コラム
F1 ベルギーGP
海外F1記者の視点|FIA会長がF1の自然吸気エンジン回帰論を再び宣言……その実効性はあるのか?
今年の初め、F1の自然吸気V10エンジンへの回帰論が噴出し、実際に協議も行なわれた。これはメーカーによって否決されたが、エンジンへの回帰論は今も燻り続けている。

Stuart Codling
編集: 2025/07/24 10:13
Copy link
Viberでシェア
Google検索でmotorsport.comをお気に入り登録

A Ford DFV V8 engine in the back of a Brabham BT49
写真:: LAT Images
創設75周年を迎えたF1は、ある意味正気を失いかけた。その中心には、当時レッドブルのチーム代表だったクリスチャン・ホーナーがいた。そしてホーナーはF1委員会の会議中、テーブルの真ん中に自分のスマートフォンを置いたという。
「V10エンジンを復活させろ!」
ホーナーのスマートフォンを通じてそう囁いたのは、かつてF1を率いていたバーニー・エクレストンだった。
このひと言により、多くの人々がF1にV10エンジンを復活させるために動き始めた。しかしそれは、すぐに頓挫することになった。バーレーンGP前に行なわれた会議で、F1のPU(パワーユニット)マニュファクチャラーである自動車メーカー各社の猛反対に遭ったのだ。
しかしFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は、依然として自然吸気エンジンに回帰する意味を信じており、7月のイギリスGP前に行なわれた記者会見でも、自らの主張を表明した。この主張は、自動車メーカーの懸念のいくつかを解消するものでもあった。
V10エンジンは、市販車との関連性が乏しく、自動車メーカーにとっては旨味のないモノであった。自動車メーカーは、市販車との関連性を生み出すためには、何らかの形での電動化が必須であると主張したのだ。
この点は、F1でも長いこと議論されてきたことだ。F1は市販車のトレンドを盲目的に模倣すべきなのか? あるいは自動車メーカーとの関係を悪化させたとしても、素晴らしい音とパワーを求めることに集中すべきなのか? 多くのF1純粋主義者らは、後者を支持している。しかしそうなった場合、現在は大多数を占める自動車メーカーのワークスチームはどうなるのか? 誰が代わりにエンジンを製造するのか? これら多くの現実的な問題が存在する。
ベン・スレイエム会長は、V10ではなくV8エンジンの導入を提唱している。このV8エンジンは、多くのメーカーが今も製品ラインアップとして残しているエンジンであるため、V10よりは受け入れやすいモノと言えるかもしれない。しかし同時に、新技術の登場と世界経済の進展により、内燃エンジンという概念は、一種の変革期を迎えている。
Mohammed ben Sulayem, FIA President
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
自動車業界はこの十数年、各国政府の法整備にも後押しされ、完全電動化の方向へと舵を切っていた。しかし、原料や充電インフラ、さらには電力の確保などという様々な問題があるため、依然として一般に普及するスピードは加速しておらず、逆にここ最近になって減速傾向を辿っている。
また中国政府が国内の電気自動車メーカーに多額の補助金を拠出したことで、世界各国に安価な中国製電気自動車が輸出され、欧米を中心に電気自動車を手掛けてきたメーカーをパニックに陥れている。
これらの状況を考えれば、内燃エンジンが生き残る余地はまだ残されているといえよう。ただ、それには条件がある。それは、持続可能燃料をもっと安価に、大量に作れるようになるということだ。この持続可能燃料は2026年からF1でも本格導入される予定で、価格の引き下げなどに寄与することが期待されている。
F1がV8エンジンに戻ることになった場合には、サイズはもちろんのこと、どう電力機構をドッキングさせるか、その詳細を詰める必要がある。2026年のF1は、エンジンと電力の出力比率が50:50になる予定だが、これは議論を呼んでいる。例えばストレートの途中でパワーが不足してしまうことが判明し、直線走行中に空気抵抗を減らすアクティブエアロを組み込む必要があった。
そのためV8を導入する際には、電動パワーの割合が20%や10%に引き下げられることになるはずだ。
新たな形式のPUは、2026年に導入される規則をしばらく使った後に導入されることになる……おそらく、2030年頃になるだろう。しかしベン・スレイエム会長は、それよりも早い時期に導入する可能性があることも示唆している。
「すぐに実行する必要がある」
ベン・スレイエム会長は、イギリスGPの際にそう語った。
「3年はかかるだろう。しかしできれば、2029年までに何らかの形にしたいと思っている」
2026 Formula 1 rules
Photo by: FIA
ベン・スレイエム会長はまた、ギヤボックスやハイブリッドシステムなどを統一コンポーネントにすることで、大幅にコストを削減することの必要性も訴えている。
以前FIAの会長を務めていたマックス・モズレーは、2008年に起きた世界金融危機(日本ではリーマンショックとして有名)の際、同じような方向を目指した。実際にドライブトレインの入札プロセスを実行し、コスワースとヒューランドがこの権利を手にした。またモズレー会長は、グリッドを新たに解放し、標準のパワートレインを使うチームを対象とする、新たなチャンピオンシップを設けるという案もぶち上げた。
ただこれらの構想は最終的に複雑すぎ、さらにモズレーがFIA会長を退任したことで、勢いを失うことになった。モズレーの次の会長に就任したジャン・トッドは、この構想に興味を示さなかった。
ギヤボックスはかつて、各チームがロスなく変速できるようにするために、セミオートマチック・ギヤボックスや、シームレスシフトギヤボックスなどの開発に巨額の予算を割き、パフォーマンスを差別化する要素となっていた。しかし今ではパフォーマンスに差をつける要素とはなっておらず、ワンメイク化することはマイナスではないとされている。
ハイブリッドコンポーネントをワンメイク化することは、PUメーカーにとっては受け入れ難いモノかもしれない。しかし同時に、これは観客からは見えないシステムであり、コストを削減できれば支持を得られる可能性もある。
FIAの立場は、たとえF1が商業的に好調であっても、参戦コストを削減することは、依然として重要な要素のひとつであるということだ。なぜなら、世界経済や地政学など様々な理由で、状況が瞬時にして一変してしまう可能性があるからだ。
「FIAはレギュレーションの議論においてモデレーターとしての役割を担い、コストを抑え、全ての競技者にとって公平な競争条件を整えるということに留意している」
FIAのシングルシーター・ディレクターであるニコラス・トンバジスは今年のはじめ、motorsport.comのインタビューにそう語った。
「当然のことながら、チームやPUメーカーが自らの利益や投資を守るために、時に強い抵抗に遭うこともある。コスト削減と技術の自由度はお互いに矛盾しており、両立させるのは簡単なことではない」
「PUメーカーは、エンジン関連の様々な項目について、コスト削減のために多くの提案を(2026年レギュレーションに関する議論の過程で)持ちかけてきた。それらは簡素化、特定の材料、プロセス、特定の技術の廃止などに重点が置かれていた」
「我々が達成したコスト削減の規模は、誰もが望んでいたほどではなかった。スポーツとしては、財政的にも人気の面でも、非常に健全な立場にあるとはいえ、決して現状に満足してはいけない。コスト削減は常に最優先事項であるべきだ」
The Formula One Championship-winning Power Units: Mercedes-AMG F1 M09 EQ Power+ (2018), Mercedes-AMG F1 M08 EQ Power+ (2017), Mercedes-Benz PU106C Hybrid (2016), Mercedes-Benz PU106B Hybrid (2015), Mercedes-Benz PU106A Hybrid (2014)
Photo by: Mercedes AMG
そしてベン・スレイエム会長は、イギリスGPの際に次のように語った。
「多くのメーカーが、自社の車両にV8エンジンを採用しているから、商業的には正しい判断だろう」
「どれくらいのコストになるのか? 目標は、あらゆる面で50%以上(のコスト削減)だ」
コスト削減の方法は、何もコンポーネントをワンメイク化するだけではない。より安価な材料の使用を義務付けることによっても実現できる。例えばFIAは、ピストンをアルミ化することを望んでいたが、当初この方針を支持していたメーカーが、一斉に方向転換してしまったということもある。
またF1が環境負荷ゼロを目指す上で直面するもうひとつの課題は、2026年から使用が義務付けられる完全持続可能燃料の費用である。この燃料は1リットルあたり275ドルから300ドル程度になると言われている。この価格には、燃料の開発に費やされてきた研究開発費用と、エネルギーを集約して燃料を製造する費用の両方が反映されている。大規模かつ合理的なコストで生産するという問題に対する解決策は、まだ見つかっていない。
全てのチームは、燃料メーカーと燃料および潤滑油の供給契約を結んでいるため、実際に誰がそのコストを負担するのかという問題は解明が難しく、ここの契約内容によっても異なる可能性が高い。ベン・スレイエム会長は、燃料もワンメイク化すべきだと提案したが、これも反対に遭うだろう。
燃料は、以前ほどはパフォーマンスの差別化要因ではなくなった。今では燃料の化学組成はレギュレーションで定められており、その中持続可能な要素とすることも求められている。
しかし燃料メーカーは、その性能をブランドのストーリーテリングの軸としている。例えばシェルは、フェラーリとのパートナーシップを軸に、VPowerブランドのアイデンティティを築いてきた。
もし燃料がワンメイクされたにもかかわらず、引き続きフェラーリの車体にシェルのステッカーが貼られるのであれば、それは単なる広告塔というだけになってしまう。そんな状況でも、このストーリーは生き残るだろうか?
おそらく、気にする人はいないだろう。結局のところ我々は、表面主義の時代に生きているのだ。最終的にFIA会長が望むだけコストを削減できれば、エネルギー供給網全体が恩恵を受けることになる。その中身がどうなっているかなど、気にする人はほとんどいなくなるはずだ。
関連ニュース:
F1ホンダ、バーレーンで行なわれた”V10回帰”を話し合う会議に参加「2026年のPU規定がF1再参戦決定の大きな理由だったと主張した」と声明
F1F1の”V8”エンジン回帰計画が再始動!? FIA会長「2029年までに形にしたい」はどこまで本気?
F1未来は電動だ! アウディ、F1のV10エンジン回帰案に強気のNO「我々は皆、気候変動対策という目的を忘れている」
あなたの意見が聞きたい!
Motorsport.comで何を見たいですか?
5分間のアンケートにご協力ください。
- Motorsport.comチーム
関連ニュース :
記事をシェアもしくは保存
Copy link
Viberでシェア
前の記事 レッドブル新代表はトップレベルだ! レーシングブルズ新代表が元上司に太鼓判「特に人付き合いが非常に上手」
次の記事 激しい中団争いに変化アリ? レーシングブルズとアストンマーティンがベルギーGPでアップデート投入

More from
Stuart Codling

スタートで角田裕毅と絡んだサインツJr.、同郷アロンソとも接触。「無線で訴えて僕にペナルティを科させた」と恨み節
F1
F1
スペインGP
7 日前
スタートで角田裕毅と絡んだサインツJr.、同郷アロンソとも接触。「無線で訴えて僕にペナルティを科させた」と恨み節

モンツァではかなりやらかした……角田裕毅が語る、新世代F1の難しさ。エネマネ失敗で「これほど大きな代償があるとは」
F1
F1
イタリアGP
9 日前
モンツァではかなりやらかした……角田裕毅が語る、新世代F1の難しさ。エネマネ失敗で「これほど大きな代償があるとは」

ハミルトン、フェラーリに苦言「”俺たち”じゃないだろ!」 チーム内での交戦規定の整備を要求
F1
F1
イタリアGP
14 日前
ハミルトン、フェラーリに苦言「”俺たち”じゃないだろ!」 チーム内での交戦規定の整備を要求
最新ニュース

F1ドライバーのル・マン24時間出場は可能なのか? 2027年のF1スケジュール発表でその可能性が浮上
WEC
WEC WEC 12 分前
F1ドライバーのル・マン24時間出場は可能なのか? 2027年のF1スケジュール発表でその可能性が浮上

もう続けられない! 5位マルケス、ブレーキトラブルでリタイアの危機「運良く回復したけど、もう遅かった」
MotoGP
MGP MotoGP
オーストリアGP
1 時間前
もう続けられない! 5位マルケス、ブレーキトラブルでリタイアの危機「運良く回復したけど、もう遅かった」

ルクレール、F1シンガポールGPは漆黒のレーシングスーツを着用「光に照らされた夜」をイメージ
F1
F1 F1
スペインGP
4 時間前
ルクレール、F1シンガポールGPは漆黒のレーシングスーツを着用「光に照らされた夜」をイメージ

GT500ホンダ陣営、怒涛の3連勝でプレリュードは“シビック超え”。ランキングも2〜4番手に「最強パッケージに全力でチャレンジしていく」
スーパーGT
SGT スーパーGT
第6戦:SUGO
4 時間前
GT500ホンダ陣営、怒涛の3連勝でプレリュードは“シビック超え”。ランキングも2〜4番手に「最強パッケージに全力でチャレンジしていく」
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
次の 2 つのオプションがあります。
- サブスクライバーになります。
- 広告ブロッカーを無効にします。
購読中 すでに購読していますか? ここからサインインします
広告ブロッカーを無効にしましたか?
ページをリロード
お知らせの管理
登録