リバースグリッド予選レースは、F1を救うのか……2005年F1日本GPを例に検証
F1は公式YouTubeチャンネルで、2005年のF1日本GPのフルレースの無料配信を開始した。なぜこのレースが選ばれたのか……これは最近、今年のイベントでリバースグリッドの予選レースを行なうという案が反対されたことと、無関係ではないだろう。
写真:: Toyota Racing
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、シーズン開幕が大きく遅れることになった2020年のF1。しかし7月5日決勝のオーストリアGPを皮切りに、シーズンがスタートすることがようやく決定……各チームは初戦に向けた準備を加速させている。
ただ開幕が遅れたことにより、開催カレンダーは実に”密”になっている。そんな中、レッドブルリンクとシルバーストンでは、2週連続でレースが開催されるという異例のスケジュールとなった。
F1はそんな中でも、2レース目の魅力を損なうことがないよう、ドライバーズランキングを逆順にしたリバースグリッドでの予選レースの導入を提案。しかし、メルセデスの猛反発に遭い、実現することができなかった。
遅いマシンが前方グリッド、速いマシンが後方グリッドからスタートすることになれば、コース上でのオーバーテイクは間違いなく増え、ファンには多くの興奮をもたらすことになるだろう。そういう理由からもこのレースフォーマットは、長年にわたって導入が議論されてきた。ただメルセデスのトト・ウルフ代表は、これについて”ギミック”だと反対したのだ。
リバースグリッドによって行なわれたレースはこれまでにはないものの、偶然にもリバースグリッドのようになってしまったレースもある。その典型的な例が、2005年の日本GPであると言えよう。
速いドライバーが、何らかの原因でグリッド後方からスタートするということは、時折あることだ。しかし、通常は上位を争うドライバーたちがまとまってグリッド後方に沈むということは稀だ。しかし2005年は特殊な予選方式であったため、多くのトップグループのドライバーが、軒並み後方グリッドに沈んだ。
予選は、各マシンが決勝スタート時の燃料を搭載した形で、1台ずつ走行する形式が取られていた。そしてその出走順は、前のレースの決勝結果の低い方から……ということになっていた。
前のレースであるブラジルGPでのトップ3は、ファン-パブロ・モントーヤ(マクラーレン)、キミ・ライコネン(マクラーレン)、フェルナンド・アロンソ(ルノー)だった。しかし日本GPの土曜日、彼らの予選アタックが始まる前に鈴鹿サーキットには雨が落ち、最終的には激しい雨になった。
その結果、アロンソは予選16番手。ライコネンとモントーヤのマクラーレンふたりも、17番手と18番手に終わった。フェラーリのミハエル・シューマッハーも、クリスチャン・アルバースとロバート・ドーンボスの2台のミナルディに挟まれた。
一方でポールポジションは、燃料搭載量を少なくしたトヨタのラルフ・シューマッハー。BARホンダのジェンソン・バトンが2番手につけ、ルノーのジャンカルロ・フィジケラが3番手、レッドブルのクリスチャン・クリエンが4番手だった。
アロンソはブラジルGPの時点ですでにドライバーズタイトル獲得を決めていたものの、コンストラクターズランキングはルノーとマクラーレンの間で激しく争われていた。残りは2レース。ブラジルGPで1-2フィニッシュを決めていたマクラーレンが2ポイントリードしていたものの、フィジケラが上位グリッドにつけたことにより、ルノーはランキングで逆転できると期待していた。
Kimi Raikkonen, McLaren Mercedes MP4/20
Photo by: Sutton Images
1周目の混乱により、アロンソとライコネンはポジションをいくつか上げることに成功。佐藤琢磨(BARホンダ)とルーベンス・バリチェロ(フェラーリ)は、1コーナーをオーバーランしたことにより、ポジションを落とした。モントーヤは1周目の最終ラップでクラッシュ……これによりセーフティカーが出動することになったが、この時点でアロンソはすでに8番手、ライコネンも12番手まで上がっていた。
リスタート後、アロンソはポジションを上げるのに苦労し、クリエンの後方に詰まる形となってしまった。ライコネンはフェリペ・マッサ(ザウバー)、アントニオ・ピッツォニア(ウイリアムズ)、ジャック・ビルヌーブ (ザウバー)の3人を3周でオーバーテイク。アロンソの真後ろにつけた。
最初のスティント終盤、アロンソはペースを上げ、ミハエル・シューマッハーに追いついた。そして130Rでアウト側からオーバーテイクを成功させる。これでアロンソは4番手に上がり、22周目に給油のためにピットインすることとなった。
コースに戻ったアロンソは、遅いクルマのトラフィックに巻き込まれ、ペースを上げることができない。その間に、給油を遅らせたシューマッハーとライコネンにオーバーカットを許してしまう。結局ふたりはアロンソの4周後にピットインし、5番手と6番手でコースに復帰……アロンソはその後方だった。
ライコネンはシケインでミハエル・シューマッハーがロックアップしたチャンスを突き、続くメインストレートでオーバーテイクを完了した。
ライコネンの前には、バトンとマーク・ウェーバー(ウイリアムズ)が見えていた。先頭に立ったフィジケラは20秒と遥かに前方。フィジケラのルノーでの2勝目は目前に迫っているように見えた。
ライコネンがバトンとウェーバーの後方に留まっていた38周目、フィジケラは2度目のピットストップを行ない、4番手でコースに復帰した。
しかしマクラーレンは、最初のピットストップの際に、ライコネンのマシンに多くの燃料を搭載していた。その結果、ライコネンは2度目のピットストップをフィジケラよりも7周も遅らせることができ、バトンとウェーバーの前に立っただけでなく、フィジケラとの差もわずか5秒まで縮まった。
Giancarlo Fisichella, Renault R25, leads Kimi Raikkonen, McLaren Mercedes MP4-20
Photo by: Motorsport Images
ライコネンはフィジケラを猛追。残り3周という時点で、1秒差以内に迫った。
そして最終ラップに入ろうかというメインストレートで、ライコネンはフィジケラの真後ろにピッタリとつく。フィジケラはスタート/フィニッシュラインを横切ると、進路を右に変更し、ライコネンを牽制。しかしライコネンはターン1ではアウト側のライン(左側)を取り、オーバーテイクを完了。フィジケラがそれ以上防御する術はなかった。
結局ライコネンは、17番グリッドからスタートしながら、このシーズン7勝目を挙げた。この大逆転劇は、1983年アメリカ西GPのジョン・ワトソン(マクラーレン/22番手スタート)と2000年ドイツGPのバリチェロ(フェラーリ/18番手スタート)に次ぐ、下位グリッドからの勝利だった。マクラーレンのチーム代表であるロン・デニスは、「チームにとって、これまでで最高の勝利のひとつだ」と称賛した。
ライコネンもレース後、喜びを語った。
「ものすごく懸命に働いたから、僕の最高のレースのひとつだと思う。本当に楽しかった」
そうライコネンは語った。
「勝利を目指すにあたって抱えていた全ての問題を考えると、ただただ素晴らしい結果だ」
「1周目には多くのことが起こり、ファン-パブロと僕の両方がそれに関わってしまった。まあレースの後方からスタートすれば、そういうのは避けられないこともある。僕はマシンをできる限りプッシュした。そしてマシンはどんどん良くなっていった」
「2回目のストップの後、フィジケラを十分に捕まえることができた。そして、僕はそうしたんだ。最終ラップの最初のコーナーで彼を追い越した。それは、手にしなければいけない唯一のチャンスだったんだ」
一方で敗れたフィジケラも、次のようにレースを振り返った。
「最後のピットストップの後で、チームはキミが近くにいると僕に対して言ってきた。そして彼はすぐに追いついてきた。特に130Rでバックマーカーに詰まってしまった時、かなりのタイムを失ってしまった」
「彼は1周の後半部分でとても速かった。僕は彼を抑えるように最善を尽くしたが、彼は1コーナーでのラインをキープした……それで終わりだったよ」
Podium: race winner Kimi Raikkonen, McLaren
Photo by: Peter Spinney / Motorsport Images
勝利こそ逃したものの、ルノーはフィジケラが2位、アロンソが3位に入ったことで、コンストラクターズランキング首位に浮上した。一方のマクラーレンは、モントーヤが無得点に終わったのが痛かった。
速いドライバーがグリッド後方に沈んだ場合、どれだけエキサイティングなレースを見ることができるのか……それを目の当たりにしたのが、2005年の日本GPだったと言えるだろう。アロンソは1周目に8つポジションを上げ、その後レース中に6回のオーバーテイクを成功させた。ライコネンは5つのオーバーテイクしかしていないが、優れた燃料の戦略に助けられ、勝利を手にした。そして少なかったものの、いずれのオーバーテイクも、勝利を目指す上では必要不可欠だった。
リバースグリッドを導入すれば、この2005年の日本GPのような激しいレースを見ることができる可能性が高まる。アロンソの130Rでのシューマッハー攻略、ライコネンが最終ラップで見せたオーバーテイク……それらのシーンは、F1を成功に導く鍵と言えるかもしれないが、それが導入される日は来るのだろうか?
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