分析

F1分析|チーム代表の玉突き移籍はなぜ起こった? 背景に”予算制限”をめぐる影響力の変化アリ

ドライバーだけでなく、チーム代表の玉突き移籍が発生したF1。その背景として、チーム代表の役割が変化しつつあることは無関係ではないだろう。

Andreas Seidl, Team Principal, McLaren, Frederic Vasseur, Team Principal, Alfa Romeo Racing, Guenther Steiner, Team Principal, Haas F1, in the team principals Press Conference

 F1では時に、有能な人材を求めて連鎖的、かつ爆発的な動きが起こることがある。セバスチャン・ベッテルがF1の夏休み前に引退を決めたことで、フェルナンド・アロンソがアストンマーチンに、ピエール・ガスリーがアルピーヌに、ニック・デ・フリーズがアルファタウリにと、移籍の連鎖が起きたことを見れば分かるだろう。

 また、チーム代表の移籍もそれほど珍しいことではない。昨冬にオットマー・サフナウアーがアストンマーチンを離れ、アルピーヌの代表となったのもその一例だ。

 しかし同日に4チームがチーム代表の変更に関する発表をするというのは、めったに起こらない事例であることは間違いない。

 フェラーリはすでに離脱を発表していたマッティア・ビノットの後任として、アルファロメオ/ザウバーからフレデリック・バスールを引き抜き、新チーム代表に据えた。バスールが抜けたザウバーは、マクラーレンのチーム代表だったアンドレアス・ザイドルをグループのCEOへと招き入れた。マクラーレンはザイドルの後任として、レーシング・エグゼクティブエンジニアを務めてきたアンドレア・ステラを昇格させている。

 これらの動きとは直接関係ないものの、ウイリアムズもCEO兼チーム代表のヨースト・カピトと、テクニカルディレクターのフランソワ-グザビエ・デメゾンの辞任を13日に発表している。

関連ニュース:

 フェラーリ、アルファロメオ、マクラーレン、そしてウイリアムズの交代劇は、それぞれ微妙に異なる状況の結果であるが、ひとつの共通テーマがある。それは、F1が予算制限時代となってから、かつてないほどチーム代表の責任が大きくなっていることだ。

 数年前までは、チーム代表の重要な役割のひとつは、会社の役員会や親会社の自動車メーカーに出向き、適切な仕事をするために必要な資金を引き出すことだった。

 グリッドで上位に入りたい、チームの衰退を止めたい、あるいはマシンコンセプトの軌道修正をしたいという目標があるのなら、別の小切手を書いてもらう……つまり予算を増やしてもらうことが最善の方法だったのである。

 しかし、そんな時代はとうに過ぎ去ってしまった。予算に上限が設定されたことで、F1はもはやミスを現金でカバーできるような支出競争ではなくなっているのだ。

 今大切になっているのは、効率的であること、規律正しいこと、適切な計画を立てること、そして何よりも賢明であることだ。

 予算が限られているということは、「ライバルは予算が多いからうまくいっているだけだ」という言い訳をする手段もなくなったことを意味する。ゆえに失敗をすれば、それは自分たちの責任となる。

 現代のF1では、チーム代表がコース上での野心が達成されたかどうかについて、これまで以上に大きな責任を負っているのだ。

 ウイリアムズの場合、オーナーのドリルトン・キャピタルが期待したような進歩がなかったことから、チーム代表のカピトと技術部門を率いていたデメゾンとの契約を継続しないという決断を下した。

 フェラーリについては、会長のジョン・エルカンとCEOのベネデット・ヴィーニャが、2022年のキャンペーンで果たすべき能力をチームが発揮できていないと考え、ビノットに対する信頼を失ったことが辞任の理由となった。

 フェラーリがバスールをビノットの後任に、ザウバーがザイドルを新CEOに迎え入れたのは、予算制限の中で何が一番必要かをよく理解している上級管理職を、チームが求める傾向にあるということを意味している。

 今の厳しい予算制限の中では、毎戦のようにフロントウイングをアップグレードして、パフォーマンスを追求するようなことは予算がなくてできない。その代わり、効率的に利益が得られる領域で、より良い仕事をする必要がある。組織が持っているリソースから最大限の利益を得られるように、スタッフのレベルや配置を決めなければならない。

 コンピュータ画面上でマシンのコンセプトを考えるデザイナーから、レースでタイヤを交換するピットクルーまで、すべてのレベルにおいて最高を維持しなければライバルに後れを取るかもしれない時代なのだ。

 チーム代表はモチベーションを高め、チームを前進させられるような存在でなければならない。そのためにはスタッフが自分たちのしていること、そして自分たちが歩んでいる道を信じられるようにする必要がある。

 マシン開発の面では、アップグレードのタイミングを外してはならない。シーズン序盤に熱くなりすぎて、後々資金が尽きてしまっては困る。同様に、あまりにクールに抑えすぎて、シーズン後半に向けて温存していれば、シーズン序盤の戦いで取り残されてしまうかもしれない。

 これらの要素はすべて、チームのシステムを熟知し、その中で生きてきた経験豊富なチーム代表でなければ、すぐには解決できないことばかりだ。

 シーズン終盤になって、ザイドル率いるマクラーレンが人材募集を開始したのは、おそらく偶然ではないだろう。予算制限のもとで物事がどのように機能するかを知った今、改善できる支出分野があることを知ったからだ。

 最終戦アブダビGPで、ザイドルは次のように語っている。

「我々は財務部門と協力して、コスト削減を念頭に置きながら、現在のF1活動の中から相乗効果や効率性を見出すために、多くの努力を重ねてきた」

「そのおかげで、2ヵ月ほど前からエンジニアを増員し、将来的にはより多くのことを並行して行なえるようにするための重要なキャンペーンを始めることができた」

 予算制限の導入によってアプローチが変わり、経験豊かで安定し、賢い人材が必要とされるようになったことで、チーム代表はかつてないほど注目されるようになった。

 チーム代表は影響力が増したことで責任も重くなり、事がうまくいったときには栄光が、うまくいかなかったときには矢面に立たされる、これまで以上に重要なポストとなっているのだ。

 
関連ニュース:

Be part of Motorsport community

Join the conversation
前の記事 フェラーリお家騒動で予定が狂った? マクラーレン、ザイドルのザウバー移籍が当初は2026年見込みだったと明かす
次の記事 真の狙いはデグラデーション軽減じゃない? アストンマーチン、タイヤの”皮むき”戦法を続けた真の理由を明かす

Top Comments

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

エディション

日本 日本