レッドブルRB18の速さの秘密に迫る……2022年シーズンを席巻中のマシンのどこが優れているのか?|F1メカ解説

今季ここまで圧倒的な強さを誇っているレッドブルRB18。その強さの秘密は一体どこに隠れているのだろうか?

Red Bull Racing RB18 sidepods detail

Red Bull Racing RB18 sidepods detail

Giorgio Piola

ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

Analysis provided by Giorgio Piola

 今シーズン、圧倒的な強さを発揮しているレッドブルRB18。第16戦イタリアGPを終えたところでマックス・フェルスタッペンが11勝、チームメイトのセルジオ・ペレスも1勝を挙げ、合計12勝……ライバルを圧倒している。

 しかし思い返して欲しい。シーズン開幕当初、レッドブルRB18は最速のマシンではなかった。フェラーリF1-75の方が速さの面で勝り、第4戦を終えた段階では2勝対2勝、しかし予選での速さだけで言えば、第8戦アゼルバイジャンGPまでの間にシャルル・ルクレールが6回もポールポジションを獲得し、レッドブルを圧倒していたのだ。つまりレッドブルは、まずフェラーリに追いつくこと……そこからスタートし、そしてシーズン後半には付け入る隙を見せないほどの強さを発揮するようになった。

 レッドブルRB18には、新レギュレーションが導入された2022年のパフォーマンスに非常に有効な”飛び道具”のようなものは存在しない。しかし当初から用意された部分に、不足している箇所を補うような形で開発が施され、それが効果的に機能し合って、見事なまでのパッケージを作り上げたのだ。

 本稿では、レッドブルRB18が持つ興味深い部分をいくつかご紹介する。その中にはRB18独特のモノもあれば、他チームが取り入れているようなものも存在する。

■サスペンション

Red Bull Racing RB18 front suspension

Red Bull Racing RB18 front suspension

Photo by: Giorgio Piola

 レッドブルは、21年までのレギュレーション下で採用してきたサスペンションレイアウトを刷新。新たな基準を設けたと言えるだろう。

 2009年のRB5以降、レッドブルはリヤにプルロッド式サスペンションを、フロントにプッシュロッド式のサスペンションを採用してきた。これが、空力上最も効率的な選択肢だと見做されていたのだ。

 しかし2022年のRB18では、この前後を反転させるかのように、フロントにプルロッド、リヤにプッシュロッドを採用してきた。フロントにプルロッドを採用したのは、重心を下げる狙いがあるはずだ。まだプルロッドの方が全体的にロッドを細くすることができるため、軽量化にもひと役買っているかもしれない。一方でリヤのプッシュロッドは、グラウンドエフェクトカーとなったことで、フロア下をディフューザーに向かって流れる空気の流路を確保する狙いがあるはずだ。プッシュロッドにすれば、サスペンションの機構をマシン上部に置くことになるため、フロア下の設計の自由度が増すはずだ。

 フロントサスペンションのデザインで興味深い点は他にもある。通常、プルロッドであろうがプッシュロッドであろうか、マシンの上部と下部にはそれぞれ前後一対のウイッシュボーンが設けられている。しかしレッドブルRB18では、下部は従来通りのウイッシュボーンだが、上部は前方のアームと後方のアームのモノコック側への取り付け高さが大きく異なっている。今年の2月、RB18の実車が公開された時には、驚きを持って迎えられたものだった。

 また昨年まではステアリングに関する機構はモノコックの内部に配置され、整備性という面では見劣りしていた。しかし今シーズンは、従来通りモノコックのバルクヘッド部に露出するような格好となった。

■ビブトレイ

Red Bull Racing RB18 splitter detail

Red Bull Racing RB18 splitter detail

Photo by: Giorgio Piola

 フロアの先端部分、ビブトレイと言われる部分にはスプリングが搭載され、モノコックからフロアを吊り下げている。レッドブルの場合は、皿バネ状のスプリングを採用し、よりコンパクトに取り付けることができるようだ。この部分には、チームによって様々な選択肢があり、効果もそれぞれ異なる。

 レッドブルの皿バネは、コンパクトになるだけではなく、振動も少なくなるものと考えられる。これは、レッドブルが今季あまりポーパシングやバウンシングに苦しまなかったことと無関係ではないだろう。今後に向け、ライバルチームが注目するに値するソリューションだと言えよう。

 またRB18のフロアにはステーが複数存在しており、モノコックとフロアをつなぐのに役立っている。これによって、荷重が加わった時にフロアが曲がる量を減らすこともできるはずだ。

■フロア

Red Bull Racing RB18 floor stiffening

Red Bull Racing RB18 floor stiffening

Photo by: Giorgio Piola

Red Bull RB18 internal floor stay

Red Bull RB18 internal floor stay

Photo by: Giorgio Piola

 新しいレギュレーションでは、フロアやディフューザーの性能が昨年までよりもさらに重要になった。そして車高の変化に対する感度も実に重要視されている。

 フロアやディフューザー、そしてその付属コンポーネントの複雑さが増したことで、この部分の重量は増加することになった。それでも各チームは、耐久性能を損なうことなく軽量化し、ラップタイムを短縮するために躍起になっている。

Red Bull Racing RB18 floor detail

Red Bull Racing RB18 floor detail

Photo by: Giorgio Piola

 FIAは新レギュレーションの導入に際し、フロアのエッジ部分に極端な形状のデバイスが数多く登場するのを避けようとしてきた。

 レッドブルはそんな中、多くのチームが使っている”エッジウイング”と呼ばれるような空力パーツを使わないことを選択した。そして前年多くのチームが、後方に向けて幅を縮める際に使った”Z字型”の切り欠きを設けてきたのだった。

Red Bull Racing RB18 floor

Red Bull Racing RB18 floor

Photo by: Giorgio Piola

Red Bull RB18 floor detail

Red Bull RB18 floor detail

Photo by: Uncredited

 そして馬蹄形の切り込みも設けてきた。この部分でフロアの前後を分割し、前方と後方のフロアエッジの高さに差がつけられた。

 ただレッドブルは、シーズンを通じてこの部分を何度も修正し、最適化を目指した。そしてフロアとサイドポンツーンの間の気流のパフォーマンスを向上させた。

 結果として、馬蹄形の切り欠きの後方部分に、ガーニーのようなフラップ(上画像の左側、赤い矢印の部分)が追加された。

Red Bull Racing RB18 floor

Red Bull Racing RB18 floor

Photo by: Giorgio Piola

 フロアの下面にも興味深い側面が複数ある。例えばフロアの先端部分、矢印で1と2と示した地点には、前方のストレーキと連動した形状が存在する。これは、他のチームと比較すると、独特のデザインだと言える。

 このデザインについては、シーズンが進むに連れて他のチームも追従。フロア後方の3や4で示した部分の形状と共に、模倣されていった。

■ブレーキの冷却

Red Bull RB18 front brake comparison

Red Bull RB18 front brake comparison

Photo by: Giorgio Piola

 レッドブルは、フロントブレーキダクトのフェアリングを用い、ブレーキ冷却の最適化を図った。

 今シーズンからホイールリムのサイズは13インチから18インチに拡大。ブレーキディスクの直径も、約50mm大きくなっている。

 ただ、ディスクの端から中央に向かってドリルで開けられた冷却用の穴は最小直径は3mmとされ、パッド冷却用の穴も許されなくなった。

 そのため、ブレーキを冷却するために設けられている様々な機構の設計に大きな影響を与えることになった。

 レッドブルはこれに対応するために、ブレーキダクトの内部に、ディスクを冷却するためのフェアリングを設けてきた。これにより、空気の流れが変わり、ブレーキディスクが隔離されるように格好となった。ただ気候に対応するため、フェアリングの形状だけでなく、内部にも最小限ながら頻繁に変更が加えられている。

■ボディワーク

Red Bull Racing RB18 engine cover comparison & floor indent

Red Bull Racing RB18 engine cover comparison & floor indent

Red Bull Racing RB18 engine cover cooling outlet

Red Bull Racing RB18 engine cover cooling outlet

Photo by: Giorgio Piola

 レッドブルは、RB18のサイドポンツーンやエンジンカバーのボディワークについて、シーズンを通じてアップデートを施してきた。これにより、マシンが要求する冷却性能と、空力的パフォーマンスのバランスをとってきたのだ。

 イギリスGPでは、エンジンカバーの段差がより顕著になり、リヤのビームウイングに気流を流すセクションと、サイドポンツーンの上面を通ってディフューザーの上に気流を流すセクションに分けられた。

 また続くオーストリアでは、シャークフィンの最後部が切り取られた。

 さらに開発は続き、上の図の○の中で示されているように、エンジンカウルとサイドポンツーンの接続部分の形状が変更された。

 この変更により、ロワウイッシュボーンのフェアリングにも変更が加えられた。そんな中でも、ウイッシュボーンがディフューザーと干渉することを防ぐために、ディフューザーの上面には窪みが設けられた。

■前後のウイング

Red Bull RB18 front wing endplate comparison

Red Bull RB18 front wing endplate comparison

Photo by: Giorgio Piola

 2022年から導入された新レギュレーションは、各チームの前後ウイングに関するデザインを著しく制限し、マシンの後方に乱気流を発生しにくくすることが目的のひとつだ。

 しかしながらそのウイング形状には、チームごとに特徴が顕著に現れており、ダウンフォースを生み出すためのものなのか、マシンの前後バランスをとっているのか……それを想像するのは実に楽しい。

 これを念頭に置いて考えると、レッドブルRB18のフロントウイングのフラップは、サーキットの特性に応じて、その大きさが随時変更されてきた。また、翼端板の外側に取り付けられたエレメントの形状も変更され、圧力変化に対する反応速度をコントロールしていたようだ。

Red Bull Racing RB18 beam wing comparison

Red Bull Racing RB18 beam wing comparison

Photo by: Giorgio Piola

 またレッドブルは、リヤウイング下段に設けられたビームウイングの配置についても積極的だった。他チームとは異なるアプローチでシーズン開幕を迎え、サーキットの特性に従って細かく調整。トップスピードが求められるコースでは、その大きさを小さくするなどした。

 このビームウイングは、マシンのリヤエンドの空力性能に大きく影響を及ぼすパーツである。つまりこのビームウイングをうまく使うことができれば、ディフューザーやリヤウイング全体の効率を引き上げることだってできるのだ。

 実例を挙げて紹介しよう。レッドブルはトップスピードが重視されるサーキットでは、ビームウイングの2枚のフラップのうち、上方の1枚を取り外すことがあった。一方でダウンフォースを少しでも稼ぎたいハンガリーのようなコースでは、新しいデザインのビームウイングが使われた。

 おそらくレッドブルは、このエリアでライバルチームを凌駕している。そのため、高速系のコースで、リヤウイングを極端に薄くするような策を採らずに済むことが多い。

■期待通りの性能を発揮しなかったパーツも……

Red Bull Racing RB18 floor comparison

Red Bull Racing RB18 floor comparison

Photo by: Giorgio Piola

 F1マシンに投入された開発の全てが、期待通りの改善をもたらすとは限らない。もし期待通りの効果を発揮しない新パーツがあったとしたならば、チームはそれでも開発を続けるか、それとも潔く捨てるかの判断を強いられることになる。また、ドライバーによる好みも当然存在するため、一方のドライバーが気に入ったとしても、もう一方のドライバーが気に入らないということは多々ある。

 レッドブルがイギリスGPに投入したフロアは、まさに頭痛の種とも言えよう。フェルスタッペンが当初このフロアを使ったが、気に入らずに従来仕様のフロアに戻した。一方でチームメイトのペレスは、この新しいフロアを今も使い続けている。

 現在のF1では、各チームの予算上限額が設定されているだけではなく、前年のコンストラクターズランキングの順位に応じた空力開発ハンディキャップなるものがあり、チームにはこれまで以上に効率的な開発が求められる。そのため、シーズンが進んでいくに連れ、開発の進行速度が低下する可能性も十分にある。

 
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