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コラム

“メルセデス王朝”は彼抜きでは語れない。離脱するPU責任者コーウェルが傾けた情熱

2020年7月、メルセデスのパワーユニット責任者アンディ・コーウェルがその身を引く。2014年から“無敗”を誇るメルセデスの活躍は、彼なしではあり得なかったかもしれない。

Andy Cowell with the Mercedes AMG F1 W06 Mercedes PU106-Type Hybrid

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Mercedes AMG

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 F1は2014年、V6ターボエンジンとハイブリッドシステムによって構成される“パワーユニット”(PU)を導入した。それ以降、メルセデスは圧倒的な強さを見せ、ここまで一度もタイトルを譲ったことはない。しかし、そのPU責任者であるアンディ・コーウェルが7月に退任するため、チームは真価を問われることになるだろう。

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 F1で長期にわたって黄金時代を築いたチームとして真っ先に挙げられるのが、1990年代後半〜2000年代前半のフェラーリである。彼らはミハエル・シューマッハー(エースドライバー)、ジャン・トッド(チーム監督)、ロス・ブラウン(テクニカルディレクター)、ロリー・バーン(チーフデザイナー)という“ドリームチーム”を結成していたが、PU時代以降のメルセデスの活躍も、こういった中核となる数人のメンバーの貢献が大きいだろう。

 メルセデスの黄金時代はまだ終わりを迎えていないため、そのドリームチームのメンバーを確定させることはできない。ただ今のところ、ルイス・ハミルトン(エースドライバー)、トト・ウルフ(チーム代表)、故ニキ・ラウダ(非常勤会長)といった面々の中に、メルセデスPUの第一人者であるコーウェルが名を連ねることに疑いの余地はない。

 コーウェルは先に挙げた3人と比べて知名度は低いかもしれない。しかしメルセデスのHPP(ハイ・パフォーマンス・パワートレイン)部門の責任者として毎年素晴らしいPUを送り出し、それをチームの強みとしてきた貢献度の高さは計り知れない。

 だからこそ、コーウェルが現在の職務を続けるつもりがないというニュースが飛び込んできた時、大きな衝撃が走ったのだ。

 もちろん、コーウェルが退任すればメルセデスの時代が終わる、という考えはあまりにも乱暴だ。しかしながら、チームに少なからず混乱を招くことは間違いない。

 コーウェルは少なくとも2020年いっぱいは、業務引き継ぎのために相談役としてチームに残る。しかし、いくらコーウェルが後継者への引き継ぎを万全に行なったとしても、長期的には彼の不在を実感するような場面がやってくるだろう。

Andy Cowell, Managing Director, High Performance Powertrains, Mercedes AMG F1

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 自らの手を汚しながらエンジンの各コンポーネントへの理解を深め、自分の下で働くエンジニアたちを鼓舞し、やる気にさせる……コーウェルがやってきたことは、誰にでも真似できるように見えて、なかなかできないことだ。

 コーウェルはこれまでに輝かしいキャリアを歩んできた。彼は大学卒業後、新卒でコスワースに入社。いくつかの部署を渡り歩き、やがてF1エンジンに専念するようになった。1998年にはCKエンジンのエンジニアリングプロジェクトを率い、1999年にはコスワースユーザーのスチュワートが優勝を飾った。その後、ウイリアムズとジョイントしてF1に参戦したBMWで働いた後、2001年にコスワースに戻ってきた。

 2004年にはメルセデス-イルモアに加入してV8エンジンのプロジェクトを支援した後、最終的にはERS(エネルギー回生システム)など初期のハイブリッド実験を含む、全てのエンジン・パワートレインのプロジェクトを率いるようになった。

 メルセデスがF1への取り組みを強化した際、彼らは2014年からのターボ-ハイブリッド規則がもたらすチャンスを理解していたため、エンジン部門を率いる人間はコーウェルしかいないと判断し、彼をHPPのマネージメントディレクターに任命した。

 その人事が成功であったかどうかは、彼らのその後の実績が物語っている。2014年の開幕戦でニコ・ロズベルグが優勝した際、メルセデスの代表としてコーウェルが登壇したことは、至極当然と言えることだった。

 現在のV6パワーユニットはファンから大いに歓迎されている訳ではなく、彼らはむしろ甲高い音を上げるV8、V10の終焉を嘆いている。しかしコーウェルはこのパワーユニットに情熱と誇りを持っている。エンジンの効率や耐久性について話す時、彼の目は輝いていた。

 確かに現在のPUは、1000馬力以上のパワーを誇ったり、驚異的なターボブーストで6速でもホイールスピンするような時代と比べると心震わせるものではないかもしれない。しかし、2017年にメルセデスが熱効率50%の壁を破り、史上最も効率的なレーシングカーエンジンを作り上げた時は、間違いなくF1の歴史に残る瞬間だった。

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The car of Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 W10, in the garage

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Photo by: Gareth Harford / Motorsport Images

 コーウェルはメルセデスのPU開発の中で、あらゆる限界を押し広げることに魅了されていた。エンジンの総合的なパフォーマンスを向上させるものであれば何でも、例えそれが単にコンポーネントを長持ちさせるためだけのものであっても、彼にとっては心を熱くさせるものだったのだ。

 筆者が印象的だったのは、昨年パリで開催されたFIAアワードでのことだ。コーウェルは、最終戦アブダビGPで完勝したハミルトン車に搭載されていた全てのPUコンポーネントの走行距離データを受け取ったとのことで、彼はそれについて私に話したくてたまらないといった様子だった。

 各コンポーネント(7281kmを走破したMGU-Kを含む)は、同年のル・マン24時間レースで優勝したトヨタ8号車のパワートレインを上回る走行距離を記録していたのだ。モータースポーツ界で最も耐久性に優れたエンジンの開発に成功したことは、コーウェルにとって大きな誇りとなった。

 またコーウェルは、史上最も複雑と言われている現代のパワートレインについて、筆者のような工学の専門知識を持っていないような人間にも分かりやすく説明することができた。私はこれまで彼と様々な話をしてきたが、仕事の話を始めた彼は止められなかった。

 F1の関係者の中には、現行のターボ-ハイブリッドシステムを廃止し、時計の針を戻すことを熱望している人間もいる。ただ少なくともコーウェルはその内のひとりではない。彼はモータースポーツに“電動化”の波が押し寄せている中でも、ハイブリッドに素晴らしい未来があると考えている。

 コーウェルは、F1はより気を引き締めて良い仕事をするべきであり、バッテリーを使うことだけが全てではないと世間に思わせる必要があると語っていた。

「F1のエンジンというのは、高効率の内燃機関と、高電圧でハイパワーな電気機関の見事な融合だ」とコーウェルは言う。

「“ERS”というのは何ともあっさりとした呼び方だが、これは“エネルギー回生システム”であり、つまり無駄になったエネルギーを利用しているんだ。レース前にディーゼルの発電機からエネルギーを充電しているわけではない。そのバッテリーは、排気ガスのエネルギーとマシンの運動エネルギーによって充電されているんだ」

「これはフォーミュラEよりも良い話だと思うんだ。だから我々にはもっとできることがある」

 その言葉はコーウェル自身にも当てはまると言えるだろう。メルセデスが彼の成功への道の終着点ではない。

 彼は今後どこへ行こうとも、その輝きを放ち続けるだろう。彼にできることはまだたくさんあるのだ。

 
 

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