間を最大限に楽しもうとしている。

 その間もノリスが考えているのは、“ありのままの自分”でありたいということ。ファンに猫を被った姿は見せたくないのだ。

「今でも言いたいことは言っているし、笑いたい時は笑う」

 そうノリスは言う。

「自分じゃない偽の誰かにはなりたくないんだ。生きた心地がしないからね」

 ノリスは2019年のデビュー以来、持ち前の明るさでF1にポジティブなものをもたらしてきた。その輝きが失われてしまわぬように、間違いを犯した彼に外野が意味もなく講釈を垂れたりしないことが大切だ。F1はありのままのランド・ノリスを必要としている。

 

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この記事について

シリーズ F1
ドライバー ランド ノリス
執筆者 Luke Smith