九死に一生を得たクルサード、心身の痛みに耐えて勝ち取った殊勲の2位
デビッド・クルサードは2000年、飛行機事故に遭遇するも奇跡的に生還。直後に開催されたスペインGPに出走し、激しい痛みに耐えながら2位でフィニッシュしたのであった。
2000年のF1第5戦スペインGPでは、マクラーレンのミカ・ハッキネンとデビッド・クルサードがワンツーフィニッシュを達成。フェラーリ&ミハエル・シューマッハー優勢だったタイトル争いの流れを引き寄せた。特にクルサードが獲得した2位というリザルトは、その数字以上に驚異的なものだった。
クルサードは第4戦イギリスGPでシーズン初勝利を挙げ、シューマッハーの開幕からの連勝を止めた。しかしながらそのわずか1週間後、彼は乗っていたジェット機がエンジントラブルに見舞われ墜落するという事故に遭遇した。
この事故でパイロットのふたりが死亡したが、クルサードとガールフレンドのハイジ・ウィクリンスキー、パーソナルトレーナーのアンディ・マシューズは奇跡的に生還した。クルサードは機体から脱出した後、再びその残骸へと戻ったが「パイロットのために何かできることはもう何もなかった」という。
David Coulthard, McLaren MP4-15
Photo by: Lorenzo Bellanca / Motorsport Images
David Coulthard, McLaren speaks to the media
Photo by: Motorsport Images
その後クルサードは病院で検査を受け、F1の公式ドクターであったシド・ワトキンス医師と相談した結果、スペインGPへの出走を許可された。しかしながら彼はレース前、当時テレビ解説者を務めていたマーティン・ブランドルに対し、その悲劇的な事故が大きな影響を与えたと語った。
「僕たちがこの地球上でどれほど脆弱な存在であるかに気付かされることはなかなかない」
「僕がどれほど幸運であるか、僕の人生がどれほど幸運であるか、そんなことを感じる機会が増えた。僕はただレーシングドライバーとして生きている訳ではなく、大切な家族や友人がいることにも気付かされた」
「それは以前から感じていたことでもあるけど、今回のことで改めて感じさせられたし、できる限り毎日それを意識しようと思った」
また身体的な問題についてクルサードは、「いや、大したことはない。あざは少しあるけどドライブには問題ない。もちろん万全な体調とは言えないのでレースの時にはもう少し痛みがあるかもしれないけど、金曜日の1周目から速さがあった」と答えた。
予選ではシューマッハーが0.078秒差でハッキネンを下しシーズン初のポールポジションを獲得。2列目にはルーベンス・バリチェロ(フェラーリ)とクルサードが並んだ。
シューマッハーは予選を終えて次のように語っていた。
「今日はとても僅差だった。もちろん今シーズン初めてのポールポジションを獲得できて嬉しい。マシンに完全に満足できていなかったのでいくつか調整をしたけど、思うようにはいかなかったんだ」
「レースに向けては、レースをコントロールして戦略を立てやすくするためにも、スタートが重要だ。でも僕たちはここまで(ハッキネンよりも)後ろのグリッドからでも勝てることを証明している」
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Michael Schumacher, Ferrari F1-2000, leads Mika Häkkinen, McLaren MP4-15 Mercedes, Ralf Schumacher, Williams FW22 BMW, David Coulthard, McLaren MP4-15 Mercedes, Rubens Barrichello, Ferrari F1-2000, Jacques Villeneuve, BAR 002 Honda, Jarno Trulli, Jordan EJ10 Mugen-Honda, at the start
Photo by: Motorsport Images
レースではハッキネンが好スタートを決めたが、シューマッハーは首位を守った。シューマッハーは1回目のピットストップで、ロリポップマンの判断ミスによって給油中にも関わらず発進してしまい、給油を担当していたナイジェル・ステップニーの足を轢いてしまうというアクシデントに見舞われたが、タイムを大きくロスすることはなく首位を維持した。
一方クルサードは最初のピットストップで1速ではなく2速で再発進したことによりタイムをロスし、一時5番手まで落ちた。しかしシューマッハーは2度目のピットストップでも給油リグを差し込むのに時間がかかり、タイムをロス。その結果、2番手に落ちたシューマッハーと3番手のクルサードとのギャップは急速に縮まった。
そしてレース終盤には、クルサードがシューマッハーをパスして2番手に。シューマッハーはスローパンクチャーに悩まされ、さらに後続からにプレッシャーをかけられることになった。
シューマッハーの弟であるラルフ・シューマッハー(ウイリアムズ)が3番手の座を狙い兄ミハエルを捉えるが、大きく右に回り込むターン11でミハエルはラルフをアウトに幅寄せするような動きを取り、そのすぐ後ろにつけていたバリチェロを前に行かせた。この“チームプレー”とも取れる動きは物議を醸したが、ミハエルはレース後「僕に言えることは、レースはレースだということだ」と話した。ラルフはコメントを拒否した。
Mika Häkkinen, Mclarens MP4-15 leads Ralf Schumacher, Williams FW22
Photo by: Sutton Images
Ralf Schumacher, Williams FW22 BMW, leads Rubens Barrichello, Ferrari F1-2000
Photo by: Motorsport Images
そんな中でハッキネンはクルージングしながらトップチェッカー。16秒後にクルサードが2位でフィニッシュした。3位には結局バリチェロが入った。
ハッキネンにとってシーズン初勝利、マクラーレン にとってシーズン初のワンツーフィニッシュとなったが、ハッキネンはレース後に「今季初勝利を挙げたことがどれほど嬉しくてホッとするものであるかを言葉で表すのは難しい」と語り、クルサードも「チームがまたワンツーフィニッシュを達成できたことは素晴らしいことだ。この週末でチームとして最大のポイントを獲得できたことを嬉しく思う」と話した。
一方のシューマッハーは散々な週末となったが、レースを振り返って次のように語っていた。
「僕たちが常にラッキーなレースをできる訳ではないし、今日のレースは僕たちにツキがなかった。最初のストップで問題が発生し、2回目のストップでも問題が起きた」
「最初の時は、ロリポップマンが(ロリポップを)持ち上げた後にすぐ下げた。でも一度発進したマシンをすぐに止めるのは不可能だ。僕は何かの上に乗り上げたような感じがしたのでミラーを見たら、メカニックのひとりが倒れこんでいた。僕はチームに何が起こったのか尋ねたけど、応答はなかった」
「それからスローパンクチャーが起こった。それは明らかに僕たちの手に負えないことだった。だから怒ってはいないよ。僕たちは残りのレースでも力強い走りができると思うよ」
レース後にクルサードは、ロンドンにあるザ・プリンセス・グレース病院にてメディカルチェックを受けた。すると彼がレース中にどれほどの痛みを我慢して走っていたのかが明らかとなった。
チームの当時の声明にはこう記されている。
「検査の結果、デビッドの右胸には打撲傷があり、右側の8番目、9番目、10番目の肋骨にヒビが入っていることが分かった」
David Coulthard, McLaren and Adrian Newey
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
David Coulthard, McLaren
Photo by: Rainer W. Schlegelmilch
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